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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
20/75

16:訓練開始

 霙が神聖魔法王国を出てから2週間。

 エリンの後悔と苦悩は続いていた。


「私、どうしてもっと早くドクターに渡さなかったんでしょうか」


 三杉魔道具店でエリンは三杉に言う。その手に握りしめられた魔道具を見つめながら……


「ドクターも霙ちゃんも最初から悪い人っていう『現実』になって……でも私達だけは霙ちゃんの魔道具のおかげで大丈夫……これって、私が早くドクターに霙ちゃんの魔道具を渡していたらドクターは処刑なんてことには……」


「やめろエリン。もう、どうしようもない……それにだ、早く渡していたからといって、実際どうなるかなんて誰にも分からない」


「でも、でも……」


「気持ちは分かる。俺だって、霙の作ったこれがどんな性能なのか、全く分からないんだからな」


 悔しいのは三杉も同じ、そして後悔の念を抱いていたのは彼らだけではなかった。


 そう、この少女も……




~幻想地域~


「紹介しよう。右から順にマルス君、その隣の女性がアテナ君。そして僕の息子のトールだ」


 どうしよ、戦の神全員集合ってかんじじゃん。

 というか蒼髪ロングの神様ってオーディンだったの!?


「あのなぁ北欧の主神様。俺の名前はマーズ! そろそろ覚えてくれよ」

「オーディン様、私は戦略の神です。剣術でしたら同じギリシャ神話のアレスさんに頼んでください」

「おやじ、俺さ、腹減ったから帰るわ」


(え~……オーディン人望なさすぎ……)


「はぁ~ということで僕直々に教えるとしよう」


「あ、ありがとうございます」


 一応オーディンは戦争と死の神である。


 そんな主神様との鍛錬は異常の一言に尽きる。

 彼の異世界の魔法『エインヘリヤル』によって、こっちは必至の必死。手足が千切れようとも腹の中身がぶちまかれようとも、痛みも苦しみもなく戦い続けられるというものらしいが、ようは死ぬまで練習。

 死んでも夕飯には蘇り、二人で食事。そして練習……死と蘇生……これの無限ループ。


 魔術も長けている彼はルケイの魔法も習得しており、イデアで一度だけ勝った後すぐにイデアを自分のものにしていた。

 彼曰く「僕は知識に貪欲でね、ゼロが君に注目しているのと同じで、僕も君に興味津々なんだ」


 魔法戦闘ですらこの違い。さすがは全知全能の神といったところで、ルケイの魔法ならば勝てると思っていた霙は早速しおれてしまう。


 武術については言うまでもなく、武器戦闘においては天泣・根雪・紫雲のいずれを使おうとも勝てない。

 二刀流や根雪と天泣または紫雲による変則二刀流も意味がない。

 だって、彼の使う槍は当然グングニル。刃先を向けた側に勝利をもたらす必中の槍。しかも投擲後は彼の手元に戻ってくるという便利機能付き……正直霙の姉妹武器が生命としての能力、つまりは自己回復能力が無ければ、霙は彼女達を一日目にして失うことになっていただろう。


「よし、今日はこのくらいかな。もどっておいで」


「───っはぁあ!! 死ぬかと思った」


「死んでたよ神無月。君はそのネタが気に入ったのかい?」


 霙のいた世界の言い方で言うなら、世界中の神話をごちゃまぜにしたここは、まさに混沌。基本的にはルケイの時間が流れてはいるものの、夜の神がルケイの太陽を隠せば夜になるし……またその逆も。


