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遂に到着しましたね名探偵。やばいですよ

 森から出るとそこにはでかいとしか言えないような館だった。

 白をメインにしているくせに森の中にあるせいで薄暗い。それが逆に異質さを表してる。しかも壁に張った蔦や草木を取ろうともしていないらしい。雰囲気作りか忌々しい。

 ここの家主はさてどんな人間なのやら。絶対に変人だわ。……会いたくねえ!

「では、行くとしよう」

 だがそんな事は気にも留めない一ノ瀬は生き生きとした、いやむしろ嬉々とした顔でメイドのまゆみさんより先に館への入口に入ろうとする。だがそれはまゆみさんが止める事で叶わない。そりゃあそうだ。俺たちはあくまでも客人。勝手な行動をされれば困るのは彼女だ。逆にお前はもう少し遠慮しろ。

「失礼。少々お待ちください」

 一ノ瀬の前に立って入口を塞いだまゆみさんは一度深々と頭を下げるとそう言って俺の方を見た。え?俺何かした?

「そちらの方には先ず喫煙所のご案内をさせて頂きたく思います。一ノ瀬様は見た所喫煙はされない御様子ですが、どうされますか?」

「いや、私は良い。ここで待っていましょう」

「かしこまりました」

 また深々と頭を下げてからまゆみさんは俺の横に並んで歩き出す。それに習って俺もついていく

「では、喫煙所はあちらになります」

 さすがはメイドってだけあって気が利くなぁ。……って煙草吸って良いの!?

「当然でございます。私達は貴方様の喫煙の自由を妨げる権利などございません」

 いやしかし俺一応未成年だし……。

「それについても問題はありません。ここは日本の領域外にあります。日本の未成年喫煙防止法は適応されません」

 それは……なんか違くないか?いやしかしここで駄々をこねて「じゃあ吸わないのね」ってなられたらたまらん。是非吸わせてもらおう。

 入口の門を右に進んで左折。その少し奥には公園にある様な申し訳程度の屋根なんかじゃない。立派なつくりをして頑丈そうな石造りの屋根。その下に向かい合って同じく石造り。しかし座席部分だけが木星の少し変わったベンチ。その間に安物なんかじゃあない金色の立体灰皿。

 ……金の臭いしかしねえ。吸いにくい。いやまあ吸うけどさ。

「ごゆっくりと御一服ください」

 そりゃあ……どうも。

 お言葉に甘えて煙草を銜え、火を点ける。……うん落ち着く。

 いや待てよ?そう言えば俺が煙草を吸うなんて一言も言ってないぞ?何故知っている?一ノ瀬が言ったのか?いやそんな時間はなかったようにも思うが。

「勝手を致しましたでしょうか?身を弁えない行為でした。申し訳ございません」

 いやいやそんなんじゃなく純粋にただ気になったってだけですよ。頭上げてください。

 しかし俺は絶対言ってないと思うんだが何故分かったんですか?

「微かにですがお客様から御煙草の匂いを感じたもので。加えて時折口の中で舌を動かしているようにも思えました。恐らく今日の明け方四時頃にお吸いになられたのでしょう。香水を上からまぶしてらっしゃったので確信は持てませんでしたが配慮不足があってはいけないと思い、行動させていただきました。数時間と言う時間を長らく耐えて頂き感謝します」

 なるほどイチかバチかだったわけね。しかしまゆみさんが言ってることは正解だ。驚いた。確かに俺は今日一ノ瀬に呼び出された場所に行く前にイライラを誤魔化すために煙草を吸った。その上から香水じゃあないが涼汗スプレーを振った。どんな嗅覚してんだよ。

 それに口の中で舌を動かす、ってのも一種の禁断症状だ。ニコチンが切れると人によっちゃ唾液が多く出るんだ。それがウザったくて、でも吐き捨てるのも躊躇われたので舌をもごもごしていたんだ。凄い観察眼。凄いメイドだ。

