アニメヒロインのママが可愛くなったのはいつ頃だろう。最近はヒロインのママの方が可愛いまであるよね
結局のところ、僕らは三人でつかさちゃんの弁当を平らげた時にはみんなお腹いっぱいになっていた。
つまり、神埼さんのサンドイッチを食べるというところまで行かなかったのだ。
「おなかいっぱいになったですー」
つかさちゃんがそういうが、僕もそうだ。神埼さん自身も「私もです」と言っていたので本当に三人ともお腹いっぱいになってしまったのだ。
というわけで、神埼さんのサンドイッチはおあずけになってしまった。神埼さんからしてもあのお弁当のあとには出しづらかったというのが少なからずあるんじゃないだろうか。
「私のは後で小腹が空いたら食べましょう」
神埼さん自らも言っていた。
僕らは公園で少しのんびりしたあと、ゲーセンへと足を運んだ。
「つかさゲームセンターは初めてですー。楽しみです」
「そういえばそんなこといってたね」
考えてみたら六歳児である。ゲームセンターというところにもあまり縁がないだろう。親御さんもよく許可してくれたよね、よく考えたら同級生とゲーセンだなんて実は敷居高いだろうに。
「そういえばつかさちゃんはいくらもらってきたの?」
それによって遊び方が随分変わってくる。例えば千円とかだと、遊ぶものも慎重に選ばなければならない。UFOキャッチャーなんてやったら五分と経たずに使い果たしてしまう可能性がある。
そうなればゲームセンターに来たとしても満足行く遊び方ができないかもしれない。
「一万円もらってきたですー」
「な……」
「えっ……」
僕と神埼さんは驚きの声をあげた。
六歳児がゲームセンターに行くからといって一万円を渡すとは、驚愕以外の何物でもない。僕は五千円持ってきたので単純に倍の額をつかさちゃんは持っているわけか。
料理教室もしてるみたいだし、金銭感覚が僕らとズレてるのかな。
「余るようにちゃんと計画もって使いなさいって言われたです。余ったらママに返すです」
つかさちゃんの言葉を聞いて少し安心した。全部使ってきなさいとは流石に言われなかったようだ。
よく考えたらそりゃそうか、ゲームセンターで一万円使うってのはなかなかできることじゃない。メダルゲームにハマりこんだら確かに使ってしまうかもしれないけれど、UFOキャッチャーやビデオゲームでは流石にそこまで使い切るのには時間が掛かる。
僕は五千円持ってきたけど、当然全部使う気はない、残す気でいる。せいぜい使って三千円ってところだと考えている。それぐらいが関の山じゃないかな。
「神埼さんはいくら持ってきたの?」
あまり聞くようなことじゃないけど、どういう遊び方をするか計画を建てるために念のため聞いてみた。答えてくれなくても構わなかったのだけど、神埼さんはすぐ答えてくれた。
「私は四千円持ってきました」
僕とだいたい同じくらいだった。とすれば、神埼さんは使えて二千円ってところだろうか。
よし、なんとなく計画は決まった。
つかさちゃんが遊びたいものをとりあえず聞いて、つかさちゃんが遊んでるところを僕らが見たり、一緒に遊んだり。それが一番良い感じだと思う。
つかさちゃんがあまりお金を使いすぎるなら、ちょっと制してあげる。あまり散財をさせるのも良くないだろうし。
「つかさちゃんは何したい?」
「あれやってみたいですー」
つかさちゃんが指をさした方には大きなぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーだった。
「これどうやってやるですかー?」
つかさちゃんは走ってUFOキャッチャーの前まで行き、目の前のボタンを見て僕に聞いてくる。
「まず、1のボタンを押しっぱなしで横移動。次に2のボタンで縦移動。3のボタンでつかむって感じだよ。3のボタンは別に押さなくても下まで行けば自動でつかむから、重要なのは1と2のボタンだね」
「なるほど。わかったです」
そう言って、つかさちゃんは財布を取り出した。猫の形をした小さめの可愛い財布を。
