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救世主、山田  作者: 直井 倖之進
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最終章 『救世主、山田』③

 宮殿入り口の大きな扉を抜けると、広間に出た。その先には、大階段が続いている。

「山田は、大階段の上の間だ。扉の奥にいる。行ってやってくれ」

 テルに言われ、敦也は、一目散に階段を駆け上がった。そのままの勢いで続く扉に手をかけ、それを押す。彼の眼前に、結婚披露宴会場を思わせるような豪華絢爛たる部屋が現れた。

 部屋の奥の方、中央の大きな椅子に山田は座っていた。

「あ、敦也君!」

 彼を目に留めると、山田は椅子から離れて駆けてきた。

 敦也も彼女の許へと走る。

 部屋の中央で、二人は五年半の空白を埋めるように抱き合った。

「敦也君。きてくれたんだね」

「山田がいるんだから、当然だろ」

 そう答えはしたものの、言ったあとで恰好をつけすぎたと感じたか、照れを隠すように敦也は言葉を足した。

「なぁ、その服、どうしたんだ?」

 彼がそう尋ねるのも無理はなかった。山田は、まるで異国の姫が着るかのような薄紅のドレスを身に纏っていたのである。

「これ? これね、星の皆が準備してくれたの。変かな?」

「いや、綺麗だ」

 敦也が答えると、山田は恥ずかしそうに笑った。

「よかった。私ね、この星のリーダーになっちゃったの。このドレスは、その証なんだって」

「え? じゃあ、テルさんが言っていた女王陛下って……」

「多分、私のこと。今まであった三つの勢力には、それぞれ代表者やリーダーがいたんだけど、今回、その全てをまとめる役として、私が選ばれたの」

「ひょっとして、それ、引き受けたのか?」

 詰問に近い口調になる敦也に、少し怯えた様子で山田は頷いた。

「う、うん。引き受けたけど、駄目……だったかな?」

「いいとか駄目だとかいう問題じゃなくて、山田は、もう地球には帰らないつもりなのか?」

 すると、彼女は首をふった。

「ううん、いずれは帰るよ。でも、今、この星は新しく生まれ変わったばかりで、内政が不安定だから。それが落ち着くまで、ここにいるつもり」

「どのくらい?」

「早ければ数か月、遅くても一年後までには……」

「分かった。でも、約束してくれ。必ず、地球に戻ってくるって。俺、待ってるから」

「うん。約束する」

 敦也を見つめて山田が返事をしたその時、部屋に女性のパウ人が入ってきた。

 アルミ箔のような服を着たパウ人は、山田に恭しく頭を下げてから言った。

「女王陛下に報告致します。“侵攻派”が抹消した地球人の居所が判明しました」

「教えてください」

 山田が促す。

「はい。女王陛下のご推測どおり、宇宙を離れた三次元空間に、地球の兵器とともに運ばれていました」

「見つかってよかったです。では、すぐに地球へと転送してください」

「承知しました。それに付随しまして、彼らの兵器についてはいかが致しましょうか?」

「……兵器」

 少し考えると、山田はその顔を敦也に向けた。

「ねぇ、敦也君。どうしよう?」

「どうしよう、と言われても、意味が分からないぞ。説明してくれるか?」

「うん。あのね、今回の件で消された地球の人たちは、今、宇宙の外側にある三次元空間にいるの」

「三次元空間? 地球と同じじゃないのか?」

「うん。縦、横、高さの空間だというのは同じ。でも、そこには、地球にはあるもうひとつの次元、時間が存在しないの。私たちは三次元の中で時を重ねながら生きているんだけど、そこにあるのは空間だけ」

「つまり、時が止まった場所に、体だけがあるってことか」

「そう。それでね、そこにいる人たちは、地球に転送してもらうように頼んだんだけど、残された兵器をどうしようかと思って」

「うーん、兵器か。……ところで、その三次元空間には、まだ隙間はあるのか?」

「多分。宇宙空間は広がりを続けているから、その外の空間は縮小しているって考えるのが自然だけど、それでも、無限に近い広さがあるんじゃないかな」

「じゃあ、決まりだ」

「え? 何が?」

 意図が掴めぬ顔で、山田は敦也を見上げた。

 それは、人類の歴史を鑑みるに、恐ろしいほどまでに重大な決断だったのかも知れない。

 しかし、実にさらりと彼は言った。

「地球上から、全ての兵器をなくそう。現在、三次元空間に運ばれているのはもちろんそのままで、地球にある兵器も、核から小銃に至るまで、全てそこに送ってしまうんだ」

「でも、そんなことをしたら……」

「あぁ。別の星に再び侵略された時には、手も足も出なくなるだろう。だけど、同じ星の住人同士で戦争をしているのは、地球だけなんだろう? だったら、少しは地球人も変わらないとな」

「うん。分かった」

 山田は、指示を待つパウ人に告げた。

「地球上にある兵器と名がつくものは、全て三次元空間に送り込んでください。それと、現在この星にある“異星人抹消装置”も」

「え? こちらの兵器も送られるのですか?」

 パウ人が驚いたような顔をする。

 山田は、きっぱりと答えた。

「はい、お願いします。地球が平和な星を目指しているのです。なのに、さらに高度な文明を持つこの星が、それを見習わなくてどうするのですか?」

「は、はい。承知しました」

 深々と山田に頭を下げると、慌てた様子でパウ人は部屋をあとにした。

「これで、“パウ”に消された地球人も戻ってくる。全部、終わったんだな」

 大団円を口にする敦也に、山田は俯き、小さく首を横にふった。

「抹消された人たちは帰ってくるんだけど、飛行機事故とかで亡くなった人たちは……」

「あ、そうか……」

 敦也は、アメリカが消滅した日のニュースを思い出した。確かにあの時、アメリカ人が機長を務める旅客機が相次いで墜落しているとの知らせが流れていた。

「じゃあ、あの日、機内にいた人たちは……」

「……」

 黙ったまま山田は頷いた。

「……何てことだ」

 敦也は力なく呟いた。

 そこに、消え入りそうな声で山田が言った。

「私、一生懸命頑張ったけど、結局、犠牲者が……」

 彼女の瞳に涙が溢れた。それは、頬を伝って薄紅のドレスへと落ち、布に淡く黒い染みを作った。

 敦也はそっと山田を抱き寄せると、胸の中でしゃくり上げる彼女に告げた。

「俺も今まで気づかなかったよ。たとえそれがどんな争いあっても、全てが丸く収まることなんてないんだということに。でも、これからは違う。地球にも“パウ”にも、もう兵器は存在しなくなった。二つの星は新しく生まれ変わり、平和へと歩み出すんだ。それを実現したのは、間違いなく山田だ」

「……ありがとう」

 赤く腫れた瞳で、山田は淡く微笑んだ。

 その笑みを見つめながら敦也は心に誓った。「一年と言わず、たとえそれが五年、十年先になったとしても、俺は山田を待ち続けよう」と。

 そして、彼女が地球に帰ってきたその時には、笑顔で迎えてこう言うのだ。


「お帰り、……優子」

 ご訪問ありがとうございます。直井 倖之進です。

 今話にて本編終了、次回はエピローグです。

 『救世主、山田』最後の投稿は、2月27日を予定しています。それでは、失礼いたします。

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