第二章 『世界消滅』④
十月一日。
日本人は、まだ残っていた。皮肉なことに、何も決められぬ国であるがゆえに残っていた。
しかし、神風が吹く国の悪運も、ここまでだった。
それは、午前十時のこと。テレビ放送を通じて、“パウ”より久方ぶりの声明が発表されたのである。
声明文は、これまでのような英語ではなく、日本語だった。
今回の“パウ”は、単独日本に意見してきたのである。
青い顔で身を震わせながら、アナウンサーが声明文を読み上げた。
「『私は、“パウ”より旧アメリカ領へと移住した約一億の民の代表である。我々が地球に向けて声明を発し、ひと月と十三日が経ったが、結果はご存知のとおりだ。歯向かってくる国、事大主義的に媚びへつらう国、我々は双方を抹消した。そのどちらもが、投降せよとするこちらの主張に反するものであったからだ。我々の言う投降とは、即ち、“パウ”への隷属に他ならない。それができない人間を、我々は必要としていないのである。そのような中で日本は、地球上ではトップクラスの文化・文明を誇るにも拘らず、これまで何のアクションを取ることもなく我々の行いを傍観し続けた。それは、隷属の意があってのことであろうと判断する。よって我々は、日本人のみを地球上に残すこととした。無論、条件は“パウ”への隷属である。本日、正午までにそちらから何の意思表示もなかった場合、隷属の条件を受け入れたものとみなす。なお、この声明が報道されたのち、残り僅かとなった日本人以外の地球人については、これを全て抹消する』、……とのことです」
ここでアナウンサーは一度言葉を切り、深く呼吸をして続けた。
「これに対して政府は、『極めて遺憾である』として反発しましたが、“パウ”側は、この“極めて遺憾”という言葉について、『そちらの“国語辞典”なる物を紐解いてみた。“遺憾”とは本来、“残念であること”や“心残りがあること”を伝える日本語だそうだ。自分と相手の双方に用いることができる。因みに、相手に対しては、“軽い非難”を示すらしい。その“軽い非難”に、“極めて”という語句を付け足されても、それは“極度の微熱”と言っているのと同じで、意味が分からない』と批判した上で、『この場合、“貴方には、期待していたのにとても残念だ”という解釈でよいのだろうか? もしそうならば、今度は、日本側が“パウ”に何を期待しているのかが分からなくなる。面倒なので再度尋ねる。答えは二つの内のひとつ、隷属するか否か、だ』と迫っています。“パウ”への隷属決定まで、あと二時間。政府の返答次第で、この国の全てが決まります。あまり時間はありませんが、熟慮の上での判断が望まれます」
アナウンサーが最後に深く頭を下げると、テレビ画面は砂嵐になった。
これまで、ひと月と十三日もの期間がありながら身の振り方を決められなかった日本。それなのに、僅か二時間で国の未来を定めることなどできるわけがなかった。
十月一日、正午。結局、何の意思表示もなさぬまま、日本国の“パウ”隷属は決定した。
予告外での突然の更新、申し訳ありません。直井 倖之進です。
先ほどから独りで宅飲みしていたのですが、何となく手持ち無沙汰で思わず投稿してしまいました。
これにて、第二章も終了です。
次回更新は、明日。いつもの時間帯で行います。第三章も引き続きよろしくお願いします。
なお、次回も今回と同程度の長さになると思います。それでは、失礼いたします。