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救世主、山田  作者: 直井 倖之進
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第二章 『世界消滅』②

 帰宅して昼食後の午後一時五十分。リビングにあるテレビの前には、敦也と母親の美和子が座っていた。

 先ほどからテレビ画面では、アナウンサーと有識者を名乗るどこかの教授が、いよいよ発射を待つばかりとなった衛星ミサイルについて話をしている。専門的なその内容は敦也にはよく分からないが、繰り返される「突然の攻撃決定」の言葉が白々しいことだけは分かった。衛星ミサイルは、一日二日で準備できるものではない。それくらいのことは、中学生の彼にだって推測できるのである。

 因みに、衛星ミサイルとは、地球軌道上にある人工衛星を攻撃する兵器のことだ。つまりは、対衛星兵器である。そのため、現在フロリダに設置されているそれは、標的が“パウ”という星であることから、衛星ミサイルと称するのは誤りなのかも知れない。

 しかし、地球が他の星に攻撃をなしたことは有史以来これ無く、また、形の上では衛星ミサイルと同じものでもあることから、便宜上その語が使われている。

 この度発射されるのは、米国空軍の総力を結集した衛星ミサイル、その名も、“アース・キス(地球からのご挨拶)”である。一九六七年の“宇宙条約”により制限されることとなった核弾頭を搭載しており、たとえ標的を外したとしても、自爆により損傷を与えることができる。

 もし、今回の攻撃が成功を収めた場合、それは、かの太平洋戦争において広島・長崎で実に三十八万人もの尊い命を奪ったあの忌むべき核兵器が、初めて人類の役に立つ歴史的瞬間となるわけである。

 日本時刻午後一時五十九分三十秒。世界中の注目と期待を一身に背負い、日本から遠く一万二千キロメートル離れたフロリダの地、ケネディ宇宙センターでカウントダウンが始まった。

 三十、二十九、二十八……。

 アナウンサーとどこかの教授はワイプアウトし、画面は“アース・キス”のみの映像となった。

 ……十、九、八、……五秒前、四、三、二、一。

 零。白い噴煙が立ち上り、衛星ミサイルを包み込んだ。それに吞まれまいとするかのようにミサイルは、黄赤色の火柱を噴きながら夜空へと昇って行く。

「発射成功! 成功です!」

 音声がスタジオにきたのか、叫ぶアナウンサーの声が響いた。

 ところが、その僅か数秒後、眩い光に包まれ順調に上昇を続けていた“アース・キス”は、突如、上空で闇に吸い込まれるようにして、消えた。

「……え? な、何、何でしょうか?」

 フロリダの夜空が広がるライブ映像に、アナウンサーの戸惑う声が重なる。

 次の瞬間には、その夜空の映像までもが消えてしまった。

「おいおい、どうしたんだ? ちゃんと報道しろよ」

 テレビに向かって愚痴ると、敦也はリモコンでチャンネルを移した。

 だが、どこも同じだった。真っ暗な画面が映っているだけである。

 どうやら、問題は、日本のテレビ局ではなく、アメリカ側にあるらしい。

 仕方なくこれまで見ていた局にチャンネルを戻す。

 すると、真っ黒な画面に、白い文字で文章が浮かび上がってきた。

「またかよ……」

 敦也は遣る瀬なく呟いた。そう、画面に映っていた文章は、英語だったのである。

 「読めるか?」の意を込め、敦也が隣の美和子に顔を向ける。

 だが、実に自然に彼女は目をそらした。

 「それはそうだろう」敦也は妙に納得してしまった。もし、母が英語を得意としているのならば、その血を受け継ぐ自分も得意なはずだからだ。

 「やはり、俺はこの人の息子だ」変なところで親子の繋がりを感じていると、映像はスタジオへと戻った。

 ターリーランプを確認したアナウンサーが、泡を食った様子でカメラへと身を乗り出し、開口一番こう告げた。

 「大変です! 大変なことが起こりました! アメリカが、アメリカ人である約三億一千万人が、全員いません。いなくなった、消えてしまったのです! これは、神隠しにあったとしか表現できない事態です!」

「はあ?」

 敦也がテレビに向かって疑問の声を上げる。それにアナウンサーが答えた。

「先ほど、画面に英語の文章が映ったのを確認されたでしょうか? あれは、米国テレビ局をジャックした“パウ”からの声明だったのです。只今日本語訳を終えましたので、お伝えいたします。『我が星に攻撃をなそうとしたアメリカは、その全国民を、我々が兵器ともども消滅させた。これからも同様に逆らう国があれば、即刻排除する。なお、これより我々は、旧アメリカへの移住を開始する。然るに、今後は旧アメリカ領へと侵攻する国も、排除の対象となる。先にも述べたが、再度、地球人に告ぐ。生き残りたければ、投降せよ。逆らえば抹消する』、とのことです」

「え? じゃあ、地球からアメリカ人がいなくなったってことか」

 そう敦也がまとめると同時に、アナウンサーは、次なる速報を伝えた。

「たった今、情報が入りました。在日米軍や就労者、観光客など、日本国内にいたアメリカ国籍を有する人たちも消息を絶った模様です。目撃者の話では、突然煙のように消えてしまった、とのことです。現在、警察が捜索を行っていますが、荷物などがその場に残されていることから、“パウ”の声明の信憑性が高まっています」

「何なんだよ、いったい……」

 話があまりに現実離れしすぎて混乱する敦也。実際に見たというわけではないのだから、それは当然のことだった。「俺たちは、これからどうなるんだ?」暗中にありながら模索もできない思いを心で口にする彼の耳に、

「次いで、飛行機墜落のニュースが入りました。アメリカ人がパイロットを務めていた旅客機が、世界各国で相次いで墜落しているとのことです。国内にも成田到着予定の便が予定外の航路を飛行しているとの報告があり……」

 と、悪夢のような続報が遠く聞こえた。

 いつもご訪問ありがとうございます。直井 倖之進です。

 次回の更新ですが、これまでより少し文章が短くなると思います。(文字数的には、それなりですが……)

 そのため、次々回にまとめてでもよいかも知れません。余計なお世話かも知れませんが、一応、報告まで。

 寒い日が続いております。お身体、ご自愛くださいね。それでは、失礼いたします。

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