幸せのカタチ
高嶺の花。
そう呼ばれている我が高校の女子生徒の彼女の噂を聞いた時はそう思った。
ストレートの綺麗な黒髪を肩くらいにかけて堂々と歩く。
かわいいよな
近寄りがたい
でも綺麗だから見ていたい。
男子高校生の噂はその話題で絶えない。
普通の高校生の僕には縁のない人だと思った。それなのに
「ねえ、これどうしたらいいの?」
「どうやって、と言われても・・・」
放課後になり、帰ろうとした途端、急に声をかけられて戸惑いながら話す。彼女は、僕の机に堂々と教科書を広げて、そこに目を向けている。
一部の男子が恨めしそうに見ている。
「僕、帰らなきゃんだけど・・・」
「何よ、帰りたいの?」
「いや、別に・・・」
「はっきりしなさいよ、男なら」
彼女はなんというか、サバサバしていた。むしろ男らしい。そんなギャップがあるとは思わず少し何かが引っかかる気がした。
「今日、用事ないんでしょ?」
「え、あ、うん」
「なら付き合いなさいよ」
そう言って顔を伏せて少し上目遣いをする。しかもほほを赤くして。
僕はそれに気づかず、ただただもしかしてこの子はヤンキーなのかな、絡まれたのかな、と見当違いのことを思っていた。
それから高校を卒業して、大学卒業が近づいてきた今、その彼女と僕はいつも一緒にいる。俗に言うと、お付き合いをしている。何故こんな展開になったかわからない。今、彼女は僕のベッドに寝転がり、ゲームをしている。僕は本を読みながら聞きたかったことを聞く。
「ねえ」
「ん」
「何で僕と一緒にいるの?」
「え」
「だって、僕なんかと」
「バーカ」
彼女はゲームに目を向け笑いながら言う。
「私が一緒にいたいからじゃん」
「何で僕なの?」
「んー」
彼女はゲームのボタンをカタカタ言わせ
「なんかね、他の人と違った」
「違う?普通だけど」
「そうじゃないの、何ていうかね、見た途端に何か感じてね、それで観察しているうちに」
「観察って、そんなことしてたの?」
「まあね。ていうか気づいた時から追いかけてたよ」
「うーん、よくわかんない」
「いいよ、わかんなくて。むしろその方がいいよ」
「え、何で?」
「わかんない方がいいに決まってんじゃん」
彼女は少しむくれて
「他の人が知らないで、私だけ、知ってればいいもん」
そう言ってゲームを置いて、起き上がる。そそくさと僕の元に座り込み
「これからも、ずっと私だけの君なんだから」
かるーくそっと抱きしめる。
途端、僕は真っ赤になりそそくさと彼女から離れ、後ずさりする。
彼女はあはは、と笑い
「逃がさないよ?」
といたずらっぽく笑った。
・・・逃げるつもりはないけどね。
そう思いながら僕は前から買っていたエンゲージリングを後ろ手に隠す。
今日もこの指輪は隠すことにしよう。
なんというか、マンガみたいに、洒落てるところで言おうと思う。
というのは意気地のない僕は思ってるけどそれを知らない彼女は
「あ、そういえば今日さーあそこの展望台行かない?」
「あー初めてデートで行ったとこ?」
「そうそう!でね、そこでね」
彼女は照れながら
「君にプロポーズするんだ」
「え」
彼女はハッとした顔になり、バツが悪そうに
「あ、言っちゃった・・・」
「ぷ、プロポーズ?」
あー、と頭を抱えてから彼女はキッとした顔をして
「要は、卒業したら私と結婚して!って言いたかったの!あーあ・・・」
彼女はしょぼくれてしまった。その姿を見て、僕はおかしくなり、思いっきり笑った。
彼女は涙目でじとーっと僕を見るけど、僕は笑いながら
後ろ手のエンゲージリングを差し出し
「僕と結婚しましょう!」
それからの彼女は、目を丸くして、徐々に笑顔になり、それから泣き出しそうな顔で
僕に飛びつき、抱きついた。サラサラの髪からシャンプーの匂いが僕の鼻を刺激する。僕はそれを受け止め、押し倒される形で笑う。
彼女は泣きながら僕の胸にすがりつき、僕は笑う、笑う。
これからどんなことがあろうと、きっと彼女と幸せになる。
幸せのカタチを作ろう。
どこの家にもないカタチを。
「ずっと、好きだよ」
「僕も、ずっと」
高校生のころ、彼女は遠い存在だった。
でも、今、目の前にいる。
彼女が見つけてくれてよかった。
彼女をその分幸せにしたいと思う。
心からそう思う。
その言葉は取っておこう。
きっと彼女は嬉しくて泣いてしまうから。
多分、僕は照れるだろうけど。