「お褒めのお言葉、有難く頂戴いたします」

 そう言ってまたまゆみさんは深々と頭を上げる。

 しかしだとするとこの人を教育した人はどんなもんなんだろう?本当に人間か?AIじゃあないだろうな……。

 そしてあの主とは……。いや家主がここのメイドを全員育てたのか?いやまあ違うか。

「ここのメイドの指導は全てメイド長である神森麻子(かみもりあさこ)が執り行っております。後程家主に次いでご紹介いたします」

 一人でか……。マジで人間なのか。少なくとも家主は人間じゃあない。

 さてそろそろ行くか。煙草を灰皿に擦り付けて火を折って捨てる。

「よろしかったですか?もう少しごゆっくりされても」

「いやあんまり遅いと一ノ瀬に怒られちまうんで。うるさいんですよあいつは」

「そのようで」

 まゆみさんはくすりと笑って姿勢を正す。

「では参りましょう。御主人様に怒られない内に」

 御主人様って……

 いやしかしまあ他人から見ればあいつが俺の事を助手って呼んでるんだからそう見えてもおかしくはねえか。しかし御主人様って……

 まあいい。あんまり待たすと本気でうるさくされそうだ。

「行きますか」

「ええ。先導します」

 まゆみさんは俺の前に立って歩き出す。その後ろを俺も付いていく。直ぐに一ノ瀬の下に辿り着き、やはりうるさくされた。タバコ一本くらいいいじゃないか……

 そしてやはりまゆみさんが先導する形で館の扉を潜った。

 そうしながら俺は思うんだ。

 本当に何も起こらなきゃいいが、と。

 マジで突っ走り過ぎるなよ一ノ瀬。守り切れるなんて言えねえぞ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして俺たちは屋敷の中に入り、大きな円卓が置かれた部屋、ダイニングやリビングが馬鹿でかくなったような部屋へと案内された。

 天井には大きなシャンデリア。シンプルでいながら綺麗な印象を与える窓。大理石でシャンデリアの明かりをキラキラと反射する床。

 だがやはり一番印象を強く与えるのはそれだけ煌びやかでありながらも薄暗い、妙に薄暗いこの部屋全体だ。窓に蔦が這っているのもそうだろうがシャンデリアの加減をわざと行っているらしい。変な感じだ。目が変になって距離感があやふやになる。

 だがやはりそれ以上に、この空間を異質な物にしているのは円卓を囲むようにぐるりと席に着いている人間たちだろう。

 先ず俺たちだ。いや俺じゃあない。一ノ瀬だ。

 高校生のくせにどう見ても小学生、良くて中学生にしか見えないような少女体型。そして目障りな金髪。自称名探偵。

 そして俺。

 その右横に白衣を纏った赤髪の若い女性。歳は多分まだ二十七、八だろう。科学教師か?

 同じくその右横には板前さんみたいな恰好をした若い男。多分歳は俺らと同い年くらいだろう。

 その横には二十代後半くらいの男。特に特徴という特徴は何もない。どこにでもいそうな男だ。しかしその目はどうものっぺりとしていて感情がないような感じだ。そして何よりも無表情。本当に無表情だ。本当に何も感じていないかのようなそんな無表情。気持ちが悪い、という印象すら抱かないレベルの無表情だ。

 そしてその男の横の席、正確にはその前の机には何故か知らないがノートPCが円卓側を向いて置かれている。当然電源は入っているようだ。

 次に俺から見て左側。俺の左側に座っている一ノ瀬を飛ばしてその横。

 その横にはスーツを身に纏った女性。歳は三十近くといった感じか。如何にもキャリアウーマンな雰囲気だ。

 その横にはまだ中学生くらいの男。髪が伸ばしっぱなしでボサボサ。あまり手入れはしていないらしい。そして体。異常にと言っても良いくらいに小柄だ。伸びた髪のせいもあって女に見間違えられることも多いんじゃないだろうか?その身体を黒いジャージで包んでいる。

 だがそれ以上にそいつの顔には目を引かされる。異常に絶望しているような目だ。言うなら、『ハイライト仕事しろ』だ。その目でここにいる全員を見定めるように睨みつけている。変な奴、だ。

 その横。間違いなくこいつが一番おかしいだろう。確実にだ。何故ならそいつは顔どころか身体すらも見えない。真っ黒でボロボロのマント?ローブ?を纏っているからだ。イメージとしてはシスターさんが羽織っている奴のぶかぶかバージョンみたいな感じだ。以降ブラックシスターさんと呼ぼう。女かはわからんが。

 そして次に俺の真反対の向こう側。そこにいるのは一ノ瀬とは違う天然の金髪をふわふわと伸ばし、真っ赤なドレスを着こんだ女性がいる。歳は多分まだ二十五くらいだろう。終始綺麗な笑みを浮かべ、ここにいる全員を見つめている。恐らくここの家主が彼女だ。

