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純粋なのか変態なのか、いや、きっとバカだ

「ほれ、りんごジュースだ」


 誠は一番につかさちゃんにジュースを渡した。小さい子から渡す。至極当然な流れだ。次に誠は神埼さんに緑茶を渡す。そして、そのあとに、いよいよ僕か。と思ったが、誠は神埼さんに緑茶を渡し終わると、空いていた僕の隣の席に座った。


「あれ、僕のオレンジジュースは?」


 僕の声が誠に届かなかったのか。誠は僕の方を見て、何言ってんだこいつ。と言ったような顔をしている。


「え、だから僕のオレンジジュースは?」


「ないぞ?」


 あっけらかんと、当たり前なように答えられた。


「え、無いってどういう……」


「オレンジジュース売り切れてた」


 そういうことか、なるほど、オレンジジュースが売り切れてたから買えなかったのか、なら仕方ない。


「あ、オレンジジュース飲みてーな」


「あぁ、まだあったはずだぞ、オレンジジュースはいつも余るぐらいだからな」


 クラスメイトの話声が聞こえてきた。おかしいな、今誠の話によるとオレンジジュースは売り切れて…………。


「あっ、てめー嘘ついたな。この野郎」


「うるせー、オレンジジュースぐらいでガタガタ言うな!」


 しかたない。今日は飲み物なしで弁当を食べるか。


 仕切り直して、僕は弁当を開こうとしたその時。おつりをもらっていないことに気が付いた。


 見たところ、誠はカレーパン二つにジュースを買っているようだ。それにりんごジュースと緑茶を足して……。


「誠、おつりは?」


「ないぞ?」


 誠は何言ってんのこいつという顔をしている。


「いや、無いわけないだろ」


 何言ってんだって顔はむしろこっちがしたい。冷静に考えて、カレーパン二つで二百円。りんごジュースと緑茶で二百四十円。合計四百四十円じゃないか。のこり五百六十円はどこにいったんだ。


「春樹は千円渡してきたからな。もったいなかったから購買部で昼飯買ってるやつランダムで何人かに飯買ってやったぜ。いやーさすが春樹だよな。普通知らない奴の昼飯の分まで買ってやろうとおもわない。俺には到底マネできないな。マネーだけに」


「てめー。つまらんギャグで誤魔化そうったってそうはいかないぞ、このやろう」


「くすっ。仲良いんですね」


 このやりとりのどこを見て。そう感じたのだろうか。神埼さんは笑っていた。


「いやー、あはは……」


 これには僕も笑ってごまかすしかなかった。


「お兄ちゃん達は仲良しさんです」


 つかさちゃんはペットボトルを両手で持って、重たそうにりんごジュースを飲んでいる。


 百二十円の小さいペットボトルなのだけど、それでも六歳からしたら中々の重さなのだろうか。だとしたら高校の鞄とかめちゃくちゃ重たいのでは。


「つかさちゃんは教科書とか持って帰るの大変じゃない?」


 何気なく聞いてみた。実際の登校は今日からなのだからまだ一度も教科書を持って帰ったりしてないだろうけれど、どうするつもりなのだろうか。


「あー、それなら先生に許可をもらって、ロッカーに置いて帰って良いことになったです」


 教室の後ろに完備されている個人のロッカー。本来なら教科書等は置いてはならない。ということになっているのだが、流石に六歳児に毎日重たい教科書を持って帰れというほど学校側は鬼畜じゃないらしい。


「でも、予習復習とか、宿題もあるから、全部は置いて帰ることはできないです」


「あー、そうか。確かにそうだね。少なくともノート類は持って帰らないとダメなのか」


 ノートだけでも六歳児には重くなるだろうし、大変なのは変わりないようだ。


「高校生の鞄を持って毎日歩いて登下校なんて考えたらそれだけで大変だね」


「いや、つかさ。毎日車で送り迎えしてもらうです。ママがそのほうが安全だからって言ってたです」


「あ、車か、なら校門から教室までの距離しか歩かなくていいね」


「そうです。パパもそのほうが良いって言ってました」


 親からするとまだ六歳なのに高校に行かせて、周り年上だらけっていうのは確かに心配してしまうだろうし、当然と言えば当然と言える。本来だったらようやくランドセルを背負って小学校に行くということを考えたら不安になるのはしかたがない。


 そんな話をしていると、神埼さんがなんだかそわそわしている様子だった。トイレに行くのを我慢しているのかな。でも、我慢するのは良くないと考えた僕は、思い切って神埼さんに声をかけることにした。


「神埼さんどうしたの? さっきからそわそわしてるみたいだけど」


「えっ、いや。その……」


 神埼さんはもぞもぞと体を揺らす。やっぱりトイレ行くの我慢してるんだろうか。



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