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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
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13:旅立ち

 霙の誕生日から数週間が経ち、三杉に頼んでいた『魔道具』達が出来上がった。

 頼んだ武器は三つ。一つはナイフ、もう一つは日本刀、そして最後は……


「なぁ霙、本当にあれでよかったのか?」


「うん、ありがとう師匠」


 王国は巨大魔獣『大亀』討伐を祝って祭りが始まっており、討伐から数週間経った今もその賑やかさは消えそうにない。


「今日で霙ちゃんともお別れなんですよね」


 エリンさんには本当にお世話になった。

 王国に残って霙に三杉が昔使っていた一般魔法の教科書片手に、魔法を教えてくれたのだ。

 霙は飲み込みが早く基礎的な魔法を習得すると、あっという間に上位魔法を使えるようになった。


 三杉にも感謝を。

 王国の祭り期間中、一部の店を除いてすべて休業となっているので三杉は公房の更に奥にある特別な部屋で霙の武器を造ってくれていた。


 なんでも企業秘密だから中を見せてくれることは無かったが彼が特別公房から出てきた時の苦しそうな表情を見ると、本当に大変な作業だったのだろう。

 そして彼の造った武器を見ると彼の技量の素晴らしさが伝わってくる。


「大丈夫だよエリン。また会えるから、これは私の予感もとい予言だよ」


「うん、霙ちゃんの言うことはまだよくわからないけど、いつかまた会えるよね」


 ここは神聖魔法王国の出入り口。霙は三杉からもらった大きなリュックと黒のフード付きの外套を身にまとっており、その表情はあまり見えない。


「いいか霙。安全が分かるまではそのフードを外すなよ、人によっちゃあ流人と分かるや否や殺しに来る奴もいる。お前ら流人は長くこの世界で生活しない限りは雰囲気とか臭いでばれるからな」


「了解」


「ねぇ、霙ちゃん」


「ん?」


「聞いてもいいかな?」


 なんだか分からないがエリンがモジモジし始めた。見た目の大きさとのギャップに思わず「可愛い」と思ってしまう。


「刀とナイフは分かるよ、私もナイフ使ってるし刀を霙ちゃんが一生懸命レプリカで練習してたのも知ってるし……でもね、どうして三つ目の武器が『()()』なの!?」


「そうだぞ霙! しかも自分の武器に名前も付けずに作者である俺の前から居なくなるなんて許さんからな!」


「三杉さんのそれは関係ないでしょ。私は、どうして霙ちゃんが『()()』なんて扱いも使い勝手も悪い武器を三杉さんに造らせたのかって話で……」


「関係ないことないだろぉ! 『()()』みたいなこれから一生の内で一度も使われないような武器に名前も無かったら愛着もなく捨てられるか売られるだけだろうよ!」 


 どうやら二人とも、私が大鎌を造らせたことが気がかりらしい。


「言っておきますけど、大鎌が私のメイン武器ですよ」


「「え??」」


 二人の声が重なった。


「霙ちゃん、本当にいいの?」

「霙、そんなに俺の造った武器が信用できないのか?」


「はぁ、そんなわけないじゃないですか。いいですか、理由は二つです。一つはこの世界に魔法があり、白兵戦では敵の魔法攻撃を受けるため盾や大きな盾が必要であり、鎌は唯一上から攻撃できるから」


「もう一つはなんだよ」


「私が好きだからです」


「「はぁ……」」


 またしても二人の声が重なった。


「霙ちゃんのことですし、まぁそんな気はしてました」

「とりあえず名前は付けてやってくれ。そうじゃないと俺のこれからの仕事に支障が出る」


 なんだか二人とも、私の扱いに慣れ始めた?


