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異世界流しに遭った私の異世界生活  作者: プニぷに
第一章:新世界
12/75

10:いざ王宮へ

~大亀討伐まで4日~


 一昨日、昨日とエリンさんには氷系魔法の練習に付き合ってもらった。

 表面的であったり、自分の子供をボコボコに痛めつけておいて謝りながらしてくる母親の(きたな)く、(みにく)く、(けが)らわしい『アイノカタチ』とは違って、(みぞれ)は初めて人間の愛に触れたのかもしれない。


 そんなエリンの献身的な支えのおかげで何とか初期氷魔法は使えるようになった。


 この世界で言う『魔法』と『魔力』について。

 ゴーストタウンで貰った透明な本:『賢者の書』。そこには賢者のことや、彼が創った『魔法』という概念のことなどが書かれていて、彼曰く『魔力』とは神がこの世界を異世界から流されてくる罪人から守るための力であり、神そのものである。

 故にこの世界の人間は根本的にすべての魔力を操り、魔力によって己の身を守ることが出来る。だが、神の力は人間である我々には到底制御できるものではなく、魔力を自在に操ることが出来る者は私も含めて2~3人程度だと思われる。


 私は神の恩恵をすべての人類に平等に与えたいがために『魔力』の研究を始めた。魔力をある程度自分の自由に操れる稀有な人材をかき集め、自分の神の力と照らし合わせた。

そうして出来たのが『魔法』である。

 『魔法』は誰でも使える『神の力』。魔力を操れぬ人々が大半なのは、魔力を外から取り込むという感覚の欠如や取り込んだ魔力を自分の力として感じる能力が足りていないからだと私は判断した。


 何故か。

 私が『固有魔法』と名付けた能力を持っている者は一番『私』に近い。彼らは先程書いた感覚が人より優れていたり、生命的窮地に立たされ本能的に『神の力』を操れるようになった者たちである。そしてそこには明確な目的があった。『あれがこうなれば……』という具体的かつ目に浮かぶほどの想像力でもって、この世界に溢れる神の力を具現化し自分のものとしたのだ。だからこそ、あの二つの感覚は必須条件だと私は判断したのだ。


 私は集めた『固有魔法使い』を筆頭に『神聖魔法(しんせいまほう)王国』を作ったのだ。

 神聖魔法王国で私がやったことは簡単で、魔力を操り神の御業を一般的な人間に見せて「これは練習すればだれでもできる」と言い、彼らに『魔法』として教えたのだ。



 ───私がここまで研究できたのも、魔力……神の力を感じる感覚に富んでいたのも『魔力を見ることの出来る魔眼』てでもいうべき能力があったからだろう。我が妻には私と同じものにコレを渡せと常々言ってきた。

 これを読んでいる君も()()()()()()()()()()()()




 悲しいかな。どこにでも『本能的な天才』はいるのだな、と霙は思った。分かってしまう自分が嫌いな霙は自分が知らないナニカに焦がれていた。そして今はこの楽園にいる。


「……(すみれ)に確認をとるべきなんだろうけど、まぁいいか。とりあえず今日はコッチがあるし」


 霙の手にある手紙。

 それは霙が菫に頼んでおいた『大亀狩りの参加資格』についての手紙が現国王直々の署名とともに三杉(みすぎ)の魔道具店に送られてきたのだ。


「霙~そろそろ時間だぞ~」


 下から三杉の声が聞こえる。

 霙は手ぶらのまま下の階に降りる。


「それじゃあ師匠、エリンさんが帰ってきたら今日のこと言っといてください」


「何で自分で言わなかったんだよ?」


「だって……氷魔法のことで頭がいっぱいで……」


 無表情のくせに恥ずかしそうに顔を隠す霙を三杉は達観していた。


(霙って演技派だよな~ なんていうか人を支配する能力に長けてるというか……まぁこの演技はいただけないが)


「はぁ~ ……分かった。くれぐれも失礼のないようにな」


「はーい」



 高い壁と塔。おとぎ話にでも出てきそうなお城……まぁ異世界だしおとぎ話なかなのかもしれないけどさ、やっぱりすげえよ。

 心の中でそう呟きながら、霙は右側に見えた塔を注視する。


「招待状を確認させてください」


「……ん、ああ悪いね」


 槍を持った門番に手紙に同封されていた招待状を渡す。


「神無月 霙さまですね。どうぞ、国王陛下がお待ちかねです」


 正直、討伐隊に参加できるのは分かってるし『固有魔法』を持ってるっていう姫様に会いたいな。



「異世界流しに遭って礼儀作法も分からぬだろう、許す。好きにそこに座るがよい」


 下にいた門番に促されて、霙は大きくてゴテゴテと絵や彫刻の並ぶ廊下を歩き、階段を上り、いわゆる玉座まできた。

 そこにいた国王は霙が思っていたようなひげもじゃの老人ではなく、勝気そうな若い男性。


 優しい国王は霙に椅子に座るように言ってくれた。


「…………」


 緊張など微塵もしていないくせに緊張した人間の振る舞いをして椅子に座る霙。

 こちらはお願いする立場、であれば国王を前に恐縮するのは当然のことで、できないのなら演じるだけのこと。霙の考えとは裏腹に、物事は何でもかんでもうまくはいかない。


「正直に話そう。我々には『固有魔法:絶対防御』の姫がいる。それ故、お前をわざわざ討伐隊に入れるのは菫様の頼みであっても難しい」


「ぇ~……」


霙は国王に聞こえないように小声で驚いた。


「だが、我々は防御に絶対の自信はあるものの攻撃には『絶対』というほどの自信はない。お前を隊に入れるのであれば、お前が攻撃に対するそうとうな実力者である必要がある。どうだ? 巨大な大亀を一撃で倒せるほどの力がお前にはあるか?」


