表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
19/75

15:神々の秘訣

~神聖魔法王国:中央広場~


「これより! 神無月 霙(かんなづき みぞれ)に協力した女の処刑を開始する!!」


 目を隠され、手足を縛られ、耳には奇怪で不快な音の出る魔道具をつけられたエリンが広場の処刑台にいた。


 『賢者の書』はこの国の人ならだれでも知っている禁書である。いわば、この国の国宝なのだ。


「ん”ん”ん”~」


 今のエリンは魔法も使えない。魔法とは繊細な作業であり、高い集中力が必要とされる……故に耳元で奇怪で不快な音を出す魔道具が発明された。

 これによって死刑を免れようとする罪人による魔法攻撃を発動させないようにできる。


「いいか! 神無月 霙を絶対に許してはならない! 我らが神聖魔法王国の民よ! やつを必ず見つけるのだ!!」


 国王も死刑台の上から民衆を鼓舞する。


 賢者はあの本を人々に話してしまっていた。そして『ある魔法を創っている』とも……

 それが完成した日。彼は神ゼロによって殺された。


 誰かが見た訳じゃないけど、誰もがそう思った。


 噂では、彼の死体は右が色鮮やかに……左は白と黒に……染められ、死んでいた。


「「「うをぉおおおおお!!」」」


 民衆の高ぶりと共にエリンの首が大きな斧によって跳ね飛ばされた。


 ああ、私……死んじゃうんだ。

 霙ちゃんとの約束、守れなかった。

 三杉さんは今ごろ兵士に囲まれながら作業を強要されて、私の悲報を涙ながらに……


 ドクター。

 私をここまで育ててくれてありがとうございました。

 本当に親不孝者の私を……ありがとうございました。


 何も見えず。何も聞こえず。

 ただ宙を舞っているような感覚だけが永遠に続いている……そんな気がエリンを包んでいた。




「『天命への反逆(リザレクション)』!!」

 どこかで私の帰りを待っているアノ人の声がしたような気がした。


「お、おい! 何故こいつの首が飛ばないんだ!?」

「何をしているお前ら! これでは神無月 霙を殺すという志気が下がるではないか!!」


 戸惑う兵士と国王。

 彼らの期待させるような発言で、静かになっていた群衆の中から一人の男が大声で話し始める。


「見たか! みんな! 彼女も、彼女の仲間だという神無月 霙も『悪』ではないから神がお救いになった!! 諸悪の根源は何の罪もない乙女に罪を着せようとしたあの国王たちだ!!」


 ざわめく群衆。

 古来より異世界流しに遭った連中を、ある種の魔女裁判。つまりは娯楽の一種としていた時代もあったこの国において、死ぬはずの人間が死なないのは神が聖者を救ったと考えられてきた。


 聖者となった人間は国の中心人物となる。

 もちろん細工してニセの聖者を作ってきた歴史もあった訳だが、今回もそう……


「きっと賢者様も何かしらの理由があり、そして神はそれを望んでおられるからこそ彼女を救ったのだ!!」


「ぐ……おのれぇ、おい! 奴を捕まえて黙らせろ」

「し、しかし陛下」


 群衆は死刑台の上まで登り、兵士と国王を物量で飲み込んでいった。

 エリンを救い、群衆を味方につけた死道はその混乱に乗じてエリンを助け出した。


「おいエリン。大丈夫か?」

「……」


 返事は無かったが息はある。勿論飛ばされたはずの首も死道 殺気(しどう さつき)の異世界人としての能力『天命への反逆(リザレクション)』によって一時的に死なないようにしてある。

 後は治癒魔法で彼女の首を回復、再生してやるだけだ。

 