「つかさちゃんの財布可愛いですね」
神埼さんがそう言うと、
「にっこりニャン太ですー」
つかさちゃんが財布を見せながら言った。
どうやらその猫のキャラクターの名前らしい。
そのにっこりニャン太の財布を開けたつかさちゃんはおもむろに1万円札を取り出して、UFOキャッチャーの硬貨投入口を睨みつける。
「大変です。一万円札が入らないですー」
この子は一万円をこのゲームだけにつぎ込もうとしたのか。もしくはお釣りが出ると思ったのか。それは定かではないが、僕は優しくつかさちゃんに教えた。
「百円玉か五百円玉しか入らないから、両替しないといけないんだよ」
「そうなのですかー。両替してくるですー」
つかさちゃんはそう言って、あたりをキョロキョロし、店員を見つけるとその人のところまでダッシュ。
「どうしたの? お嬢ちゃん」
「これ、両替して欲しいですー」
「両替は両替機じゃないとできないんだよ。あっちに両替機あるからそこに行こう」
優しい店員で助かった。つかさちゃんの素早いダッシュに僕と神埼さんは追いかける形になったけど、店員さんがつかさちゃんを両替機まで連れて行ってくれった。
ありがとうございます。と僕と神埼さんは店員にお礼をして、つかさちゃんの両替を見守った。
ちゃんと両替ができたようで。千円分の百円玉が出てくる。残りの九千円はお札で返ってきた。取り忘れが無いかどうかを確認して、UFOキャッチャーへと戻る。
「くまさんのぬいぐるみとるですー」
つかさちゃんは百円玉を投入口へと入れる。この台は二百円必要なようでもう一枚。
意気込み十分なつかさちゃんは思い切ってボタンを押す。
クレーンがゆっくりと動き、ぬいぐるみの目の前まで来る。そこでつかさちゃんは1のボタンを離し、次に2のボタンを勢い良く押す。すると、クレーンがぬいぐるみへとどんどん近づいていく。
クレーンが真上に到着した時、つかさちゃんはボタンを離す。3のボタンは押さないようだ。
クレーンが開き、ゆっくりと降下。そして、下まで下りきると、クレーンがぬいぐるみを挟む。が、アームが弱いのか、ぬいぐるみは持ち上がることなく、クレーンが戻ってくる。
「むむむ、これは難しいです」
そう言うと、つかさちゃんは速効で再び二百円を投入。再び挑戦を開始したが取れず。三度二百円を投入――。次も――。その次も――。
結局。つかさちゃんは、途中両替をはさみ、計十回チャレンジした。結果は無残なものだった。そして、もう一度両替しに行こうとしたところで僕は止めた。
「もう、やめときなよ、つかさちゃん。このままだとあっという間にお金を使い果たしちゃうよ。ゲーセンは他にもゲームがあるから他のゲームしよう」
泣き出しそうな顔をしているつかさちゃんである。
取れないということが悔しいのだろう。もはやぬいぐるみが欲しいという動機よりも、なんとしても取りたい。という気持ちの方がありそうだ。
「でも、ぬいぐるみが全然取れないです」
UFOキャッチャーは貯金箱だと、誰かが言ったらしいが、それを初めて言った人はある意味尊敬できる気がする。これ以上ない例えじゃないだろうか。貯金箱と違う点は、お金が貯まらないというところなのだが。
「それはもう、しょうがないよ。諦めよう。これ以上このUFOキャッチャーにこだわってたら他の遊びができないよ。ほら、一杯楽しそうなゲームがあるじゃないか」
「ぬいぐるみ――」
名残惜しそうにつかさちゃんはUFOキャッチャーを見つめるも、諦めてくれたようで、UFOキャッチャーの前から少し離れる。
「もっと楽しいのあるですか?」
「ありますよー。銃でゾンビを倒すゲームとか。私はやったことないですけど、他の人がやってるのを見たことがあります。あれは楽しそうでした」
「そういう系は確かに面白いね。あとはほら、音ゲーとかもあるし」
「音ゲーってなんです?」
「んーどういえばいいんだろう、リズムゲーって言えばいいのかな。音楽に合わせてボタンを押したり叩いたりするゲームだよ」
「それはとても楽しそうです。やるです」
