そろそろ何かが起きたようですね名探偵
さて、たっくんとよくわからん会話を終えて、一ノ瀬を叩き起こして今は昼だ。
太陽なんてとうにてっぺんに到達し、俺たちを突き刺さんばかりに光を落としている。室内だけどね俺たち。
まあだから結局朝飯を食わなかった俺と一ノ瀬はいい加減腹減ったな~なんて考えつつ、それでいながらも今も、部屋にいて寛いでいるんだ。腹減っても動きたくないってあるよね?ない?あそう。俺はあるね。
しかしさすがに寝間着のままという訳にもいかず俺はジャージを脱いでパーカーを来て、その上から制服を着る。一ノ瀬もスウェットを脱いでセーラー服に。いやもちろん別々にですよ?俺は部屋に備え付けられた浴室で、一ノ瀬はそのまま部屋で着替えた。脱衣所じゃないよ?浴室ね?ひどくない?
にしてもこれで二度三度と見たことになるがここの浴室は、思ったよりも普通だった。普通の浴層に、普通にシャワーがあって、普通にシャンプーとか置いてある。まあホテルとかとイメージするとそうだろうな。まあ俺たちからするとホテルでまあ間違いないが。
でもいくら着替えたからと言って動きたくないのは変わらない。一ノ瀬はこの島に来てからというものほぼほぼ何もなく、黒百合さんが俺たちをここに集めた理由もはっきりとは話してくれず、そのせいで、一ノ瀬は完全にやる気をなくしてしまっていた。一日中部屋にいる。飯以外部屋から出ない。引きこもりのそれだ。羨ましい。
かくいう俺だって元より活発に外へ出歩こうって質じゃないもんで一ノ瀬同様、飯以外ほとんど部屋から出ない。たまに楠本やメイド三人衆、黒百合さんが顔を見せに来て話をするくらい。もちろん相手をするのは俺。やる気が失せた一ノ瀬はもう、誰かと接するのも面倒に思い始めているまであるのだ。
「帰りたい」
うんこんな感じに独り言をいうくらいにはね。俺が帰りたいよ。
ちなみに一ノ瀬は今、起きたというのにベッドで横になって何やらスマートフォンを見つめている。こいつメールする相手とかいんのかな。俺はいない。今日も自虐が冴えわたるぜ!
ちなみついでにちなみ重ね、俺はまあ友達いないからさ、どうしても脳内妄想で会話しちゃったりすんの。もちろん内容は普段の日常に対する愚痴とかなんだが交友関係皆無な俺は愚痴の内容なんて俺自身の事しかないまである。最近は一ノ瀬のせいでストレスも多いからそっち系も愚痴の対象で脳内会話の種だったりするんだがやっぱりね、慣れてないから自分に返ってくるんよ内容が。その内容は大概自虐。友達出来ない俺自身への罵倒だとか、皮肉だとか、まあそういうの。俺の人生やばい。
「さてと」
一ノ瀬は突然体を起こしてスマホをセーラー服のポケットにしまうとそんな風に俺を振り返った。
「助手よ。ご飯」
そうだな。時間も丁度良く十二時を少し回った所だ。飯時にはもってこいだ。何より俺も腹減った。
行きますかね。
俺も寝ころんでいたソファから立ち上がってスマホをポケットにしまう。
腹減った。
まあそんなこんなで今は食道?初日に案内された円卓の部屋まで行って、すると珍しい事に今回は全員が揃っていた。今までの三日でこんなことは一度もなかった。皆バラバラに好きなタイミングで飯を食いたがる。俺も一ノ瀬もそうだった。だから楠本は一日中ずっとキッチンの方から出られず忙しく調理や仕込みに追われていたし、メイド三人衆もそれの手伝いでせわしなくしているのを何度か見ている。ごめんね!まゆみさん!
それはともかく、とりあえず、何かあったのか?さっきも言ったがここの連中は俺も含め自己中で自分が中心に世界が回ってんじゃねえのって考えてるかもしれんくらいだ。天才とかそういう奴はみんなこうなのかね?