 国王は私がこの世界の礼儀作法を知らないから、好きにしてもいいと言ってくれた。

 霙はあの時の言葉をそう解釈し、豹変する。


「当然であろう。我輩(わがはい)は貴様ら人間からバケモノと恐れられるイキモノだぞ? なんなら魔法など使わず、素手でこの城で最強の兵士に勝ってみせてもいい」


 あえて挑発する。

 霙には大亀討伐に当たって少しばかり企みがある。武器の為の材料ともう一つ……


 城に入った瞬間、霙の目と感覚が伝えた情報は『あの塔に異常なまでの魔力がある』ということ。恐らくあの塔に固有魔法を持った姫がいるのだろう、はっきり言ってこの城に姫以外に霙が負けそうな人間はいないように思えた。

 だからこその挑発。


「面白い。いいだろう神無月 霙、貴様に我が王国最強の『攻撃』を見せてやる」


 国王が後ろにいる兵士に合図すると、霙は闘技場の様な場所に連れていかれた。

 残念な事に霙は方向音痴どころか地図もダメな人間であり、自分が城のどの辺にいるとかどこから入って来たとかいう情報は全く頭に入っていない。


 どんなに美しく魅力的で才能に溢れている霙でも、こればっかりは生涯を通してダメダメなままだろう。


「ふ~ん、貴方達二人が相手してくれるの?」


 一人はいかにも魔法使いといった女性。黒いドレスに黒くて大きい帽子。何より胸がでかい。

 一人は重そうな防具を纏った青年。まだ幼さが残る顔だが、彼から放たれるオーラは幼さを感じさせない程に重圧的だった。


「これから一対一の試合を三人に始めてもらう。ルールはこの練習場のみでの戦闘、神無月 霙は武器と魔法の使用を禁止、お前ら討伐隊は全力でもって彼女を倒せ。彼女は流人だ、だから殺してしまっても構わない」


「分かりました」

「了解ですわ」


 練習場は霙からするとコロシアムみたいで、円状の会場にそれを囲むように作られた階段椅子。まさにローマを代表する円形闘技場そのもののように思えた。


「じゃあ最初は私からやらせてもらうわ」


「おっぱいが重くても闘いに支障はないの? 魔法使いってタイマンで戦う職業だとは思ってなかったんだけどなぁ~」


 霙が軽口をたたいている間に青年の方は出入り口の方に避け、扉を閉めた。

 互いの距離は5メートル程。扉が閉まると同時に開戦となった。


「土よ! 隆起せよ!」


 彼女は土を盛り上がらせての攻撃をしかけながら、遠距離を保つための壁を作ったのだ。


 だが、それは同時に霙を目視することが出来なくなるということ。

 どこから霙が来てもいいように魔法によるトラップがあったが『魔力を見る』ことが出来る霙にとってはトラップの場所を把握することなど造作もない。


 相手の視線が消えた瞬間に霙は自身の俊足と眼によって魔法でトラップを作りながら距離をとる魔法使いに接近する。

 トラップを作るのに3秒。重い胸を揺らしながら距離をとりトラップを作るのに5秒。


 霙は自分の靴を魔法使いから一番遠い場所にあるトラップに向けて投げる。瞬間、霙は魔法使いに攻撃を仕掛けるため、彼女が作った土の壁をよじ登る。

 霙の靴が触れたトラップは爆発した。トラップをわざと起動させた霙も少しだけ驚き、隙を見せるが反対側の魔法使いが知る由もない。


「……」

「なっ!?」

 

 敵がすぐ近くにいるとは気付かずに悠長にトラップをこしらえていた魔法使いは突然上から殴ろうとしてくるソレに向かって腰の杖を突きつけようとするが、もう遅い。


「ギャハッ!!」


 気持ちの悪い嗤い声と共に魔法使いは霙に殴られる。

 そのまま倒して馬乗りになる霙だったが、上から見ていた国王の一声によって戦闘終了。


 魔法使いが使用したトラップが『爆発』であったおかげで霙は壁を上る音を少しだけ隠すことができ、魔法使いの意表を突くことが出来た。

 もしも彼女が壁など作らず、正面から魔法による面攻撃を行っていたら確実に霙は負けていただろう。

霙の運が良かったのが半分。残りの半分はこの異世界特有の『戦い方』の違いだろうと霙は推察する。流人は『魔法』でも『特殊な武器』でもない特有の『能力』を持っているという霙に対する誤った認識。


 国王が禁止したのは『魔法』と『武器』であって『能力』は禁止されてはいない。彼女は霙に対して何かしらの『能力』で攻めてくると思ったからこその戦術だったのだろうが、()()()()()である霙に対しては、その戦術が裏目に出てしまった。


「さぁ、次はあんただよ」


 腫れあがった頬を押さえながら魔法使いは出入り口を開け、外に出ていく。

 入れ替わって出てきたのは先程の青年。


「自分は、たとえ相手が美しい乙女であっても一切躊躇などしない。覚悟するんだな『流人』」


 随分と『流人』という言葉を強調してきたな~などと感じている霙。過去に流人に彼は何かされたのだろうか?


 幼さの失せた兵士は腰から目視で刃渡り90cm程の西洋両刃剣を引き抜く。


「間合いの関係上、君の方が断然有利だけど……これで私に負けたらどうする気?」


「…………」

 

 青年は答えない。


「…………」

 

 霙は集中力を極限まで高めようとする。攻撃する前が()()()魔法とは違って剣は一瞬の隙が命取りとなる。


 青年の後ろで重そうに魔法使いが扉を閉める。扉の閉まる音は集中状態の彼らには届かなかったが、お互いに同じタイミングで『始まった』と感じた。

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