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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第3.27話 悪魔は城内も探検するのか

 秘密を隠すには地上よりも地下がいい。地下は見ることが出来ず、地下を探す者も少ない。人は自分の足元にどのような秘密が隠されているか、知りもしないのだ。

 かく言う俺も知らずに数か月間過ごしていたわけで……



「しかし飾り気の無い城だな」


 廃墟の村からの帰り道、俺は魔王城の外観を眺めながら言った。


「防御力重視だからね。勇者たちが強力な魔法で攻撃してくることを考えて外壁をとにかく厚くして、正門以外から中に入られないように工夫したんだよ。ボクと正々堂々戦えるようにすれば、他の被害は抑えられるからね」

「なるほどね……」

「だけど思った以上に勇者たちはマトモと言うか……城を壊そうとしたりはしないね」

「よかったじゃないか」

「いいんだけど……外壁を硬くするのに結構お金と時間使ったんだよね……」


 心配しなくても大丈夫だ。肥溜めみたいな穴に落とされた恨みを晴らすため、勇者たちは外壁の強固さにも負けず城ごとお前を生き埋めにしてくれるはずさ。

 その場合俺も一緒に埋まるけど。どうしよう、今のうちに逃げる準備しとくか。


「さて、そろそろ愛しの我が家だよ。姫も待ちくたびれて寝ちゃってるかな?」

「お前の玉座を占領して新・魔王になってるかもな」

「そんなわけないよー。悪魔さんも冗談がおもしろくないね」


 自然に馬鹿にされてるのがもうすっげぇムカつく!




 大広間に戻ると、姫様が魔王の玉座を占領して寝ていた。

 新・魔王、ここに誕生。


「起きて~、起きてよ~~」


 姫様を揺さぶりながら弱気な声を出す魔王。この城には魔王以上に魔王に向いてる者が多すぎる気がする。もう俺が悪魔王とか名乗っちゃうか。だせぇ。

 姫様はゆっくりと目を開けると、自分の粗相に気付いたのか慌てて立ち上がり、何度も頭を下げた。


「いいよいいよ待たせたのはボクたちだし。眠かったんだよね」


 姫様は顔を紅くして小さく頷いた。俺としては睡眠を妨害されたことに逆切れしてもっと魔王を困らせて欲しかった。寝てるのを邪魔されると豹変するとかキャラが立つし。


「とにかく、えーと」


 魔王は半笑いで周囲を見回す。きもちわるい。


「なんだっけ」

「何が」

「何する予定だったんだっけ?」

「……俺に城を案内する予定だったんじゃ?」

「それだ!」


 魔王が俺を指差して言った。とりあえずその指を握って捻ってみた。


「痛い痛い痛いって悪魔さんっ!!」


 うそをつけ。お前魔王だから勇者の剣を素手で掴めるくらい耐久力あるだろ。


「で、まずはどこから案内してくれるんだ」

「忘れてたの謝るからごめんだから! だから指捻るの止めてって!」


 姫様がオロオロしていることだし、ひとまずは捻るのを止める。


「もう……骨が折れたりはしないけど痛いものは痛いんだよ」

「え、マジで痛いの?」


 ダメージは無いけど痛いとは興味深い。というわけでもっかい捻ってみた。


「だから痛いんだって!! 本当だって本当!!」


 わぁい、楽しいぞー。




「まずここがお風呂ね」


 魔王城の案内は1階から始まった。大広間を囲むようにいくつかの部屋があるのは知っているが、俺もその全部を把握しているわけでは無い。


「こっちの風呂にはいつも入っているが、こっちは?」


 俺はいつも利用している浴場の隣にある広い入口を指差す。


「そっちは男性用大浴場だね。悪魔さんが使っているのは幹部用特別浴場だから」

「わざわざ分けてるのか」

「お風呂くらい静かに入りたいでしょ」

「まぁな」

「たまに2人で」


 意味を理解したのか、姫様が頬を紅潮させる。混浴かよお前ら。魔王爆発しろ。


「で……女湯は?」

「大広間を挟んだ反対側の地下3階だね。男湯と近いと危険だって女性陣から言われて」


 すごい警戒されてるなお前の部下!


