むしろダボダボの服というのもありじゃない?
「我慢は良くないよ。行ってすっきりした方が良いと思うんだ」
「そ……そうですね。言ってすっきりした方がいいですね……」
そう言って神埼さんはつかさちゃんの方を向いてこう言った。
「つかさちゃんの制服。みんなと一緒だけどサイズがすっごく小さくて可愛いっ。それを着てるつかさちゃんもすっごく可愛いっ」
あれ、トイレじゃなかったのか。勘違いしたままトイレ行っておいでなんて言わなくて良かった。恥ずかしい思いをするところだった。
「ありがとです。特注なのです。これが届くのが遅くなって、遅刻してしまったです」
「届くのが遅くなったって。もしかして今日届いたのか?」
さっきからずっと黙っていた誠が言葉を発した。よく見たら。もうカレーパン二つ食べ終わってやがる。早いよ。
「そうです、今日の朝届きました。なんだか職人さんが作るのに苦労して納期が遅れたって言ってたです」
高校生用のサイズの制服を六歳用に作り変えるのだけで、そんなに苦労するのか。サイズを縮小するだけじゃダメだったのだろうか。
「なんだか、職人さんがこだわりを持って、ただ小さくするんだったらバランスが悪いとかで色々と試行錯誤したみたいです」
「なるほどな。制服がまだ出来て無かったから始業式もこれなかったわけか、つかさちゃんが日付を知らなかったってことは親が黙ってたんだろ」
「あー、そうだね。タダでさえ目立ってしまうのに私服とかで来ちゃったら余計目立つし」
知らなかったわけじゃなくて、意図的に始業式を休んだってことなんだろう。
「そういえば、課題の提出もあるけど、そんな理由があるんだったらつかさちゃんは免除かな。始業式これなかったんだから課題もらってないだろうし」
「あ、いや、課題はちゃんと終わらせたです。先生が家まで課題を届けてくれたです」
そこらへんはきっちりとしているんだな。流石進学校といったところなのか、それとも十年も飛び級のつかさちゃんへの配慮なのだろうか。このぐらいの勉強をしますよ的な。
それにしても、ちゃんと終わらせている辺り、流石天才幼女である。
「課題ちゃんと終わらせてるなんてえらいね。僕なんか分からないところ多すぎて空欄だらけだよ」
「お前の場合、空欄だけじゃなく。埋めている解答も間違いだらけなんだろうけどな」
こいつ、僕に喧嘩を売ってやがる。絶対にそうだ。だが、ここは神埼さんの目の前、器の小さいところを見せるわけにはいかない。
「そんなことを言う誠だって、間違い多いんじゃないの」
「まぁ、全部正解とはいかないだろうな。だが、お前よりは確実に少ない。理由? そんなものは一年の時の成績がものを言うぜ。俺は全教科平均より上だが。お前はどの教科も平均より十点以上下回っているからな」
痛いところをついてくる。これだからこいつと言い争いはしたくないんだ。……僕が必ず負けるから。
「お兄ちゃんにはお兄ちゃんの良さがあるです。優しいところとかつかさ、すっごく良いと思うです」
「ありがとう、つかさちゃん」
六歳児に慰められる僕。なんだろう、目から涙が出てくる。
「そうですよ。井上くんには井上くんの良さがあります。テストの点数は上げようと思えば上げれますが、井上くんの良さは上げようと思っても上げれないものだから自信をもってください」
神埼さんにまで慰められ始めた。
逆になんかダメだしされてるような気がする。僕ってそんなにダメかな。それに、上げようとしてもあがらない僕の成績はホントどうしようもない。
成績が悪いってことはそれだけ伸び代があることにも繋がると思うのだけれど、実行するのはなかなか難しい。