 霙の時間感覚は、おかしくなっていた。


「そういえばオーディン様はワインしか飲まないですよね」


「そう言う君は見た目によらず大食いなんだね」


「まぁ、昔から燃費が悪いんで」


 そう言って野菜炒めに箸を伸ばす。なんでもオーディンが天照大神に聞いて作ったらしい、知識に貪欲なオーディンらしいと霙は素直に、久しぶりの日本食をありがたがる。


「んっ……うげぇ、オーディン様……何か変なものでも入れましたか? この野菜炒め、すごく甘いんですけど」


「いや、アマテラスに聞いた通りに作ったぞ。間違っているはずない……あっ!!」


 オーディンは何かを思い出したように霙の後ろにあるテントの出入り口を見る。

 そこには、こっそりとこちらを見ながら笑いを堪えている長い紫色の髪をした少女がいた。


「ロキ! いたずらはやめろといつも言っているだろう!!」


 今の霙の感情に偏りは無い。しかし、一時期人格統一の為『紫色が大好き』という偏りを作ったことがあり、全体的に紫色で統一されたロキを横目で見た霙は大興奮していた。


「ムリャサキッ!!」


 目をハートにして幼女に跳びかかる変態。

 しかし相手が悪い。何故なら彼女は北欧神話のトリックスター。

 人間が勝てる相手ではないのだから。


「ふぎゃっ……うぅ~痛いよぉ~ロキちゃ~ん」


「アハハハハ……あ~おっかし、ヒヒヒ……あ、もうダメ。息できない」


 霙が跳びついたのは『ロキちゃん人形(鋼鉄製)』であった。


 しかし変態は諦めない。可愛いものを殺したり壊したりする人格ではないから、ただひたすらに可愛い幼女を愛でたい……ただそれだけで霙は何度でも立ち上がる。


「グニャ~!! 絶対に幼女をこの手におさめてみせる!!」


 続いて落とし穴。

 何度罠にはまっても立ち上がる霙は、ロキにとって最高のおもちゃだった。


「霙おねえちゃんは本当に面白いね。どうする?諦める?」


「まだまだこれからだよロキちゃん。私を舐めてると、痛い目見るんだからね」


 落とし穴にはまって動けない霙は軽くロキを睨む。

 するとロキは目をウルウルとさせ始めるではないか。


(あれ? 怖がらせちゃった?)


「ロキ、お姉ちゃんに虐められたくないから助けてあげる。だから私のこと、許して、霙お姉ちゃん」


「むふぅ~まったくぅ~ロキちゃんは素直じゃないんだから~」


 手を差し伸べるロキ。彼女の手を取り穴から抜け出す……その時。


「───嘘だよぉ~ えい!!」


 手を離され、押され、頭を穴の縁にぶつけ、彼女の策略にはまる。穴と共に


 ゲラゲラ笑うロキを見かねて、オーディンがテントから出てくる。


「行けグングニル」


 え、必中の槍?

 ちょっとそれはやりすぎでは?


 穴の中からそんなことを思っていると、ロキが穴に近付いてくる。


「はい、必中!」


 霙は目を疑った。ロキが私に見えるようにした芸当はまさに彼女の悪賢さが凝縮されていたからだ。


「髪の毛一本でも、私に当たったは当たったよね。痛いなぁ~貫かれちゃったなぁ~髪の毛さんも悲しんでるよ、お・に・い・ちゃん」


「まったく、お前という奴は……」


 こうして兄妹は戦争という名の喧嘩を始めた。近くにいる霙を巻き込んで……



 余談だが町のドワーフや妖精たちとも仲良くなった。

 彼らは全員『エルフ』だという話を聞いた時には本当に驚いた。だって、霙がエルフエルフ言ってた相手は妖精の一種であり『エルフ』とはそう言った幻想生物全般を指す言葉だったらしい……まぁとんがり耳の美しい女性も男性もエルフと呼び続けてるけどな。



 時は過ぎ、新年も明けたルケイ。

 2月10日に霙はこの異世界流しに遭った町を出ることにした。


「色々とお世話になりました」


「君も僕のおかげで中々の強さになったね……そういえばゼロのことを言い忘れてたけど、僕の意見を聞きたいかい?」


「いえ、多分私が考えていることが彼女の真実ですから」


「ならいいんだ。最後に君の『正義』を聞いてもいいかな? それが君が異世界流しに遭った理由だろ」


 神様は何でもお見通しだ。



 

