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いくらなんでも飛び級過ぎるだろ

「あーやっと解放された」


「まったくだよ。誠のせいだからね」


「いや、俺のせいではないだろ」


「いいや、誠のせいで決定だね。それはも至極当然の話しだよ」


 二時間目が終わり、教室に入りながらも僕らは言い合いを続けていた。


 席も前後の僕らは座りつつ、お互いに罵倒を浴びせるほどになり、徐々に言葉も過激化し、遂にはお互いの顔をつねり合いながら涙目になりつつ。いじりあう。


 そんな時だった。


「あっ、お兄ちゃんたち、さっきはありがとうございましたー」


 僕らは同時に声のした方向へと顔を向け……たが、姿が見えない。辺りを見回しても僕らにまったく干渉してない生徒たちしかいなかった。


「こっちですよー。下です。したぁー」


 お互いの顔をつねったまま、僕らはその声に誘導されるように下を向いた。


 すると、そこにはさっきの幼女が僕らを見上げていた。


「お兄ちゃんたちが教室のドアを開けてくれたおかげで、授業中なのにするっと教室に入ることが出来ましたー」


 ぺこりと頭を下げる幼女。


「はにはに、ひにするほほははいほ」


「ほうほう、へいほひはへるほほへははい」


 首をかしげる幼女。


 どうやら、何を言ってるのかわからないのかな。僕がそう思ったその瞬間。


「えっとー、きにすることはないよ。そうそうれいをいわれるほどではない。ですねっ。ありがとうございます。やっぱり、お兄ちゃんは素敵です」


 にっこりと笑顔で僕らを見る幼女。


 その笑顔に気を取られて、僕らはお互いつねっている手の力が抜けてしまった。


 僕は頬をさすりながら、


「そういえば、君は、えっと……」


「東條つかさですっ」


「あ、ありがとう、僕は井上春樹」


 つられて思わず自己紹介してしまった。聞きたかったのはそうじゃなくて。


「っと、つかさちゃん、君はこのクラスの生徒……なの?」


「そうですよー。でも、遅刻しちゃって、始業式でれませんでしたー」


 遅刻したのを後悔しているのか、がっくりとするつかさちゃん。


「始業式は一週間前に終わったよ?」


 僕は思い出しながら言った。


 そう、この葉月学園は、進学校であり、春休みに課題がないということを懸念してなのか、一学期が始まる一週間前に始業式が行われ、課題を出されるのだ。クラス替えもその時発表される。


「えっ、そうなのですか?」


「うんそうだよ。その時は、つかさちゃんを見かけなかったけど」


 始業式の時には、こんなに目立つ幼女なんか見かけなかった。担任の先生も特に何か言ってたわけじゃないし。


「そ、そんなー。今日遅刻しただけじゃなくて、始業式を知らずに欠席してたですー」


 涙目になるつかさちゃん。


 やばい、これは泣かれるんじゃないか?


 目の前の幼女に泣かれたら、絶対僕のせいみたいな感じでクラス中が注目してしまうじゃないか。


 だめだ。それだけは阻止しないと。


「えっと……ほら、大丈夫だよ。始業式って言ったって、クラスの発表と課題が配られるだけだし。そ、それに今日の遅刻だって、つかさちゃんだけじゃない。僕も遅刻しちゃったんだよ。だから廊下に立たされてて」