「ちなみにこの真下の地下2階と3階が男性宿舎で、女性宿舎は反対側の地下2階だよ。あっちの地下2階から下は男子立ち入り禁止だから案内できないんだよね。ごめんね悪魔さん」


 この城で姫様以外の女性を見ていない理由が分かった。魔王軍の男子がキモいからだなっ!!


「男性陣からの『脱衣所に入ったらまだ着替え終わってない女の子と鉢合わせちゃったりな素敵夢物語が無くなっちゃうじゃないですか!』っていう反対意見を押し切ってしっかり分けたのに、女性陣はまだまだ打ち解けてくれないんだよね」

「お前の部下はバカなのか?」



 

「ここは交易本部だね」


 正門とは反対側にある大扉の前。外からでも中が広いことが伺える。

 魔王が扉を開き、その後に続いて部屋に入る。大広間よりも広い空間にいくつもの木箱や机が並んでおり、その間を巨人族やフードを被った魔王の部下が行き来していた。部屋の反対側付近は地面がむき出しになっており、地下に続く昇降機らしき物も見える。反対側の壁からは微かに光が漏れており、どうやら扉で外と繋がっているようだ。


「なんか……すごいな」


 俺は感嘆の声を出してしまう。交易本部という名称を鵜呑みにするなら、ただの倉庫ではなく地上との交易における中心設備なのだろう。


「魔界で採掘した鉱石や貴金属をここから売りに出して資金を手に入れたり、買って来た食材や布とかをここで仕分けたりしてるんだよね。あと交易の指示もやってるし、各地の魔物に何か届ける時にも活用してるんだ」


 これってもう魔王城とは別に作るべき施設じゃね?


「向こうの扉が外と繋がってるんだけど、勇者に見つからないように普段は閉じてるんだよね。品物の出荷や入荷は夜中にこっそりやってるよ」

「確かに凄いが……地上で商売する意味は?」

「魔界よりも地上の世界の方が上質な物って結構あるしね。食材とかは特にそう。あと情報収集も出来るし、人間たちのお金も何かに使えるかも知れないから集めたいし。それから商人の中には女神信仰がそんなに強く無くて魔族との取引に応じてくれる人たちもいるから、そういう人との接触も目的としているね」


 素直にすげぇ。ツッコミ所が思いつかない。


「で、どう思う悪魔さん」

「えっと……凄いな」

「何か凄い発想思いついてるんでしょ?」


 ついてない。


「教えてよ悪魔さん」

「えっと……」


 マジで何も思いついてない。


「もったいぶらないでよ」

「えっとぉ……」


 どうしよう。


「えーと……」




 察してくれた魔王が次に案内してくれたのは酒場と食堂だった。どちらも巨人族用の入口と人間サイズ用の入口に分かれており、内部のテーブルや席も同じように分かれているが、このような区別があるからこそ同じ部屋で食事を楽しむことが出来るのだろう。

 それぞれの特徴を尊重することで対等の立場になれる。平等とは1つの基準に全員が合わせることではなく、それぞれの基準を擦り合わせることなのだろう。


「ここが酒場でこっちが食堂」

「知ってる」

「だよね。そういえばなんで悪魔さんは食堂でご飯食べないで自分の部屋で食べるの?」

「お前の部下と一緒だとうるさくて食事どころじゃないし、1人だと寂しいんだよこの食堂」

「みんなと一緒に食べた方がおいしいと思うのに」

「お前は部下と一緒に食べているのか?」

「ほら、ボクは姫と一緒に2人で静かにのんびり食べたいから。やっぱり食事は落ち着いて食べたいしね」

「……」


 発言が適当すぎて頭痛がしてきた。もう部屋に帰って不貞寝していいですかね、魔王様。




 案内は地下1階へと進む。最初は食堂の真下にある部屋からだ。


「ここは厨房。食堂や酒場とも繋がってて、この城にいる女の人のほとんどはここで働いているよ」

「こんな所に女の園が……」

「ちょっと入ってみようか。失礼しまーす」


 魔王と一緒に足を踏み入れると、デ……ふくよかな中年女性の姿が見えた。


「おや魔王様に悪魔さん! こんな所に来るなんて珍しいねぇ!!」

「元気そうだね料理長」


 料理長と呼ばれた女性は豪快に笑って返す。その後ろには若い女性の姿も見えるが、料理長がいる限り近寄れそうにない。

 この人が真の魔王だったか……


「悪魔さん、この人は料理長。この魔王城の料理を仕切ってて、昔は『地獄の破壊者』と呼ばれたくらいの料理の達人なんだ」


 この世界で見た中では最強の存在だった。この人と勇者が戦えばいいんじゃないのか?


