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新撰組のクラスメイトに爆弾が落ちてきた

作者: 風祭繍

 幕末の京都のとある場所にて、新撰組局長近藤勇と京都見廻組隊士佐々木只三郎は会談を持った。

 お互いに仲間を何人か連れての会談である。近藤はその内の一人を佐々木に見せた。

「では、その者が?」

「そう、インディアンと呼ばれている。アメリカの先住民だ」

「なるほど……」

 脇に控えていた者が一礼し、佐々木と目を合わせる。

「確かに我らに似ている。肌の色はやや違うが、我らが共に行動すればそれほど目立たずに済むだろう。それぞれが虚実織り交ぜる術は必死に磨いてきたからな」

 近藤は頷いた。


 幕臣とは言え、佐々木の方が格上だ。にもかかわらず、二人は対等に話している。

 その訳は、少し過去にあった。

 西暦1848年のこと。日本の年号では嘉永元年という年である。ヨーロッパ各国で革命が起きた動乱の年、日本ではちょっとした騒動があった。京の陰陽師達が『お告げがあった』という旨の発言をしたのだ。内容は様々であったが、総合的に平均値をとると『世界の重大事に備えて、手を取り合え』と言うようなものだった。その後の公家と武家が共に日本各地に密偵を放ち調査したところ、全国の神社仏閣はおろか、蝦夷の地に住むアイヌ民族や奥州のイタコ、果ては薩摩藩が一部を管理する琉球のユタと呼ばれるもの達にまでその『お告げ』を語っており、それに呼応した各地の人々が身分や立場の差を越えて結集したのである。当然、幕府や朝廷に知られるとたちまち捕縛されるであろうことを予見し、その勢力にある幕臣が密かに統率し、幕府側には都合のいい報告などをして、その勢力の存在を隠した、と言うわけである。

 今、向かい合っている二人もその勢力の一部なのである。


「その者を今後は、『黒澤冬芽くろさわ とうが』として扱えば良いのか?」

「左様取り計らっていただきたく」

「ふむ……」


 黒澤冬芽とは、新撰組隊士の男である。その男も勢力の一員であった。武士の家計であるが、出自は本人にも良く分かっていないらしい。先祖の言い伝えでは、明智光秀の拠点が丹波坂本にあった折の家来であった、という事らしい。本能寺の変の後にどうなったか、という事が伝えられていないので、ひょっとしたら農民か商人の出であることをごまかしているのではないか、などと本人が疑う始末であった。


 その黒澤は、大阪の適塾に身を置いていた。優秀であり、中でもオランダ語の習得がとても速かった。福澤諭吉という者が競う相手であったという。ある時、緒方洪庵に江戸へ呼ばれ、そのまま京へ上る浪士組に参加した。一時期、近藤や芹沢とは離れたが、そのまま京に留まり、後に新撰組隊士となって近藤の許に身を置く。


「何卒、お願い申し上げます」

「ほぉう……訛りはあるが、見事な日本語だ。いつの間に?」

「黒澤殿から、手ほどきを。その時『コツ』というものも教わり、道中で実践しておりました」

「それはまた、殊勝な。ところで、本物の黒澤は今、何処かな」

「最後の手紙によると、その時、イングランドのリヴァプールという街に居たようです。今頃はボストンという街に向けて航海の途上ではないかと」


 要するに、世界中に『お告げ』の類があったのである。実のところこの勢力に類するものが遥か以前から世界中に存在していた。そして、密かに連絡網を持っていたのだ。日本から清への道は弘法大師空海が、清からインドまでは玄奘という僧がたどった道をもとに整備されてきた。そこから先も様々な者達が通った道を発展させてきた。つまりこの者達は、騒乱の最中にあるヨーロッパ、中東、アジアを陸路で、それも信じられない速さで旅してきたのだ。その勢力のなせる業か、未知の何かの助けによるものか。そこに関して、彼らは口を開かなかった。

 そして、彼らが行おうとしていることは、南北戦争で混乱しているアメリカから、先住民の男と日本の侍を交換し、それぞれになり替わらせるということなのだ。何のためにそんなことをするのかは、共に旅した者達にも詳しくは知らされなかった。

 二人はアフガニスタンという国で顔を合わせた。その国に居た時間もわずかだったが、共をした者達は、彼らは古くからの親友であるように見えたという。


 しばらく話した後、佐々木は頷いた。

「これならば、江戸へ送っても平気だろう。江戸の同志に伝えておく。だが、何故江戸へ?」

「イギリスの同志が一時期日本を廻っていたらしい。もちろん隠密にだが。そして江戸を見て確信したという」

「確信とは?」

「その者は、イギリスの陰陽師と言ったところなのか、まあ、そのような立場の者だ。ドルイドというらしい。その者によると、江戸は世界的にも歴史的にも屈指の魔術都市であるそうだ。家康公と共に南光坊天海様が江戸を形作った際、いくつもの仕掛けを施したようだ。京の街を模したとも言われているが、それ以外にも大いなる仕掛けがあるのかもしれぬ」

「ふむ、まるで気付かなかったな。それで?」

「なんでも、この後、江戸には『ゲート』と言うものが現れるらしい。『扉』や『門』の類の様だが、詳細は分からぬ。そしてそれが何時なのかも」

「その時のための備え、というわけか」

「左様」


 その後の彼らについては、またいずれ……

 謎に満ちた現実を、今日も彼らは行く。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 ムーを読んだ気分になりました。 冒頭のインディアンのくだりまでは「へー、そんな事もあるよね」だったのですが、その後何度も衝撃を受けまして。 何度もの驚きの重ね方。勉強になりまし…
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