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第一章 遅刻したらそら廊下に立たされるよね

 第一章


 僕らがここ、葉月学園に入学して二度目の春を迎えることになった。

 桜が満開で、僕らも後輩を持つようになる。だが、この葉月学園はそれだけじゃない。


 男女がそれぞれ二人一組になって仮夫婦として生活することが強制される。


 これは卒業後、社会人となって、結婚し、その時夫婦生活を円満に送れるようにという教育の新しい制度なんだとか。


 そして日本で、唯一その実験校として指定されたのが此処、葉月学園ということだ。

 二年になった生徒たちはそれぞれ一学期開始二週間以内にパートナーを探さないといけない。


 そして、残りの学園生活を夫婦として一緒に過ごさないといけないのだ。


 そんな大事な一学期の初日。



 僕は遅刻をして廊下に立たされていた。



「よう、遅刻野郎」


 HRが終わって教室の窓から声をかけてきたのは、同級生の坂井誠。体育会系のがっちりした体付きで頭をスポーツ刈りにしている。一年の時からの腐れ縁のようで、二年もまた同じクラスらしい。


「そういう言い方はやめろよ。僕がいつも遅刻しているみたいじゃないか。遅刻なんてめったにしないのは誠だって知っているだろ」


「まぁ、そういうな。この二年の新学期にどうどうと遅刻してくるやつなんか、遅刻魔人と言われても仕方ないと思わないか?」


「ぐぬぬ……」


 何も言い返せない。


「お前が遅刻している間にも、何組か夫婦が成立してたぞ」


「なんだって?」


 人が遅刻して廊下に立たされている間に、幸せを満喫してる奴らが居るのか。なんと許しがたいことか。


「といっても、一年の頃から交際してるとかそんなのばっかだけどな。ともあれ、だ。実際にもうパートナーを見つけている奴もいる。これは事実であり真実だ。俺らもなんとかさっさと見つけることが必要じゃないか」


「えらい力説してるけど。誠にはもうすでにいるじゃないか。一年の頃からずっと言い寄ってきてる。えっとなんて言ったっけ?」


「まさか、美穂のことを言ってるのか? 冗談はよせ」


「そんなこと言ったって。如月さんは髪も肌も綺麗で顔も整ってるじゃないか、女子には秘密裏に行われた、可愛い子ランキングにも上位だったはずだし」


 今話に出ている、如月美穂というのは、一年の頃、誠のところによく姿を見せていた美少女。


 うん、美少女と言うのが単純明快ですっきりとした言い表しなのだけれど、どう美少女なのかというとさっき僕が言った通り、髪はサラサラの黒髪ロング、肌は白くて、すべすべしてそうななめらかな感じ。顔も整っていて。とても和服とか似合いそうな容姿をしてる。


 性格のことは僕よく知らないけれど、成績は確か優秀だったはずだ。


「いいか、俺はあいつと幼馴染だ。だからお前ら見たいに外見に惑わされたりはしない」


「じゃあ何か欠点というか、ダメなところがあるの? 性格が悪いとか」


「いや…………そういうのは別にないな」


 誠は少し考えるそぶりを見せたが、すぐに否定した。


 性格は悪くないらしい。


「じゃあ何が不満だって言うんだよ」


「付き合いが長いからこそ。自分のタイプとは違うものになるんだよ。よく言えば兄妹みたいなもんだ。だから好きとかそういった感情にはならないんだ」


「そういうもんかな……」


 そんな話をしていた時だった。


「井上。あー井上春樹」


 僕の名前を呼ばれた。どこにでもあるような、実際よくありそうな普通の名前。でも、僕は気にしない。普通は僕のアイデンティティなんだ。そんなことより、


「なんだよ。今大事な話をしてるから後にしてっ」


 話かけられて、会話の邪魔をされたのが癪にさわった。僕は誰が声をかけてきたかなんて考えず、すぐに口をすべらせてしまった。


「そうか、授業より大事な話なのか? なぁ、坂井」


「いえ、授業の方が百倍大事です。一方的に話しかけられてるだけでこっちは迷惑しています。ぶっちゃけ先生が今声をかけてくれて助かってます」


 今……先生って言った?


 誠の奴、今先生って言ったよね?


 僕は一瞬言い訳やらなんやらを考えたが、もう滑った口は止めることが出来ない。


「なんだって、誠。裏切るのか? 僕たちの人生に関わる話じゃなかったのか」


「そうか、坂井、お前にとってはそんなに大事なことか。なら仕方ない、もうしばらく廊下に立ってなさい」


「そうそう、大事だから廊下に……って、え?」


 冷静に声のする方に顔を向けると。そこには怒りを鎮めようとしてる先生の姿があった。


「あっ。違います先生。ちょっとした冗談です。授業の方が大事。だから廊下に立たせるのだけはどうかご勘弁を」


 何を言ってももう遅かった。


 泣く泣く僕は一時間目も廊下に立つはめになったのだった。



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