 九人。円卓を囲っている人数だ。正確にはその後ろにまゆみさんを始めとするメイドが四人控えているが。

 断言するがこの全員が『普通』じゃあない。雰囲気が一般人のそれじゃあない。あくまでも俺のカンだが。

「さて」

 金髪の女性がなんとも楽し気にパンと手を鳴らして口を開く。それに反応し、ブラックシスターと中学生男子以外の全ての人間が彼女を見た。もちろん俺も例外じゃなかった。

 二人を除いた全員が彼女の言葉を待つように彼女を見つめる。

「皆様長旅ご苦労様です。私が今回貴方方を招待させていただいたここの家主、黒百合(くろゆり)ユリアでございます。何分狭い屋敷ではございますがどうぞごゆるりとお過ごしくださいまし。皆様にはそれぞれお部屋を割り当てさせて頂いておりますので後程ご案内致します」

 狭いの?ここが!?だったら俺の家なんて狭いというより小さいよ!

「では先ずここに招待させていただいた理由ですが……おっとこれは失礼。まずは皆様のご紹介が先ですね」

 そう言って家主、黒百合ユリア……ややこしい。ユリアさんは後ろを示すように右手を挙げた。

「では家で奉仕に当たっているメイドを紹介させていただきます。まず市塚まゆみ」

 呼ばれたまゆみさんは一歩前に出てニコリと一礼する。三つ編みがゆらりと揺れる。眼鏡をかけてみる気はありませんか。

「次に市塚まどみ」

 まゆみさんの横にいるメイドが同じように一歩前に出て一礼する。

 今度は三つ編みではなく、後ろで一つ結びにしている。いわゆるポニテだな。加えて眼鏡をかけているが、う~んなんか違う。無表情だしぶっきらぼうそうだ。やはり眼鏡は一番まゆみさんが似合いそうだ。

「市塚ますみ」

 次は髪を結んでいないメイドが同じく一歩前に出て一礼。腰ほどまでに伸ばした髪だが仕事中に邪魔にはならんのだろうか?いやストレートが嫌いって訳じゃあないんだけどね?そしてこの人はすごく真面目そう。学級委員や生徒会長やってたら様になりそうだ。

 ていうか全員瓜二つだな。髪形や眼鏡以外に違いがほとんどない。髪形と眼鏡を揃えたら違いなんて分からないんじゃないだろうか?

「そして先のメイドの教育全てを担っているメイド長、神森麻子(かみもりあさこ)でございます」

 今度は少し変わった髪形、いや髪色の女性が一礼する。銀髪だ。髪色もそうだが髪の毛があまり手入れがされているように見えない。ボサボサ、とまでは言わないが伸ばしっぱなしといったイメージだ。だが不思議と汚い、といったイメージはわかない。どうも綺麗な荒さ、のような物を感じる。手入れしたうえでああいう風にセットしているんだろうか?面白い。しかしさすがに髪色は地毛じゃあないだろうが思ったよりここの家主はそういうのには厳しくないんだろうか?いやまあ見た感じあまりうるさそうにも見えないが。

「彼女たちが皆さまのお世話させて頂きます。お部屋の掃除はもちろんとして皆様の食事は全て彼女たちが」

「ちょっと待ってくんねえか?」

 ユリアさんの言葉を遮るようにして響いたその声に反応し、ユリアさんの口の動きは止まり、全員がその声の主に注目した。板前風の格好をした男だ。なんだ?

「飯は俺が用意しよう。食材さえ揃えてくれれば俺がうめえもん食わせてやる」

「左様でございますか。ではお願いいたしましょう。皆様、彼は楠本良喜(くすもとりょうき)様。日本随一にして海外にも実権を持つあの楠本屋、料理界の長でございます」

「その跡取り息子、だがな。我が家のモットーは例え高級品じゃなくても高級品以上の料理に仕上げて見せる、だ。元は下町の定食屋だったもんだからその名残だな」

 さすがの俺でも知っている。毎日のようにテレビで宣伝を見るからな。俺らとそう変わらん歳だろうに立派なもんだ。

「ではこの流れで皆様のご紹介に当たりましょう。……あら?あなたは……どちら様でしたかしら?招待させて頂いた方にあなたのような方がいましたでしょうか?」

 ん?誰?……俺?嘘俺招待されてないの?やったもしかしたら帰れるかもしれん!