 変な笑いで誤魔化しながら僕は力説した。となりの誠は我関せずといった感じだ。


 なんでそこでドライになるんだよ。ちょっとは手伝えよこいつ。


「ぐずっ……。ほんと?」


「うんうん、ホントだよ。だからそんなに気にすることはないよ」


 僕の必死の説得が効いたのか。つかさちゃんはみるみる表情が穏やかになっていった。


「よかった。お兄ちゃんありがとうっ」


「話しは終わったか?」


 我関せずだった誠がいきなり話しに入ってきた。


 なんだよこいつほんと、僕が精神をすり減らして泣かせないように努力したってのに。


「いや、まぁ、終わったけど、なにさ」


「お前には用はない」


 きっぱりと言いやがったこいつ。心底むかつく奴だ。車に引かれて大けがすればいいのに。


「えっと、つかさちゃんだっけ? 失礼かもしれんが、俺にはどうしても高校二年生に見えないんだが、本当に十六歳か?」


「十六歳じゃないですよー。高校生に見えないとはよく言われるです」


 十六歳じゃないって。まさか、もう誕生日が来てて、十七歳だなんていうんじゃないよね。


「じゃ、じゃあ、つかさちゃんは何歳なのかな?」


 僕は率直に聞いてみた。


 そうだよ。人を見かけで判断しちゃいけない。もしかしたら、この一見幼女に見える東條つかさちゃんだけど、実は十七歳でしたー。なんてことが、百パーセントないとは言えないじゃないか。実はこの子すごく大変な思いをしてる子なのかもしれないし。


 うん、つかさちゃんの口から発せられる言葉をちゃんと聞こうじゃないか。



「つかさ、六さいだよー」



 僕の中の小さな希望が打ち砕かれた。


 つかさちゃんは、その見た目通り、幼女だった。


「えっと、ならつかさちゃんは何でこのクラスの生徒なのかな……。六歳って普通、幼稚園だよね、確か」


「酷いです! つかさは、六さいだけど、今年で七さいになるです! だから、本当だったら小学一年生です!」


 つかさちゃんはそう言って頬をプクーっと膨らませた。


 どうやら怒っているらしい。その怒っている姿がなんか可愛らしいのは言っちゃダメなんだろうか。ほっぺたぷにぷにしてやりたい衝動が襲ってくるよ。


 おっと、そんなことは今は重要じゃない、なんで今年七歳になるつかさちゃんがここに居るのか、高校二年生なのか、そのほうが大事だ。


「じゃあなんでこの学校に?」


 僕がその質問を投げかけた時だった。何か考えていた誠が口を開いた。


「まさか……飛び級か?」


 その誠の言葉を聞いたつかさちゃんは、笑顔でうなづいた。


「うん、そうだよー。つかさ飛び級試験受けたんだよー」


「え? なに、この学校って飛び級ありなの?」


 僕は置いて行かれたような状態になりつつ、誠の方を見た。


「なんだ、春樹は知らなかったのか? この学校はそういうの率先しているぞ」


「えっ、そうなの?」


「お前、自分の学校のことだろうが……。いや、流石につかさちゃんのような飛び級は多分初だと思うが、一年、二年の飛び級ぐらいなら学年で言えは一人二人はいるぞ」


 まさか、そんな制度があるとは……。

 まぁ、学年最下位争いをいつもしている僕にとっては全然関係ないけど。むしろ落第しないかどうかの方が心配だ。


「にしても、十年も飛び級だなんて、つかさちゃんすごいね! めちゃくちゃ頭いいんじゃない?」


「そんなことないですよー。たまたまです」


 照れ笑いをしながらつかさちゃんは言う。


 表情一つ一つがなんかもう、癒されるなー。まさに天使だよ! 天使の笑顔。


「あ、そんなことは置いておいて、ちょっと聞きたいことがあったのです」


 笑顔から一変。つかさちゃんは不安そうに顔をしょんぼりとさせて、こちらを見てくる。


「なにかな、勉強のことなら僕に聞いてもちょっと答えられないかもしれないけど」


「お前に勉強のことを聞く奴がいるわけないだろ、勉強出来ないオーラで包まれてる自覚ないのか?」


 冗談のつもりで言ったのに、誠にため息交じりでつっこまれてしまった。うん、たしかに勉強はできないけどさ、僕、そんな馬鹿オーラ出てる?


「勉強のことじゃないのですー。実は、ちょっと、クラスの雰囲気が悪いなーって思って、いつもこんな感じなのかなって。つかさ不安になったです」


 あー、確かに、今のクラスの雰囲気はちょっとなー。ギスギスしてて、はっきりいって僕ら以外はなんか重い空気になってるからな。


「あー、そうか、もしかしてつかさちゃんは知らないのか」


「何をです?」


 首をちょっと斜めにして、上目づかいで僕らの顔を覗いてくる。


 そのしぐさがとても愛らしくて、かわいくて。卑怯だ。


「えっとね」



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