「初めまして悪魔さん! アンタが持ってきた本のレシピで新しい料理がどんどん作れて、ホント感謝してるよ!」


 声がでかい。魔王に渡した大量の本の中に料理本があったらしく、それがこの厨房で活用されているようだ。

 不意にスッと、姫様が俺と魔王の横をすり抜けて前に出る。


「おや姫様も一緒だったかい! ちょうど良かった、味見してもらいたいものがあったんだよ!」


 だから声がでかい。


「このスープ、少し味が足りないと思っているんだけど、姫様はどう思うかね!」


 小さな器に入ったスープを持ってきた料理長。姫様はそれを受け取り、ゆっくりと確かめるように飲む。


「どうだい?」


 料理長はペンと紙を姫様に渡す。姫様は紙になにやらアドバイスらしいものを書いて、ペンと一緒に料理長に渡した。


「ああ、なるほど! 私の考えてたのより良い味が出そうだね! いつも助かるよ姫様!!」


 料理長はそう言って奥へと下がった。忙しいのか料理に夢中なのか、俺たちに構っている時間は無いらしい。


「にしても……なんで姫様が味見を?」

「姫は味に敏感だからね。料理も上手だし、女性陣からは人気あるよ?」


 意外……でも無いのかもしれない。白い髪に赤い目という容姿は魔族に受けが良さそうであるし、女性陣のリーダー的存在らしい料理長から頼られていることから、俺の見ていない所で色々とやっているようだ。今後、その活動の片鱗が少しずつ見えてくるかもしれない。


「そういえば『姫様』って呼び方は前からなのか?」

「悪魔さんが来てからだよ? 姫がその呼び方気に入ったみたいだし、あと悪魔さんがこの世界の名前苦手みたいだから、もうみんなでそう呼ぶことにしたんだ」


 姫様も頷く。俺が魔王城の習慣を変えちゃったらしい。


「お前も姫って呼ぶようになってるしな」

「そういう悪魔さんはいつからボクを『お前』呼ばわりするようになったんだっけ?」

「…………ん?」


 言われてみれば俺は魔王のことを『お前』って呼んでいる。


「マジだ……『お前』って呼んでる……あれ、いつからだっけ……?」

「気付いてなかったの?」

「ああ……」


 いよいよ俺は魔王城の一員として完全に溶け込んでしまったらしい。


「別にいいけどねー。ボクも悪魔さんのこと『おまえ』とか呼ぼうかな。おまえー。おまえー」

「……」


 魔王の両頬を挟むように、右手で顔を掴む。姫様が可笑しそうに笑う。


「ひょっほはふははーん!?」

「厨房で遊ぶんじゃないよっ!!」


 料理長の怒声が聞こえた。すげぇ怖ぇ!




 逃げるようにして厨房を出た我ら三馬鹿は、別の部屋へと向かった。


「ここは魔法研究室。新しい魔法の研究をしているんだけど、今は悪魔さんに貰った本から使えそうな魔法を探すのが主な仕事かな」


 なんかこの城、俺の本を中心に活動してない?