なんとか興味を他に逸らせたようでよかった。僕はどうも小さい子の泣き顔とかに弱い傾向がある。困るというか、なんとか泣き止ませようとする感じで。
そんなこんなで、僕らはゲームセンターで充実した時間を過ごした。
最後に、三人でプリクラも撮った。
僕は恥ずかしいから遠慮しようとしたんだけれど、つかさちゃんと神埼さんに押されて結局撮るはめになった。
この件で良かったことといえば、神埼さんと一緒に撮ったプリクラをゲットすることができたということだ。つかさちゃんというコブ付きではあるが。神埼さんと一緒に撮ったという事実は変わらない。そして証拠もある。これはどこかに貼ることはせずに大事にとっておこうと心に誓った僕である。
そして気がついたら十六時近くになっていた。
大分遊んでしまった。あまり遅くなっても行けないから。この時点でつかさちゃんを親に連絡させる。
僕はここで思った。つかさちゃんが先に帰ったら。神埼さんと二人っきりになれるじゃないかと。
しかし、そう、思い通りにはことは運ばなかった。
「いけない、私お母さんに帰り夕飯の買い物を頼まれてたの忘れてました」
神埼さんは唐突に言った。忘れてたのを思い出したのだろう。
それを聞いて僕は引き止める理由も無いので、
「そうなの。じゃあつかさちゃんは迎えくるまで僕が一緒に居るから、先に帰って大丈夫だよ。夕飯の頼まれごとしてたんだったらしょうがないわけだし」
「本当にごめんなさい」
「いいよいいよ。また明日学校で」
「お姉ちゃんまた明日ですー」
神埼さんは何度も謝りながら走って駅へと向かっていった。
「僕らも駅前に行っておこうか。つかさちゃんのお迎えも駅に来るんでしょ?」
「そうです。ママが駅に迎えに来るです」
楽しかった一時を胸に、僕とつかさちゃんもゲーセンを後にした。
この時に気がついたことが一点。
結局神埼さんの作ったサンドイッチを食べることができなかったということだ。
結構楽しみにしていたのに言い出すタイミングがなかった。本当に残念である。
つかさちゃんのお弁当を食べ過ぎたことも原因にあるんじゃないか、と思ったけれど、つかさちゃんに責任転換する意味が無い。
つかさちゃんは純粋にお弁当を作ってきてくれただけなのだから。
僕はその後、つかさちゃんとつかさちゃんの迎えを待った。
ジュースを買ってあげて、一緒に飲んだりはしたけど、それ以外は特になにかあったわけでもない。時間がゆっくりと進んで、日が暮れそうになって、あたりが少し黄昏色になったぐらいになる頃につかさちゃんの迎えは到着した。
「つかさと一緒に待っていてくれてありがとう」
そう言うのは、つかさちゃんのママである。
送りの時と違うのは今度はリムジンから降りて、僕に挨拶しに来てくれたというところ。
要するに今回はつかさちゃんのママの全身を見ることができたということだ。
背はそれほど高くない。というかむしろ低い方の部類じゃないだろうか。そして、なぜ僕は送りの時にはっきりと見なかったのだ。と後悔してしまうほどの美乳。
神埼さんよりは大きくはないが、スレンダーな体の割りには出るところがはっきりと出ている。という印象。
美しい女性。という印象を受ける。
はっきりと言おう。つかさちゃんママはありだ。
僕はそんなつかさちゃんのママの美貌に少し呆然としたけど、意識を取り戻し、
「いえいえ、流石に一人残して帰るわけにも行きませんから」
まさに社交辞令的なことを言った。
でも、その言葉に嘘はない。実際六歳児を置いて一人帰るだなんてことは僕にはとてもできない。
「そう、ありがとう。さ、乗って、家まで送るから」
社交辞令の返しには社交辞令。と言わんばかりにつかさちゃんのママは言う。
「いえ、電車で帰るんで大丈夫ですよ」
「車で家まで送ったほうが早いわ。学生さんは遠慮なんかしなくていいのよ」
つかさちゃんのママはそういうと僕を車の中に押しやる。
「いや、大丈夫ですよ」
という声も虚しく、僕は車に乗せられてしまったわけである。
つかさちゃんと同じ、後部座席に。




