第二章 春樹……おまえさいてーだな
第二章
あれは去年の二学期のことだった。
合唱コンクールが学内で行われて。各クラスそれぞれ練習した、課題曲はbelieve、よく合唱で歌われるような定番な曲だ。そして本番当日。
僕のクラスは早々に出番を終え、各クラスの合唱をぼんやりと聴いてる時だった。
他の大勢のなかに一層輝いてるように見える子が居た。ふわふわのロングヘアーのとびっきりの美人。
僕は一瞬で心を奪われた。クラスで歌っているにもかかわらず、その子の声しか聞こえないような気がして、その子がこの空間の中心に居るような感じさえした。
胸の動悸がおさまらず、合唱コンクールが終わってからも、僕はその子のことを考えるようになっていた。
廊下ですれ違う。緊張が体を支配し、ただ歩いて通りすぎるだけなのだけど、ちゃんと普通に歩けてたかどうかも怪しい。
そんな僕に、本人に名前を聞く勇気は無かったし、合唱コンクールの時に何組の合唱なのかを確認することも忘れていたので、クラスも名前も知らなかったのだけれど、偶然、ほんと偶然にその子が一年A組に入っていくのを見かけた。授業が始まる寸前だったから、おそらくその子は一年A組なんだと僕は確信。
そして、僕はハッと思いだしたんだ。
一緒につるんでいる誠によく付きまとってる如月さんが一年Aクラスだったということを。
本人に名前を聞く勇気がない僕でも、流石に人に聞くということはできる。
意を決して、昼休み、屋上で僕ら三人で居る時に如月さんに聞いた。
「A組みにふわふわのロングヘアーの子がいるよね?」
「……? 居るけど、どうしたの?」
「いや、どうもしないけど、名前なんていうのかなーって……」
「ふわふわロングヘアーの子ってあれでしょ? こう、胸が大きい……」
「うん、その子で間違いないよ」
僕の心を奪っていったのは、ふわふわとした髪質の愛嬌あふれる女の子だった。
同年代女子の平均よりも僅かに低い背丈に、腰まで伸びるなかなかのロングヘアーの持ち主。
何より特徴的だったのは、身体の大きさに似合わぬ胸のサイズだ。
制服の上からでもはっきりと分かるそれに、僕の視線は釘付けになったのだから。
そう、僕はあの子のおっぱいに惚れたのだ。
こういう風に言うととかなり下心があるように思えてしまうけれども、いや、だからこそ正直に言おう。僕はあのおっぱいを我がものにしたい。
触りたいし、揉みたいし、揉みしだきたい。顔をうずめたいとも思うし、顔をうずめて左右に顔を振りまくって、おっぱいのその弾力を楽しみたい。
うん、僕ほどのおっぱいマスターにかかっては、あの子の巨乳は僕の意のままに操れる自信がある。おっぱいを無駄にはしない。むしろ他の男にあのおっぱいを渡してなるものか。
そうだ、僕はあの子のパートナーになって、一緒に赤ちゃんを育てたい。
そうなるためにも、まずは名前だ。
僕はごくり、と生唾を飲んだ。如月さんの返答を、あの子の名前が口から発せられるのを、今か今かと待った。そして、遂にその時が来た。
「神埼瑠璃っていう。瑠璃とは私も仲いいから、井上が気があるってこと伝えとこうか?」
「いやいやいや、それはいいよ。やめて、絶対しないで。僕が名前を聞いたことも本人には絶対に言わないで」
僕は全力で阻止した。そんなことされたら、もしかしたら好意を持ってるってことがばれてしまうかもしれない。
「そんな悠長でいいのかしら。瑠璃は可愛いし、優しいから。かなり男子に人気あるわよ。こないだだってラブレターもらって困ってたし。告白も何人かしてきてるんじゃないかしら」
「やっぱり、人気なのか……。可愛い子はモテる。全世界の共通点だね……」
僕にチャンスはあるのだろうか。正直かなり不安だけど。まだ接点もないし、これからの頑張り次第だろうけど……。
ともあれ、神埼瑠璃って名前が分かっただけでも、かなりの進歩だ。これからゆっくりと親睦を深めていければ……。