 急ぐ理由もなく、霙は三つの武器の名前を考え始めた。


「同じ素材ですし、姉妹品的な意味で私の妹達の名前でもいいですか?」


「あれ? 霙ちゃんって弟しかいないんじゃ……」


「ああ、心のなかの妹達です。彼女達には本当に救われました」


 エリンと三杉はそれ以上何も言わなかった。

 だって、彼女には彼女なりに助かろうとした結果が異世界流しに遭う理由となってしまったのだ。これ以上彼女をどうしようという心は彼らにはない。


「まず、武器的に一番強い日本刀は二女『天泣(てんきゅう)』です。横から見る、彼女を正面から見ないものには曲がっていますが、正面から見ると彼女が真っ直ぐであることを分かってもらえます。一番短い武器は四女の『紫雲(しうん)』です。愛らしさと鋭く真っ直ぐな心は彼女そのものです。命を刈り取る歪んだ武器、折りたたみ変形式鎌は三女の『根雪(ねゆき)』です。あの子の性格というか、執念深さというか……あの子にはぴったりです」


「折りたたみ変形式?」


「ふっふっふっ……エリンは知らなかったな。見せてやれ霙、我が最高技巧の作品のすばらしさを!」


 三杉がそう言うと、霙は背中側……腰に付けた留め具から長方形の物体を取り出した。


「これが大鎌ですか?」


 霙が魔力を流すと、長方形の物体は変形して大鎌となった。


「すごい! すごいです三杉さん」


「そうであろうそうであろう……腰の留め具、そして武器の材料はすべて『大亀』で出来ており、親和性と再生能力、その固さと柔らかさを最大限に使った至高の品々。取り外しはすべて魔力を込めるだけ、敵に刀を奪われても魔力を少し込めておくだけで刀と(さや)が結合して抜くことが出来なくなる。俺の固有魔法『生命帰還』によって成し遂げられる最高の武器!」


 最初は平和ボケした連中などと思っていたりもしていたが、ここまでの気遣いと最高の武器。職人として、一人の人間として、霙は三杉とエリンをいつまでも尊敬するだろう。


「エリン、師匠、本当にお世話になりました。こんな私を助けてくれて、こんな私に優しくしてくれて、本当にありがとうございました。私が王国を出るのは単純な異世界への興味だけど、私が戻るべき場所はエリンと師匠と最初に私を救ってくれた医者のいるこの場所です」


「まぁ私とドクターは村にいますけどね……」



 三杉とエリン。

 エリンは霙を優しく抱きしめ、三杉は二人の肩に手をのせている。


「絶対、絶対に生きて帰ってきてよ」

「そうだぞ、うちの魔道具店の跡継ぎはお前なんだからな」


「ありがとう……実はね、二人に渡したいものがあるんだ」


 そう言って霙がポケットから取り出したのは(くさり)の付いた小瓶。中には破られたような一片の紙が水の中にあった。


「初めて作った魔道具。効果は言えないけど、いつか絶対に三人の役に立つから肌身離さずつけていて」


「ドクターにもそう言っておく。ありがとう霙ちゃん、大切に使うね」


「ほら、これは俺からのプレゼントだ」


 三杉が取り出したのはなんと指輪だった。


「え、三杉さん?」


「かっ、勘違いすんな、これは俺の師匠が作った顔以外の肉体を多少変更できるっていうおかしな指輪だ」


「ふふっ別に私は師匠でもいいですよ」


 含みを持った悪魔の笑み。


 霙は指輪を左人差し指にはめた。

 

「霙までからかうな。その指輪は俺の師匠が女湯に入ってもばれないようにって作ったもので、その指輪でガチムチスキンヘッドだった俺の師匠の身体は女と同じようになり、髪の毛も自由自在に……まぁ顔だけは変えられず、すぐに捕まったんだ……まぁ寿命でもう死んじまったから、これは霙にやる。これがあればお前の中性的な顔でもって男にも女にもなれるわけで、正体がバレずらくなるだろ」


「大切にするよ。それじゃあ、いつかまたここで会いましょうね」


 霙の別れの言葉はそっけなく、霙は一度も振り返ることなく真っ直ぐに進んだ。

 どれだけの時間が経とうと、その先に何かがあるかどうかも分からないが、この日霙が後ろを振り返る事だけは無かった。

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