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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第15話 悪魔は眠れぬ夜を過ごすのか

 予測不能というものは恐ろしい。たとえば開けるまで生きている猫が入っているか死んでいる猫が入っているか分からない箱はまだいい。開けるまで入っているモノが猫なのか犬なのかティラノサウルスなのか目玉焼きなのかハサミなのか靴下なのかタヌキ型ロボットなのか未来の子孫なのか怖い顔のオッサンなのか核爆発なのか重力を操る生物なのか全く予想がつかない箱なんて恐怖以外の何物でもない。そんなものからは逃げるに限る!

 だが、予測不能なものは出現も予測不能だったりするわけで……



 いつもの部屋のいつものタタミの上のいつもの俺。厨房で「なんか甘いもの欲しいんだけど」って言ったら、目付きの怖い女性魔族に「これでも食べてろ無職ひきこもり!」と言われて渡されたクッキー。それを食べながら、俺は無職じゃない、俺は無職じゃないんだよ……と心の中で呟いていた。

 ひきこもりは……まあ、ひきこもりだよな。


「悪魔さーん! また新しい魔法を覚えたよ~!」


 ひきこもり2号が紅一点のひきこもり3号を連れてやって来た。ひきこもスリー。世界の平和を守るためあえてひきこもってる!


「今度はどんな魔法だ。仕事をくれる魔法か?」

「何言ってるの悪魔さん?」


 何言ってるんだ俺。


「今回の魔法は、魔法を跳ね返す魔法なんだ!」


 よくあるやつだね。


「その名もマホカカーン!」


 うわっ、なんか間抜けな響き!


「これで大魔王様や女神様の魔法をちょっとだけ跳ね返せるよ」

「ちょっとだけって何だ?」

「強力な魔法は跳ね返せないみたい。それでも魔力をあまり使わずに防御出来るわけだから便利だよね」

「前のカンスペとかいうので全部打ち消そうとすると効率が悪いのか」

「うん。長期戦になるのを前提にしたらカンスペはいざという時にしか使えないね」


 無駄な魔力を使わない魔法の運用。魔力の枯渇が敗北を意味すると考えれば、当然のことではある。


「それで、この魔法を試してみたいから悪魔さんちょっと魔法使ってみて」

「……」


 コイツわざと言ってやがる。うぜぇ!


「あっ、悪魔さん魔法使えないんだったね~」


 超うぜぇ!


「というわけで、姫に手伝って貰います」


 姫様が笑って会釈をした。姫様、魔法使えるのか……


「それじゃあ姫、お願い」


 姫様から少し距離を取って、魔王が言った。すると姫は開いた右手を伸ばし、その先からピンク色の光球を発生させた。


「本当に使えるんだな……」


 そのピンクの球はゆっくりした速度でふわふわと魔王の方へ向かっていく。そして魔王の目の前まで来た時――


「マホカカカーン!」


 魔王の周囲にバリアのような半透明の領域が現れ、それに触れたピンクの球が跳ね返って方向転換した。


「成功だね」


 どうでもいいけど噛んだよね魔王。魔法の名前噛んだよね魔王。絶対噛んだよね魔王。それは失敗に入らないのか魔王。


「どう、悪魔さん?」

「どうと言われても……」


 跳ね返ったピンクの球が俺の方へ飛来してくる。俺がタタミに寝転がると、ピンクの球はその上を通り過ぎて行った。


「成功ならいいんじゃないか」

「マカカカーン!」


 いつの間にか位置を移動していた魔王がそう叫ぶと、魔王の目の前に来ていたピンクの球が跳ね返った。

 俺の方向に。


「ちょっと待てオイ。あと魔法の名前間違えただろ」

「気にしない気にしない」


 お前は魔法名にこだわりがあるのか無いのかどっちなんだ。俺はタタミの上で転がり、ピンクの球を回避する。


「マホカカーン!」

「またかよ!?」


 再び俺を襲うピンクの球を回避し、俺はタタミの外にある靴を履く。タタミの上じゃ逃げるのも難しいわ!!


「大体、そのピンクの魔法は何なんだよ!?」

「この魔法なんなの、姫?」


 魔王が尋ねるが、姫様は笑顔のまま何も返さない。そりゃ、言葉が発せない人だもんな。


「ちょっと紙か何かに魔法の正体書いて貰ってくれ」

「わかったよ。マホカカーン!」


 またピンクの球が跳ね返ってくる。おのれ魔王! 人が無抵抗なのを良いことにイタズラしおって!

 それより何より、何なんだこのピンクの球は。当たると何か効果があるのだろうが、一体どんな効果なのだろうか。姫様のことだから無害であることだけは確かだろうが、なにせ今まで数々の天才性を垣間見せてきた姫様だ。魔法についても天才的な才能を持っていても不思議は無い。

 つまりこの魔法も、天才にしか起こしえない効果を持っている可能性があるのだ。


「あ~、なるほどね」


 姫様から魔法の正体を聞いたらしい魔王が声を上げた。


「なんだったんだ、この魔法は!?」

「うん。えっとね」


 魔王がピンクの球へ向かって歩み寄る。


「マホカカーン!」

「答えろよっ!?」


 俺に向かって跳ね返ってくる球。もうやだ。


「大丈夫大丈夫。当たっても問題無いよ悪魔さん」

「当たると何が起こるんだ!?」

「大丈夫だよ」


 すごい不安なんですけど!? 身長が縮んだり伸びたり性別が変わったり髪の毛が伸びたり面倒臭いことになりそうなんですけど! 安全なのと面倒なのは両立するから当たりたく無いんですけど!


「ボクと姫を信じて当たって砕けろマホカカーン!」


 跳ね返った球を避ける俺! 移動して球を跳ね返す魔王! 避ける俺! 跳ね返す魔王! 繰り返される回避と反射!! なんだこの球技は!?


「なかなか避けるね悪魔さん」

「いいかげん疲れたんだが……」

「わかったよ。マホカカーン!」


 ピンクの球が跳ね返……ると同時にメチャクチャ加速したっ!?


「うおっ!?」

「ママママーン!」


 絶対に超高速化を使って移動した魔王が母親を呼ぶような適当な言葉を発して球を跳ね返す! 魔力の無駄遣い過ぎる!


「くそっ!」

「マーン!」


 跳ね返す魔王! 避けるのも紙一重だ!


「カーン!」


 跳ね返った球がさらに加速! 無理! 無理だっ!!

 ピンクの光球が俺に命中する!


「うおおおおおおおおおおおおお!?」


 身体がちょっと暖かくなった! だが他に何も起きない! 


「ど、どうなるんだ……」

「だから大丈夫だって」


 笑顔の魔王と姫様。大丈夫って……


「それで、この魔法の効果は……」

「大丈夫だよ~」

「……姫様、この魔法の効果は」


 姫様は笑うだけで、紙に答えを書いて渡してくれる様子も無い。この女も大概だな!


「わかった、実は何も効果が無いとか……」

「違うよ。ちゃんと便利な効果があるよ」

「……何だ?」

「大丈夫だって」

「だから言えよっ!? 教えてくれよ!!」

「言うほどのことじゃないよ」


 テメェ!! もう大魔王とか女神とかほっといて帰っちゃうぞ!?


「本当に大丈夫だから、気にしないで」

「……俺で遊んでるよな」

「うん」


 俺の本気パンチが魔王の左頬にクリーンヒットした。




 その夜は不安で寝れませんでした。

 もちろん何も起きませんでした。


 ……マジで何なんだよ。


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