奢られるの嫌系な子みたいやね
「あの、井上くん。これ、お茶代です」
神崎さんが財布から小銭を出して僕に差し出してくる。
「あ、いや、いいよいいよ。お金なんて」
「それだと悪いです」
胸を張って言ってきた。
その瞬間に胸がぽよんって踊るのを僕は見逃さなかった。
ものすごくやわらかそうで、大きなマシュマロ……。
だめだ、耐えきれない。鼻血が吹きだしてしまいそうだ。
僕は顔がゆるむのを必死にこらえながら、
「いいんだよ。僕は神崎さんと一緒にごはん食べたかったし、それがかなえられたわけだからね。全然損じゃない」
「だめです。お金のことはきっちりしないといけません」
そういって神埼さんは僕の右手を握って、小銭を握らせてきた。
柔らかい神埼さんの手が僕の手を包む。
とても暖かくて。体の全神経が僕の手に集中する。
初めて。初めて神埼さんの体に触れた。感動で僕の体は硬直した。
一瞬意識が飛んで、ハッと気を確かにする。そして、手を見ると、やっぱり握られている。夢じゃない現実なんだ。
「どうしました?」
神埼さんが手を握ったまま不思議そうな顔をして僕の顔を覗いてくる。おそらく、僕が小銭を握り返してないから手を離せないんだと思う。
「あ、いや、どうもしないよ」
僕は慌てて、小銭を取り、ズボンのポケットに小銭をねじりこんだ。
遂に……遂に触れてしまった。神埼さんに。それも服越しじゃなく、直接肌に触れた。
日本人の九割以上が触れることが出来ないであろう神埼さんの肌に。
そう思った時、僕はすごいことを思いついてしまった。
人間の肌は体の表面全てと繋がっている。それは自分の体を見てみれば誰にでもわかることだ。すなわち、僕は神埼さんのおっぱいに触れたと考えても良いんじゃないだろうか。
僕は今日。神埼さんのおっぱいに触れた。この事実は迷うことない真実だ。
「あ、つかさ今日お財布持ってきて無いですー」
お金を渡してる姿をみて、つかさちゃんがしょんぼりした顔で言ってきた。
「ごめんなさいです。お兄ちゃん」
「あ、いやいやいや、良いよ。流石に六歳のつかさちゃんにジュース代よこせなんて請求はしないから」
同級生の女の子からジュース代をもらうのにも抵抗があるっていうのに、小さい子からももらうだなんてことは僕には無理だ。
良心というか、普通に心がえぐられる。つかさちゃんの分は普通におごらさせてもらう。
「六歳ですが、同級生です。それにお金の貸し借りはダメだってママが言ってたです」
「んーじゃあ、内緒にしたら大丈夫だよ」
僕はちょっと考えてから言った。
実際問題、そのくらいのことを黙っていたところでそんなに怒られることはないだろうし。
「ダメです! 隠し事はしちゃだめです」
なるほど、六歳的には確かに親に内緒にするって悪いことのイメージがあるな。でもどうしよう。
僕が悩んでると、神埼さんがまた手を差し出してきた。
「私がつかさちゃんの分も出しておきます」
にっこりとほほ笑んでそう言ってきた。
「えっ」
僕は純粋に驚いた。どうしてそうなるのかと疑問しか出ない。
「つかさちゃん、私がお金だしておきますから。クラスメイトのお姉さんに奢ってもらったってママに伝えてください」
神埼さんはつかさちゃんに言った後、僕の方を見て。
「こうしたほうが親御さんが心配しないでしょ?」
と言ってきた。
なるほど、それは確かにそうだ。娘が編入初日に男子生徒にジュースを奢ってもらったって知るより、女子生徒にジュースを奢ってもらったって言ったほうが安心する。
神埼さん頭いいな。その辺の配慮は流石女子ってところなんだろうか。
そんなやりとりをしていると、誠が帰ってきた。机移動と少しの会話だけだから、数分で戻ってきたわけだけど、本当に早い。昼食時の購買部はいつも混んでいるのに。