勇者召喚の巫女
勇者様達に捨てられた私は、暫く呆然としていました。
私は、勇者様を召喚出来ると言う事以外、何の取り柄も無い娘。
だから、これは、仕方が無いのです。
何も出来ないのに、寧ろ、足を引っ張ってしまうのに、勇者様に同行した我儘な女。
それが、勇者様達の共通認識だったでしょう。
特に、妹は……。
何でも出来る上に容姿も良いにも関わらず、私が、長女と言うだけで勇者召喚の儀を行える巫女である事を妬んでいた妹は、勇者様に懸想している事もあり、私を邪魔だと思う気持ちが強かったようです。
だから、これは、仕方が無いのです。
私は、胸の痛みに耐えられず、崩れ落ちました。
去り行く勇者様達に、私は言わずにいた事があります。
それは、代々の巫女にしか伝えられていない事。
実は、巫女から離れれば離れるほど、勇者様にこの世界の言葉が通じなくなるのです。
ですが、言葉は覚えれば良いだけの事。
確かな絆を育んだ勇者様達なら、大丈夫でしょう。
それよりも大変なのは、巫女から離れれば離れるほど、勇者様の力が弱まる事です。
巫女を通じて、勇者様に神の力が流れ込んでいるからだそうです。
ですが、勇者様ならば、きっと、大丈夫でしょう。
ああ、寒い……。涙で何も見えません。
ですが、これは、仕方が無いのです。
そう言えば、今後、この世界はどうなるのでしょうか?
私は、継承の儀を行っておりません。
先代巫女の母も、先々代巫女の祖母も、もう何年も前に神様の元へ行ってしまいました。
妹も、どうせ、私を捨てるなら、勇者召喚の儀の継承をさせてからにするべきだったのに。
今回は大丈夫だと信じていますが、次回は、魔王に対抗する手立てはありません。
人類は、その時に滅ぼされてしまうのでしょう。
それは、仕方が無い事なのです。
もう……咀嚼音も微かにしか聞こえなくなりました。
私は、間もなく神様の元へ行きます。
勇者様は、力を失うでしょう。
それは、仕方が無い事なのです。
ですが、きっと、大丈夫。
もしも、無理だったとしても、仕方が…無い……こと………ですよ…………ね。