まあ科学者や大手会社の社長、御曹司、何でも屋、占い師、職業不明のガキだとかそんなわけわからん奴らだ。やっぱ普通とどっかずれてんだろうよ。
「あら一ノ瀬様と助手の方!あらあらまあ、今日もお休みなさるかと思っておられたのでお声かけさせずに頂いたのですが、これはむしろ都合がよろしいです。これも何かの啓示なのかも知れませんね」
そんな風に全員が揃った状況に少し意外だなあだなんて考えて立ち尽くしていた俺と一ノ瀬に話しかけてきたのは黒百合さん。今日も、天然の金髪に真っ赤なドレス。お金持ちオーラ全開である。
黒百合さんは俺たちを見てくすりと笑顔を浮かべると俺たちに「さ、どうぞお掛けになって」と俺たちの席であろう空席を指した。まあ初日と同じ席だけどな。みんな、どういう訳か初日の席に着いているし飯の時も何故かみんな初日の席で飯食ってた。まあわかるよ。慣れない所だったらなんか縄張りじゃないけど一度自分が落ち着いた場所って何か手放せないよね。
俺たちは黒百合さんに頷いて席に座る。それを見届けてから黒百合さんは仕切り直すように咳ばらいをする。するとそれを合図にしたように俺たちの席にそれぞれ楠本が作ったであろう料理を並べていたメイド三人衆、加えてメイド長の神森さん?黒百合さんの背後に回り、俺たちに向かって一礼する。うーん一家に一人欲しい。もちろんまゆみさんで。
「さて、皆様にお集まりいただいたのは他でもございません。この島、否、私自身についてでございます。食されながらでも構いませんのでどうかお耳を傾けて頂きたい」
片手を上げながらそう言う黒百合さんだが誰もそんな振られ方をした話をながらで聞けることもないだろう。俺だってさすがに黒百合さんの話を聞く体勢になったし一ノ瀬だってそうだ。真剣に話を聞こうと前のめりになっているはずだ。
「お、これ上手いぞ!助手食べてみたまえ!」
……そうでもなかったらしい。
「おい一ノ瀬。話を聞きながら食うのはさすがに失礼だ。止めんか」
そう言って俺の横で楠本の料理にがっつく一ノ瀬の手を掴んで無理矢理箸を止めさせる。なんてはしたないのこの子。いつもそう!お母さんそんな風に育てた覚えはないわ!
「育てられた覚えもないよ……」
うるせ。
「いえいえ構いませんよ助手の方。皆様もどうぞ楽になさって」
一ノ瀬のがっつきにみんな毒気が抜かれたのか黒百合さんの言葉に嘆息をついてゆっくりと箸を手に取り出す。瀬戸大輝とかいうガキと魔女だけは変わらず黒百合さんを見ている。いや魔女の場合は顔の向きだけしか判断できないから瀬戸大輝だがあいつはなんか、ずっと黒百合さんを睨みつけている。しかもその目は、たっくんと似て、いやもしかしたらそれ以上に、腐っているというか、死んでいるというか。なんか沼を覗いてるような気分になる。そんな目で、黒百合さんを睨みつけている。怖いよ何あの子。
黒百合さんは二名を除く外全員が箸を手に取った(俺はとっただけでまだ食ってない。一ノ瀬は非常識すぎる)のを確認すると頷いて、口を開いた。
「さて、ではお聞き願いましょうか」
そういう黒百合さんに、さすがにみんな箸の動きがまた止まった。しかし今度は黒百合さんも何も言わず話を続ける。
「皆様もご存知のはずです。この島で昔起こった事件の事を。それを調べていた方を、優先して招待させていただいたので」
言って黒百合さんは胸の前で両手を繋ぐように寄せる。みんなそんな彼女の動きに注目する。
「しかしその詳細をお話しすることは申し訳ございませんが叶いません。そこで、私の依頼を、完遂することが出来た方にのみ、事件の詳細を教えします」
なんだそりゃ……
ていうかやっぱここに集められた奴は無条件にただ変な奴を集めたわけじゃあないんだな。でもなんでそんなことするんだ?ていうか依頼ってなんだ?依頼を解決しないと事件の事を教えられないってどういうことだ?確か殺人事件だったな?そんな口籠るってことは余程な事件だったのか?連続殺人事件だったとか?いやまあそこは後で一ノ瀬にでも確認しよう。