「困りました。人数分の部屋しか用意していないのでどうしましょう。……あ、そうですわ。確か使っていない部屋が今物置で使われていましたわね?まゆみ、まどみ、ますみ。早急にお片付けを。お客人をお待たせすることがないように」

「かしこまりました」

「いやいや待ってくださいよ。大丈夫です。俺招待されてたんじゃねんならお邪魔でしょ?帰りますよ。まゆみさん船とかの用意って出来たりします?」

「はい。可能でございます」

「んじゃあお願いしま」

「ちょっと待ったー!」

 ちょっと黙ってろよ。今俺はここから離れる最大のチャンスを掴もうとしてんだ。邪魔すんな。

「君はどれだけ帰りたいんだ……」

 声を張り上げたのは言う必要もないだろう。一ノ瀬だ。一ノ瀬は俺の顔を見て少しげんなりした表情をしながらユリアさんに向き直った。

「私は一ノ瀬明と言います。彼は私の助手です。何分私は体力に自信がないため、何かがあった時ように勝手に連れてきました。申し訳ない。私の部屋はあるんでしょう?でしたら問題はない。同室で構いません」

 ふざけんな!俺が構うわ!俺は帰りたいんだよ!わかる?帰りたいの!

「くどい」

 ……一蹴されてしまった。酷い。

「おーい。なんだったら俺と一緒に寝るか?見た感じ同い年っぽし。十七だろ?お前」

 楠本?が俺と一ノ瀬の口論に見かねてそう言ってくれる。だが遠慮しておこう。

「あ?ああ。だがそれは遠慮しとく」

「まあ初対面でいきなりってのは確かにきついかもな」

「いやそうじゃなくて」

「あん?」

「俺煙草吸うんだよ」

「……なるほど。お前も料理する口かい?じゃなきゃそんな事きにしねえんじゃね?」

「実家に料理にうるさいあんちゃんがいてな。その人にしごかれて育ったもんで」

 そいつぁ仲良く出来そうだ、と言って楠本は俺から目を外す。うーんやっぱりお願いしようかな?

「ではどうする?私と一緒の部屋しか選択肢はないぞ?」

 それはないね。死んでも嫌だ。まゆみさんにお願いしたい。

「メイドフェチか」

 やかましい。

「まゆみさん、その物置でお願いします」

「ふふ。かしこまりました。しかし私にも業務がございます故相部屋は厳しいです。」

 まゆさんはまたニコリと笑ってから一礼し、他のメイド二名(三姉妹だよな?)を引き連れ、この場を離れていった。畜生。

「なかなか面白い方のようですね、助手の人は。さすがは一ノ瀬様の助手、と言った所でしょうか?」

 そう言ってユリアさんは一ノ瀬に向けて綺麗な微笑みを浮かべる。

「あなたの噂は良くお聞きしています。この島について何かしら調査を行っていたようでしたのでこれ幸いとご紹介させていただきました。聞くところによるとあの十年前に起きたゆう」

「私の紹介は良いではないか当主よ。他の方々の紹介が聞きたい。名前も分からない、では今後大変でしょう」

 ユリアさんの言葉をそう遮った一ノ瀬にユリアさんはこれは失礼、とおどけたように見せてから仕切り直すように喉を鳴らした。

「ではー」

 そうして全員の紹介が行われていった。

 白衣を纏った女性。黒崎真理(くろさきまり)。科学者。

 板前さん。楠本良喜(くすもとりょうき)。日本一番の食品製造会社、大手飲食店の御曹司。料理人。

 男。本名は不明。匿名希望。あだ名はたっくん。何でも屋。何でも屋って……

 スーツを着た女性。笠山吉(かさやまよし)。大手化粧品会社社長。

 中学生くらいの男。瀬戸大輝(せとだいき)。職業不明。

 ブラックシスターさん。本名名乗らず。自称魔女。占い師。一応女らしい。

 PCの持ち主だけは不明。たっくん曰く数日に一度の睡眠中らしい。で、どうやらたっくんの雇い主でたっくんはその助手らしい。気が合いそうだ。

 そして今はここで解散となり自由時間だ。自室で荷物の整理や屋敷の案内を済ませておけ、という事だろう。ので俺と一ノ瀬は喫煙スペースに来ていた。もちろん非喫煙者である一ノ瀬がいるのでタバコは吸えない。

