それは言い訳だな!
今、神埼さんは校門前の桜並木道を眺めている。
言わないと、言わないと昼休みが終わってしまう。そうなってしまうと、今度いつまたチャンスが訪れるかわからない。
「その……さ、神埼さん」
「なんでしょうか」
僕の声を聞いて、神埼さんは振り向いて問いかけてくる。次の言葉を待っている。そんな感じがする。
「実は……。その僕、神埼さんのことが――」
「わーすっごい気持ちいいですー」
甲高い声が僕の言葉を遮る。
この声は、と振り返って入り口の方を見てみたら誠とつかさちゃんが居た。
神埼さんの居るフェンス際まで走って行くつかさちゃん。つかさちゃんが僕を通り過ぎたあと、誠を睨む。
「しょうがないだろ、どうしても二人がどこに行ったかって泣きながら聞いてきて聞かないんだぜ? 小さい子に泣かれるのはどうも苦手でな」
確かに、小さい子に泣かれたら困るかもしれない。だけれど、
「あと少しで告白できたのに……」
「なんだよ、まだ告白してなかったのか。時間はぼちぼちあっただろうに」
「いや、その……」
無言の時間が結構あっただなんて言えない。風景を楽しむ神埼さんに見とれてたなんてことも……。
「なんにせよ。大事なチャンスを潰してしまったな」
「誠がつかさちゃんをもっと止めていれば今頃は」
「それは言い訳だな」
言い返す言葉がみつからなかった。
僕は黙って、神埼さんとつかさちゃんが楽しそうにしてるのを眺めることしかできなかった。
結局、残り少ない昼休みを四人で過ごすことになり、神埼さんに告白ができず、何気ない世間話をしていたら昼休み終わりのチャイムがなった。
「あら、もうこんな時間だったのですね。教室に戻らないと」
「あーん、まだ屋上に居たいですー」
つかさちゃんが残念そうに言ったので、僕は和ませるために。
「明日からもまたここに来ようか。どうせならここで弁当食べるなんてどうだろう」
「それすっごい名案ですー」
両手を上に上げて喜ぶつかさちゃん。喜怒哀楽の表現を体全体で表す姿はホント六歳児そのもの。
「でも、毎日屋上に来て、怒られないでしょうか?」
ちょっと、不安そうに言う。それもそのはず、鍵が壊れているだけで、別に屋上に出入り自由というわけではないのだから。
「大丈夫だよ。バレなきゃなんてことはない」
「そうだな、極力フェンスの方に近づかなければ下からは見えないわけだし特に問題ないな」
僕と誠は神埼さんにそういう。僕は神埼さんと一緒に過ごすのが目的だから当然意地でも神埼さんを引っ張り込もうと思ってる。誠の場合は客観的事実を言ってるだけだろう。
「そうですか……なら私もご一緒させていいですか? クラス替えで今のクラスに一緒に弁当食べる友達も居ませんし」
僕は心のなかでガッツポーズをした。
これで神埼さんと毎日お昼を一緒に過ごすことが確約されたのだ。これほど嬉しい事もそうそうあるまい。
「毎日お兄ちゃんとお弁当ですー」
…………おじゃま虫も一緒だけどね。
相手は六歳児なんだからそんなこと思うのはちょっと大人気ない気がするけれど、今日だってもう少しつかさちゃんが来るのが遅ければ……。
いや、可愛いから許すけどね。
可愛いは正義だよほんと。
「あ、早く教室に戻らないと」
神埼さんが気がついたように言う。
「あっ、やべ。ホントだ、急いで戻らないとまた廊下に立たされちゃう」
僕達は走って階段を駆け下りた。