「大丈夫だぞ、これで大丈夫だ……」


 彼が安心したのもつかの間。


 世界の時間がとまった……否、死道がとめたようなものだ。


「はぁ~すごいよ君、どうやったんだい? 我に教えて欲しいなぁ……ふふっ」


「何なんだお前は」


「失礼な人間だなぁ~。僕はゼロ、この世界の神だよ」





~幻想地域~


「じゃあ、ここはどこ? さっきのエルフのお兄さん達は何? ここって紫雲(しうん)が読んでた絵本の中なの?」


「ああ、なるほど。君は多重人格ってやつなのかな?」


「タジュウジンカク? それ、お姉ちゃんたちも言ってたけどなぁに?」


「紫雲ちゃん。君とはいつまでも話していたいけれど、そろそろお別れだ」


「えぇ~もっと神様とお話ししたいよ~」


「僕は君のお姉ちゃんに用があるから、またいつか」


「うぅ~……」


≪パチンッ≫

 異世界の神が手を叩いた。


 瞬間、紫雲の目から光が消え、俯き沈む。身長が伸び体格が幼い少女から美しい乙女へと変貌していく。


「ん……あれ? 殺したイノシシみたいなの何処やったっけ?」


「君が神無月 霙さんだね」


「あぁん? あんた誰」


「異世界流しに遭った神様。僕は君と話がしたい」


 長くて蒼い髪の少年のようだった。

 しかし、彼から漂うこの感覚は……初めてゼロとワンに会った時と同じだった。


「了解した。君の話を聞いてやろう」


 神様相手でもまったく遠慮のない話し方。

 この神様が優しいことを見抜き、すぐに相手に気を使わせていく()


「君はこのルケイで天命や神の言葉を聴いたことはあるかい?」


「そんなこと覚えてねぇよ」


「僕は何でも知っている。そして、君は天命を受けていて、君のそのリュックに入っている透明な本にも『天命』のことが書かれているね」


 さすが神様。純粋に霙はそう思った。


 どうやら隠し事が通用するような相手じゃない。


「賢者スリート・ルーインも、そんなこと書いてたよ。私の天命は『私を楽しませてくれ』だったかな?」


 正直、あまり覚えていない霙であった。

 

「僕の天命……本当はゼロが直接頭に話しかけてきたんだけどね、あの神様は君のことを僕に教えてくれた。君がここに入ってくることも予言していた。そんなゼロは僕に何を頼んだと思う?」


「料理を教えてやれとか?」


「フフッ、違うな。彼女は僕に闘い方を教えてやれって言ってきたんだ」


 (あの死にたがりのモノクロオッドアイが!)


「君がそう心で毒づくのも分かる」


「え? どうして?」


「僕は神だよ、あのゼロとかいう偽物の神様とは違う。そして、君の心のが複数絡み合って混沌としているのも僕には分かる。あの神様とは違ってね」


 どうやら話を聞く必要があるのはコッチのようだ。


「なにから教えてくれるんですか?」


「少しは神様に対する礼儀ってものが分かってきてくれて僕は嬉しいよ」


「私も、必要ならあの神様を『()()()()()()』んでね」


 やはり殺人欲求の高い人格の様だな。

 蒼髪の男性神は理解する。


 (黙っていれば絶世の美女なんだけどなぁ~)


「君に神様の秘訣と、僕の世界の戦の神の教えを君に与えるよ」


 霙の好奇心がくすぐられ、霙の頭の中がじわぁあっと明るく広がる。


「よろしくね、異世界の神様!」


 また変わったか……いや、少しは共有しているのかな?


 神様すら惑わす混沌か、少しは君の気持が分かるよ……偽物の神様。




~時間停止中の神聖魔法王国中央広場~


「嘘つけ!お前みたいなのが神様な訳ないだろ!」


「どうしてそう思うんだい?」


「まず、神様はウチに前いた女みたいに一人称がコロコロ変わったりしない!」


「それは関係ないかなぁ~ だって私が全部作ったんだよ。我がどれをつかおうと、それは我の勝手じゃろ?」


 気持ちわりぃ話し方だな、まったく……アイツにそっくりだ。

 右目はぐちゃくちゃしてるし、左目はモノクロだし、何より服が純白だからなおさら目立つ!