「さて助手よ。あの中で誰が一番やばい?ちなみにたばこは吸っても構わんぞ。私はそういうので差別するような質でもない」

 そうかい。なら銜えるだけさせてもらうわ。

 ふむ。一番やばい奴。あくまでも俺の主観になっちまうが強い奴、なら。

「構わん。順位が付けられるのならそうしてくれ」

 ふむ。順序か。……。

「一番強いのは間違いなくあの瀬戸大輝とかいうガキだ」

「ふむ。何故だ。まだ子供だろう?」

 お前が言うな。

「わからん。目がやばい、としか言えん。だがあいつはあの場にいた全員を終始睨みつけてた。多分検分してたんだろう。あと多分あのジャージの下、なんか刃物が入ってる」

「刃物。……うむ。注意しよう」

「それに多分……あいつは人殺しの経験がある」

「……何故分かる」

「なんとなくだ。少なくとも何かの訓令を受けた経験はあるはずだ。いつでも立ち上がれるように脚に力が入ってた。そしてさっき言った刃物っぽいものを常に意識してた。いつでも動けるように、って感じだ。まだ粗削りだが間違いなく、あの中で一番強い。俺含めな」

「そうか……」

 マジであいつだけは勝てそうじゃあなかった。多分喧嘩が強い、なんて軽いレベルじゃない。多分俺程度じゃあ一瞬でやられるだろう。確信こそねえが何故かそう思った。

「あの年齢ならどこかの海兵育成学校の生徒の可能性もあるな。次は?」

「多分、神森麻子さんだ」

「何故?」

「これも確信はない。だが立ち居振る舞いから何かしらの武術か訓練を受けてる」

「ふむ。しかしメイドが我々に危害を加える可能性は低いか。次は?」

「次もメイドだ。市塚まどみ、だな」

「理由は?」

「同じ。気付かなかったか?他のメイドはみんな腕を腰の前で組んでいたのにあの人だけは気を付けするみたいに拳を横に置いたままだった。手じゃない。拳だ。体重のかけ方からつま先に重心が言ってるのも分かった。あれは間違いなく武術だ。それもかなり達人だ」

「メイド二名が上位にランクイン。ふむ。留意しよう。次は?」

「甲乙付け難い。黒崎さん。楠本。笠山さん。この三人は多分なんつーの?戦闘力的な物はないように思う。まあ楠本の場合料理人だし包丁くらい持ってるだろうがあの性格じゃあ考えにくい」

「では他は?あのたっくんという男。魔女という占い師。そしてここの家主、黒百合ユリアは?」

「たっくんは多分戦闘力こそ低いと思うぜ?だが多分何かでかい修羅場潜ってるし、瀬戸大輝と同じで人を殺した経験がある。少なくとも人を殺すことに躊躇するタイプには見えなかった」

「そういうタイプが一番怖いな。それで?残りの二名は?」

「わからん、としか言えん……」

「ほう?曖昧で良い。話してみてくれ」

 て言われてもなあ。まあ曖昧で良いなら……

「2人とも、どうも計り知れん。魔女はあのローブのせいもあって文字通り実体が掴めんしユリアさんはあの仮面のせいで中身が見えない」

「仮面?」

「あの人終始笑ってたろ?……だが目だけは一瞬でも笑ってなかった。だから仮面」

「……」

「俺が思うにあの場にいた中でこの二人が一番やばい、と感じた。特にユリアさん。ビビらすつもりじゃあねえがお前を見た時に何故か下舐めずりをしていた。分からない程度に、だが」

「……」

 さすがにこれだけ言えば多少慎重に動くはずだ。いつもみたいに馬鹿暴れられてはさすがに俺でも庇いきれん。少し盛って伝えたんだし効果はさすがにあるだろう。

「それにしてもよく見ていたな助手よ。ものの数十分だぞ?それでそこまで観察できるなどやはりただの高校生ではないな。どこの組織の構成員だ?」

 あまり効果はなかったらしい。クソったれ。

「ただの高校生だっての。漫画とかに出てくる悪者や軍人に憧れて人は観察する様にしてんだよ」

「ふむ。そういう事にしておこう」

 マジだっての……

 しかしマジで多少慎重に動いてもらわねえと困るんだ。少し盛って伝えた、とは言ったが本当に少しだ。本気であの連中はそれぞれやばい。

「では、とりあえず私の部屋へ行こう」

 そう言って一ノ瀬は歩き出した。その足取りは特段いつもと変わらないようにも見える。


 マジで考えて動いてくれよ一ノ瀬。

 守り切れるなんて口が曲がったって言えねえぞ。


 この時はまだ、この館であんな事件が起こるなんて俺ですら予想できていなかったんだ。

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