プロローグ
プロローグ
上条敦也が山田と同じクラスだったのは、小学五年生の時。正確には、始業式から八月までの約五か月間だけだった。
教室の自分の席で、静かに黙々と本を読む。それが山田の日常だった。誰も相手にせず、誰からも相手にされず、いつも彼女はひとりぼっちだった。
まるで空気のような存在の山田。そんな彼女に敦也が初コンタクトを試みたのは、しとしとと雨の降る梅雨、六月半ばのことだった。
天気が悪くて外で遊べず、暇だから。それが、敦也が山田に話しかけた理由だった。
敦也が問う。
「何、読んでんだ?」
「……本」
「何の本を読んでんだ?」
「……星の本」
「星か」
「……そう。赤、青、黄色。いろんな色の星があって、……綺麗」
「そうか」
「……ねぇ、敦也君も星、……好き?」
ちらりと上目遣いでこちらを覗き見る山田。そんな彼女に、敦也は答えた。
「う、うん。好きだ」
「え? 本当?」
同朋を見つけたからか、それとも別に理由があったのか、嬉しそうに山田は微笑んだ。
彼女が零した僅かな笑顔に、敦也は、薄暗い鉱山で宝石を発見したかのような気持ちになった。しかし彼は、その想いを覚られぬよう、努めて自然に尋ねた。
「ところで、山田はどの星が一番好きなんだ?」
「私が一番好きなのは、……これ」
ぺらぺらと本を捲り、山田はひとつの星を指差した。
それは、太陽系第三惑星。青く輝く星、地球だった。