「それにお前の見た目は神様っていうより、天使じゃないか」


「コスプレだよ。美しいだろ?」


「……じゃあ、なんでお前には『死』が存在してるんだ?」


「ほぉう、それがお前の能力か異世界人」


「自分でここに連れてきておいて覚えてないのか、ますます人間らしいな! 神様!!」


 死道はポケットから一本のナイフを取り出し、止まった世界の中で浮かび、こちらを見下ろしているルケイの神にその矛先を向ける。


「はぁ……ようこそ、私の世界へ」


 けだるそうなゼロ。

 気付けば死道は白と黒で交互に染まる世界に連れてこられた。


 ここはかつて霙が異世界流しに遭う直前にゼロとワンに異世界流しを伝えられた場所であった。


「――確信した。お前は神様なんかじゃない」


「どうしてかな」


 目の前の天使のような少女に向かって死道は吠える。

 後ろから迫る巨人など見向きもせずに


「お前だけなんだよ……俺の治癒魔法も、後ろの巨人も『死』は二つなのに、お前だけが一つしかもってねぇ!!」


 死道は振り返りもせず、虚空のナニカをナイフで切る。

 瞬間、後ろの巨人。ルケイの人々からワンと呼ばれる神が崩れて消える。


「なっ! なにをした!」


「ここには空気中に魔力がない。あの巨人はあんたが魔法で創ったもの、だからお前と巨人の魔力供給を『()()()』」


「分かった。もういい、死ね」


 ゼロが手を伸ばす。それだけで死道の胸に黒い闇が貫通し、死道の命を奪う……はずだった。


「『天命への反逆(リザレクション)』!!! これで! 俺はその攻撃では死ななくなった」


「くっ……貴様!!」


 神は自身の生み出した絶対上位の攻撃。つまりはルケイの魔法で死道を何度も殺すが、そのたびに死道の能力によって彼の死に筋は少なくなっていく。


「フフッ……見えるぞ。貴様のその能力は寿命を削るのだろう? ならば何もしなくてもいずれ死ぬではないか」


「……魔法が死ぬ理由は二つ。魔法が他の強い力で死ぬ、もしくはお前が死ぬ。この目は俺に『死』見せるが、寿命で死ぬ俺を能力で死ねなくさせると、この目には何が見えると思う?」


「もはや会話も出来ぬか、なかなかに面白かったぞ」


 色鮮やかな右目と白と黒が反転する左目がギラリと光る。

 攻撃が来る。


「すべての境界が見える……すべてを殺し、すべてを切れる。俺の目は、お前の死を確定させた!!」


 真っ直ぐ。


 ただただ真っ直ぐに走る。


 何度も死に、何度も蘇る。そのうちのいくつかは俺には通用しない攻撃で、焦ったあの少女の顔を見るとどうしても人間らしいと思う。

 それと同時に自分がかつて闘い、殺した『滅亡の運命(デストラクション)』の少女を思い出す。


 自分が目の前の天使のような少女に勝てないことは分かっている。それは『死』を見ることができ、『死』を何度も見てきた自分が一番よく分かっている。


 それでも前に進む。

 可能性は無限に広がっている。実力的に負けそうだからって、諦める理由にはならない。


「はぁああああ!!!」


 左腕を失い、腹には大穴。それでも突き進み、その喉元へたった一本の小さなナイフを突き刺す。

 一人の少女を想う気持ちが、神に届いた瞬間だった。


 そのナイフはエリンが初めて自分にくれたプレゼントで、いつも死道が肌身離さずポケットに入れていたものだった。

 あれから数十年。こんな形でこのナイフを使うのは死道の本意ではないが、仕方ない。


 純白の少女を殺すのは二回目だが、今回のは心と両目が汚いからなんとも思わない。


「はぁ、はぁ、やったぞエリン。俺、神様に勝っちまったぞ」


 ゼロはその白いワンピースを血に染めて、天使の翼と共に倒れた。


「『天命への反逆(リザレクション)』もあと少しで消える。最後にお前の顔が見たかったよ、エリン」





















「もはや会話も出来ぬか、なかなかに面白かったぞ」


 色鮮やかな右目と白と黒が反転する左目がギラリと光る。

 攻撃が来る。


「『夢中世界(ユートピア)』……説明ご苦労だったな。つまりは殺さなければいいのだろう」


 死道は動かない。いや、動けない。彼は今ごろ夢の中。


 その手に握りしめられたナイフは届かなかった。


「さて、ワンの正体を見破られ、私も危うく殺されるかもしれない相手だった。相性は悪かったが、まぁこのまま能力が切れるのを待つか」


 ゼロはこの異様な世界の時間だけを早める。しかし、どこまで時を加速させても死道は死ななかった。


「――これほどの能力だったとは、まともに戦えば私が負けていた……だと」


 死道の能力は彼自身が体感しなくては解除できない。だから、夢で死んでいても能力は解除されない。そして夢から覚まさせると、逆にゼロが目覚めた死道によって夢と同じ手順で殺される。


 いっそこの世界に幽閉したままでいようかとも思ったが、彼の最終能力のせいでそれも難しい。


 ルケイの時間は止まったまま。

 ゼロがエリンの処刑が失敗し、霙を倒そうという流れが断ち切られぬように現実の結果を『書き換えようとした』が、死道の覚醒した境界を見る能力とその境界に干渉できる能力によって今の世界と書き換えられた世界を分断され、時間停止という状態で収まってしまった。