「お邪魔しまーす」


 魔王が扉を開けた。


「あっ、魔王様! この身体が透明になる魔法使ってみてくれません!?」

「いやこっちの他人に命令を聞かせる催眠魔法を!」

「それよりこの異性から魅力的に見られるようになる魔法の言葉を!!」


 中にいたバカが一気に押し寄せてきた。


「今日はそういうのじゃなくて攻撃魔法の研究成果が知りたいんだけど」

「攻撃魔法……一応ありますけど」


 渋々といった様子で1人が本を持ってきて、魔王に説明をする。


「うん、面白そうだね。試してみるよ」

「でもやっぱり透明になる魔法が……って悪魔さん!?」


 今気が付いたのかよ。


「悪魔さん!! 女の子が作れる魔法ってありますか!?」

「ねぇよ。あと姫様の前でそういうこと言うか?」

「って姫様!?」


 今気が付いたのかよ。




「ここは魔術研究室。魔術や魔術装置の研究をしているんだけど、最近は悪魔さんに貰った本から使えそうな魔術装置を探して再現するのが仕事かな」


 さっきとほぼ同じである。嫌な予感しかしない。


「お邪魔しまーす」

「あ、魔王様」


 メガネをかけた若い男が歩み寄って来る。それ以外の変な連中は今回いないらしい。助かった。


「調子はどう?」

「はい、例の装置そろそろ再現できそうです」

「例の装置ってなんだ?」

「悪魔さんの本に載っていたものなんですが……」


 そう言って男は机の上にあった図面らしき紙を手に取り、俺に見せた。


「低い座卓のここに微量な熱を発する魔術装置を取り付けて、その上で座卓全体を床まで届く布で覆うことでその熱を逃がさないようにして……」

「…………ってこれコタツじゃねぇか!?」


 なんで魔王城で大真面目にコタツ開発してるの!? 全員バカなの!?


「これコタツって名前なの、悪魔さん」

「ああ……」

「んじゃこの魔術装置の名前はコタツに決定だね」

「分かりました魔王様!」


 もう好きにしてくれ。




「ここは文書分類室。悪魔さんがくれた本を分類するための部屋だよ」

「分類のために一々部屋が必要なのか?」

「うん。悪魔さんいっぱい本くれたからね」


 まぁ、適当に色んな世界の本を数千冊ドサッと渡したからな。


「お邪魔しまーす」


 魔王と共に部屋の中に入ると、中では大量の本が山を形成していた。魔王の部下たちは机に向かって本を開いており、その指には俺が魔王に貸した指輪型翻訳機が光っている。

 ちなみに指輪型以外にもイヤリング型や腕輪型、足輪型、コンニャク型など色々な形状があり、魔王や姫様は指輪型以外も時折使用している。ただしコンニャク型だけは使っていない。というかなんだよコンニャク型翻訳機って。


「みんな集中して仕分けしてるからね。邪魔しないようにしないとね」


 じゃあ部屋の中入るなよ。


「それにしても悪魔さん、何か本の分類のコツってないかな。素材が良い本は悪魔さんの世界の本だって分かるんだけど」


 その分別方法すら気付かなかった俺にどうしろと?




 その後、地下2階と地下3階の男性宿舎を通って、さらに下へ。ちなみに地下2階の女性宿舎とは厚い壁で隔たれていた。建設段階から警戒されている魔王軍男子一同。


「で、次はどこに行くんだ?」

「この城の最深部だね」


 最深部。そこにあるものは、1つしかない。

 長い階段を下り終えた俺たちの前には、天井の高い洞窟のような空間が広がっている。その中心では巨大な魔法陣が仄かに赤みを帯びた光を発していた。


「魔界への入口か」

「そうだよ」


 交易本部の昇降機はこの空間に繋がっているのだろう。魔界から持ち込まれた鉱石を昇降機で上に運び、そこから馬車か何かで取引先へと出荷する。この場所は入口であると共に、魔王城が資金を得るための生命線とも言えるのだろう。


「あそこに入れば魔界に行けるのか?」

「転送のための魔術をちゃんとやればね。こっちから魔界へは滅多に行かないけど」


 その後、俺たちは魔法陣の光をしばし見詰め続けた。その先にある世界は見たことが無い。地の底から行ける魔界とは、どのような場所なのだろうか。一体、この地上と何が違うのだろうか。

 いずれ、分かるのだろうか。




「さて、一通り案内は終わったわけだけど」


 2階にあるいつもの部屋のいつものタタミの上に戻ってきた俺たち3人。


「悪魔さん、何かひらめいた?」

「なんにも」

「少しくらい」

「なんにも」

「1つくらい」

「なにも」

「なにも?」

「なにも」

「本当に?」

「しいて言えば……」

「言えば!?」

「お前魔王やめてもいいんじゃね?」

「はぁ!?」

 

 今日わかったこと。

 男より女の方が強い。 

 

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