問題は、依頼内容だな。どうせ一ノ瀬の事だ。何も考えずに受けるだろう。だから俺くらいはしっかりと聞いて、最悪一ノ瀬を殴ってでも帰るべきだろう。黒百合さんの表情は何だか、寂しそうで憂いているようでいて、なんか楽しそうだ。依頼だなんていうくらいだ、まあ、ただの荷物運びだとかそんなんじゃあないだろうよ。
「で、その依頼内容は?事件の詳細を知りたいがためにみんなここに来たはずだからその提案は遺憾だけれど、まあその依頼を達成できれば教えてくれたのでしょう?ではもったいぶらずに早く教えて欲しいものだよ」
そんな風に黒百合さんに言葉を投げたのは、えっと、確か黒崎真理さんだっけか?白衣を着た女性だった。彼女は腕を組んだ体勢のまま続ける。
「私が知りたいのは過去、ここで起こったという殺人事件だ。聞くところによれば未解決事件のようじゃないか。こんな閉鎖空間だ、犯人も動機も犯行も、その幅は限られたはずだ。だというのに未解決。何かあると考えずにはいられないよ。学者としてはね。私は元々推理物が好きと言うのもあり、学者としても好奇心は抑えられなかったよ。どうしても、依頼は達成しないとだめなのかな?その感じからして、依頼が終わった後にみんなに教えるって事はないんだろう?だったらここに来た意味がないんだよね。内容に寄るが、私は帰る事を視野に入れざるを得ない」
そう、冷たく言い放った黒崎さんは黒百合さんを見つめる。黒百合さんはそれを微笑みで受け止める。でも雰囲気は今にも空気が張り裂けそうな感じ。何この二人、纏ってるオーラ半端じゃない。もうね、火花が見えそうだね。
「ま、それでも私としては全くの収穫なしだった訳では、なかったか」
言いながら黒崎さんは黒百合さんから目を離し、次に、瀬戸大輝に目線を向ける。瀬戸大輝は、それを、濁った眼で睨みつける。とても中学生くらいとは思えない目力だ。濁った眼も相まってもうホラーのレベル。お化け屋敷でバイトしたら即日で正社員になれちゃうレベルだな。
「誰だお前」
え、何こいつ喋れたの?今までほとんど喋らず、自己紹介だって魔女がやってたから口がきけないタイプで、だから闇抱えてる系かと思ってたわ。ごめんね勘違いしてた。お前はただの悪ガキだ。目がね?あ、俺も目付きは悪いか。
黒崎さんはそんな風に敵意をむき出しに睨みつける瀬戸大輝の視線を肩をすくめて受け流し、また黒百合さんに顔を向けた。
「で、依頼内容は?」
黒百合さんは黒崎さんのその言葉にまた笑顔を浮かべて頷く。いやあんたがややこしくした感あるよね?多分あんたが口開かなかったら多分黒百合さん普通に話し始めてたよ?
いや逆にそこで何も言わない黒百合さんはすごくいい人なのではないか?というのはどうだろうか?まあ雰囲気自体は如何にもお嬢様のそれだ。気品に溢れてそれでいて心の広さからか何か母性の様な物を感じる。なるほどお母さんタイプ、あるいはお姉さんタイプなのかも。まあでも、俺はやっぱりまゆみさんが一番
「助手。顔」
おっと。自重自重。一ノ瀬が俺をゴミでも見るような目で見てくる。仕方ないじゃない。男の子だもん。
では皆さま、と黒百合さんは前置いて口を開いた。
「先ほども申しましたが依頼を達成出来た方にはこの島で起こった事件の真相と、好きな物を差し上げます。お金でも、物でも、申していただければ、いくらでも報酬として差し上げます。それを前提に話を聞いていただければと」
何だって!?それはつまり何でもって事ですよね!それはつまり……おっと一ノ瀬がまた俺の方見てる。止めてねその目。結構心に刺さるわ。ごめんて。
しかしまあそこまで言うぐらいだ。やっぱ並みの依頼じゃあないんだろうな。一介の高校生である俺と一ノ瀬には手に負えそうもなさそうだ。帰るのが吉だろう。
ま、まあ?話を聞くぐらいならまあ良いんじゃないかな?このタイミングで席を立つと空気悪くしそうだし?
では、黒百合さん、どうぞ。
黒百合さんは一度、その報酬に息を飲んで固まる一同を見回す。いや正確にはただ黙ってただけだな。そんな性格の奴らでもあるまい。あ、言い忘れてたけど今この場に楠本はいない。多分キッチンでまだ何かやってんだろうな。お前に報酬は無しだ。はははは。いや興味ないけどね?ホントだよ?
黒百合さんは周囲を見回して、またニコリと笑顔を浮かべて、ようやく、言う。
「私を殺す犯人を、捕まえてください」