~時を同じくして神聖魔法王国~


「三杉さん!!」


 エリンは一度は村に戻るも、医者が霙の仲間だったということもあり、家ごと燃やされていた。そのためエリンは三杉の家で生活している。


「何だよ新年早々」


「いつまでお正月気分なんですか! もう二月ですよ……じゃなくって、見てくださいよ」


 霙がいなくなり、霙が悪人扱いされてからというもの、三杉はどこか気が抜けている。新年が始まってからはなおさらダラダラしているが、唐突に菫や霙を思い出し泣きそうになったりと、エリンの気苦労は絶えない。


「新聞がどうしたよ……おおっ!! そうか、良かった。霙は無事なんだな」


 エリンの持ってきた新聞には『神無月霙討伐部隊、犯人見つけられず』と書いてあった。


「あの数日でどこまで逃げたんでしょうか?」


「まぁ、あいつなら何でもありだな。とりあえず良かった」


 本当は森のなかの結界内だったから見つからなかっただけなのだが、それを知る者はいない。


「それでね三杉さん。私、討伐部隊に入隊しようと思うの」


「え……エリン、何言ってんだ?」


「霙ちゃんの見つけるなら、討伐部隊に入るのが一番早いでしょ」


 白い髪に銀色の瞳。

 しかし、その目には赤く燃え盛る信念という名の炎が灯っていた。


「分かった。エリンがそこまで言うなら、俺は止めねえよ……ただな、ちゃんとこの家に帰ってこい。いいな、約束だぞ」


「うん。ありがとう三杉さん」


「それじゃあ、エリンが使えそうな魔道具をありったけつめておきますか」


 そう言って三杉は公房の方に行ってしまった。


「本当にありがとう」


 霙のいない間もエリンは鍛錬を積んだ。固有魔法と治癒魔法しか使えないのなら、その二つと体術を徹底的に磨くのみ……そう決心して毎日毎日、救えなかった人と救いたい人の為に努力を重ねた。


 彼女の楽しい旅を、絶対に邪魔させたりしないんだから。



~幻想地域~


「話したくなければそれでもいい。僕も君に無理強いするわけじゃないからね」


 そうはいっても、オーディンの目は爛々と光っていた。当然だ、彼は北欧神話で一番の知識の探究者である。知りたいことをそのまま放置するなど、本来の彼からは考えられないからだ。


「聞きたいんでしょ? 話しますよ……はぁ、()は最初、正義だけの世界を夢見ていました。犯罪も嫌がらせも虐めも貧困も……そういった人間を悲しませるようなことがない世界。せめて虐めや犯罪なんていう誰でも止めようと思えば止められることだけでも無くそうと思ってました。でも、このルケイに来てから気付いたんです。虐めや犯罪を止めるために、自分が彼らと同じことをしていいはずがないんだって……悪が無ければ正義もない。僕はそれに気付きました」


 数ヵ月霙と過ごしたオーディンは彼女の考えが少しでも壊滅的思想から離れていてくれたことに安堵する。


「それじゃあ、君はこれからどうするんだい?」


「そんなの他の僕たちに任せて、当初の目的通りにルケイを自由気ままに楽しみながら旅をします」


「なら、君に言うことは一つだけだ。良い旅を、貴方に神々の祝福があらんことを」


 ここを守る結界から一歩踏み出す。

 後ろを振り返っても、そこには人間が進めるような風景は微塵もない。ただ美しいベールがかかっているように見えるのは霙だけだろう。


 禁書:『賢者の書』にはこの世界を覆す内容が書かれていた。

 でも、()()()には関係ない。ただひたすらに真っ直ぐ進むのみ。


 霙は三杉から貰った黒の外套を深くかぶり、薄暗い森の中を進んでいった。


「試しにギルドでも入ってみようかな」


 新しい楽しみに期待を膨らませる。

 彼女の異世界生活はまだ始まったばかりなのだから。

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