 ゼロは死道を殺さぬ限りはルケイの時間を進めることもエリンの死を書き換えることも出来ない。


「ぐぬぬ……あの男め、よくも……あ、そういえば我が愛しの霙ちゃんが新しい魔法を作ってくれたではないか。あれならばすべてを解決できる」


夢中世界(ユートピア)』を解除。


「……なっ、貴様! 姑息な……・」


 我に返った死道を待っていたのは、皮肉にも彼が愛した少女の一番の友達が作り上げた新しい魔法だった。


「『そのままの貴方でいて(イデア)』……神無月 霙。君は私にとっての救世主か? それとも君が思っているような死神となりえるかな? ──楽しみに待ってるよ我が愛しの人間よ」


 見た目は一瞬で凍ったようだが、その実、この魔法は理想的な『死』を相手に与える魔法。

 死道は『天命への反逆(リザレクション)』を発動させる暇もなく、死に絶えた。



 だが、彼は守り抜いた。

 自分の愛する……娘のように愛した少女を守り抜いたのだ。


「あの男め!いったいどこまで私をバカにすれば気が済むのだ!!」


 世界を書き換えようとするもエリンが死ぬ結末には決してならなかった。

 死道の思いは神に届いた。エリンは死道の『天命への反逆(リザレクション)』によって死を免れている。そして彼は死に際に彼女が死ぬ未来を防ごうと夢の中でも、イデアを発動される瞬間も彼女の人生を守る事だけを考えていた。


『そのままの貴方でいて』


 この魔法には痛み無く一瞬で死に絶えさせるという霙なりの優しさと、その名の通りそのままの貴方の姿を保存するという二つの優しさがある。


 肉体はどうなろうともその心は変わらない。死道がエリンに使ったソレはまだ『死』を体感していない。

 何故なら彼はルケイで死んでいない。何故なら彼女の時間は止まったまま。何故ならルケイの世界はゼロの書き換えによって、元には戻せない。


 失敗であっても。あの時と微塵の狂いがなくとも、ゼロだけはパラレルであることを知っているから。

 

「ぐ……ぐっ……ぐぅぅううう!!!」


 血がにじむほどに歯を食いしばるゼロ。


 その姿を死道が見ていたらどれだけ喜んだことだろう。




~神聖魔法王国:中央広場~


「いいか! 神無月 霙を絶対に許してはならない! 我らが神聖魔法王国の民よ! やつを必ず見つけるのだ!!」


 国王も処刑台の上から民衆を鼓舞する。


 賢者はあの本を人々に話してしまっていた。そして『ある魔法を創っている』とも……

 それが完成した日。彼は神ゼロによって殺された。


 誰かが見た訳じゃないけど、誰もがそう思った。


 彼の死体は、右が色鮮やかに……左は白と黒に……染められ、死んでいた。


「「「うをぉおおおおお!!」」」


 民衆の高ぶりと共に『()() ()()()』の首が大きな斧によって跳ね飛ばされた。


「「「うぉぉおおおおお!!!!!」」」


 更なる高ぶりを見せる群衆。その中にはエリンもいた。


「霙ちゃんがあんな悪人だったなんて、しかもドクターまで……私はいったい、誰を頼れば……」


 ゼロによって書き換えられた世界。

 変更点は二つ、一つは処刑されたのは死道 殺気。もう一つは、この処刑完了によって神無月 霙が悪人であるという洗脳。


 最後に死道の能力によって、エリンはゼロの手では死ななくなった。


「いいか! 民よ! 我々神聖魔法王国軍は神無月 霙討伐部隊を編成中だ! もちろん義勇兵も募集している。勇敢なる我が民よ! その力を私達に貸してくれ!」


 国王の演説に民衆がさらに盛り上がる。

 エリンは自分が騙されたと、その怒りを義勇兵として霙に与えてやろうと他の義勇兵志願者と共に城へ向かおうとする。


 が、首にかけていた魔道具が光り輝く。


「ん? ……あ、あの女の……こんなものっ!」


 エリンが霙の作った魔道具を地面に叩きつけようとした瞬間。魔道具の効果が発揮される。


「あっ……え、何で……どうして……」


 エリンは群がる人達の流れから抜け出し、人目に付かない路地裏で一人泣いていた。


「ドクター……いえ、サツキさん。霙ちゃん……どうして私を置いていっちゃったの……」


 ゼロの洗脳にかからなかったのは霙の魔道具を持っていたエリンと三杉だけ。

 二人とも、瓶のなかの紙切れが薄青白く、ほのかに光っていた。


 死道と霙。

 二人とも、愛する者への思いは神にすら防ぐことは出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