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勇者が不死身すぎてつらい  作者: kurororon
第1部 勇者が不死身すぎてつらい
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第1話  勇者が倒せないのはどうしてか?

 魔王は勇者に倒されるものである。

 だが、魔王もただ倒されるだけではない。

 足掻いて、足掻いて、足掻きぬいてから倒されるのだ。

 

 で、その足掻きに巻き込まれたのが俺なわけで……


「悪魔さーん」


 石造りの一室に8畳のタタミを敷いてその上でごろごろしていた俺の所に、金髪の青年が歩み寄ってくる。


「タタミの上では靴を脱げ」

「わかってるって」


 年は19歳か20歳かそこら辺に見える細身の美形。だが実際は数十年、もしかしたら数百年は生きているかもしれない「魔王」である。タタミの前で靴を脱ぐ姿からはまったくそう見えないが、魔王である。


「そんなことより新しい魔法を覚えたのさ!」


 タタミの上にあるテーブルを挟んだ反対側で、得意げにポーズを取る魔王。もとい阿呆。

 最近、俺が持ってきた色んな世界の魔法書やら呪文書やら技術書やらとにかく雑多な書物を読んで新しい魔法を会得することに熱心なようだが、こっちとしてはさっさと目的を果たしてもらいたい気持ちがMAXである。


「はいはい新しい魔法ね……どんなのだよ」


 俺は寝転がりながら応える。召喚されたとはいえ、契約上では同等の立場である。たとえ相手が魔界の大魔王から地上界侵略の尖兵として任命された魔王であろうとも、それは変わらない。

 などと凄い説明的な言葉を脳内で思い浮かべた。


「フッフッフ」


 不敵に笑う魔王。ポーズを変え、呪文らしい何かを大声で叫ぶ。


「マダイ!!」


 ……真鯛?


「フフフ……どう?」


 何も起こってねぇんだけど。


「……で、どんな効果なんだ」

「えーと、本にはなんかHP全回復、状態異常全快とか書いてあったから、傷とか病気とか全部治すんじゃ?」

「それボスキャラが使って良い魔法じゃねぇだろっ!?」


 大昔、RPGのラスボスが体力全回復魔法を使ったことにキレた思い出が頭の中で蘇った。


「ボスキャラってどういう意味?」

「自分で調べろ」

「ちなみに今の魔法は1日9回しか使えません」

「十分すぎる……」


 しかしまぁ、強力な魔法を覚えてくれれば目的の達成も早くなる……か?


「これなら勇者を倒せるか」


 勇者を倒す。それが魔王と俺の目的であり、契約である。俺は悪魔として、魔王に勇者を倒すための知識を与える。魔王は倒した勇者の「魂」を俺に渡す。100年以内に勇者が倒せなかった場合、魔王の魂を代わりに貰う。

 勇者が早く倒されてくれれば、俺は元の世界に帰れる。最悪の場合は100年間、この不便極まりない世界で金髪美形変人の相手をしなければいけないという、罰ゲームのような展開になる。

 というわけで、さっさと死んでくれないかな、勇者。


「あー、えーとね」


 この魔王は妙に子ども染みた喋り方をする。召喚されて1か月過ぎた今もちょっとムカつく。


「ごめん無理」


 魔王が曖昧に笑ってそう答えやがった。


「はあぁぁぁぁぁ!?」


 俺は起き上がってテーブルを叩く。


「勝てるだろ!? 前回も勝てたんだし、そんな魔法を覚えれば楽勝すぎだろマジ楽勝モードだろ!?」

「いやいやいや」


 魔王は腰を下ろして、俺とテーブルを挟む。


「そう単純じゃないんだって」

「どういうことだオイ……!」


 我ながらガラの悪い態度である。悪魔だからいいんだけどさ。


「そりゃ戦えば勝てるけど……本当の意味で倒すのはかなり難しいのよ」

「つまり……どういう意味だ?」

「えっと、頭の悪い悪魔さんに説明するのは難しいんだけど……」

「殺すぞ」

「とりあえずお茶でも飲みながら話そうよ」


 そう言うと、魔王は金属製のベルを取り出して音を鳴らした。




「ありがとね」


 紅茶っぽい色のお茶を持ってきた少女に、魔王はねぎらいの言葉をかける。


「……」


 少女は返答しない。というか、出来ないらしい。

 16歳ほどのその少女は、美少女と呼んでいい容姿をしていた。だが、長い髪の色は白に近く、目は赤い。俺の世界で言う所のアルビノである。そして、言葉を発することも出来ない。

 魔王のような人間型の魔族では無く正真正銘の人間であり、何かしらの事情で魔王城にいるらしいが詳しいことは知らない。人間たちの間であまり良い扱いを受けていなかったことは想像に難くないが。

 そんな彼女も、現在は魔王の愛人であるらしい。ひきこもって美少女といちゃいちゃとはいいご身分だな魔王。爆発しろ。


「で……魔王様よぉ」


 同等の立場だが、俺は魔王のことは「魔王様」と呼ぶことにしている。なにせこの世界の固有名詞は頭おかしいレベルで発音が難しい上に翻訳器でも翻訳されないので、本名で呼ぶのは不可能に近い。かと言って「魔王」とか呼ぶと親しい感じがしてかなり気分が悪い。よって、魔王様。

 同じ理由で、アルビノの少女は「姫様」と呼んでいる。少女もその呼び方が気に入ってるようで、姫様と呼ぶ度にちょっと嬉しそうな表情をする。


「勇者を倒すのが難しいってのは、どういう意味だ?」

「うーん、悪魔さんは勇者ってどうして強いんだと思う?」


 質問を質問で返すな。テストで点数が貰えないぞ。

 でも答えてあげるが世の情けである。


「そりゃ女神の加護を受けているからだろ」


 女神。この世界を作り出した創造主にして、現在は大魔王によって封印されている存在。勇者に力を与え、魔王や大魔王を倒し世界に光を取り戻そうとしている善神である。いいやつである。

 だけど自分、悪魔なんで。


「それはそうなんだけど、それじゃあ答えになってないよね」


 紅茶を飲みながら、隣に座った姫様の頭を撫でている魔王。やべぇ、ムカつく。


「……戦闘能力が高い」

「そりゃあね。でも勝てない程じゃない」

「成長速度が速い」

「確かにそれは答えの1つかもしれないね。だけど、成長が速いだけじゃ倒せない理由にならない」


 成長速度は正解に近いということか。勇者の成長は著しく、いずれは魔王を倒せるかもしれない。だが前回の戦いでは勇者は敗北し、魔王は新たにチートくさい魔法を覚えている。次回も恐らく魔王の勝ちだろう。


「……ん?」


 魔王の2連勝。だが、次も勇者は成長して戦いを挑んでくるだろう。たとえ魔王がそれに勝利したとしても、その次がある。


「なるほどね……」

「わかった?」

「ああ。勇者は不死身だったな」


 魔王は満足げに微笑み、頷く。まるで先生と生徒だな、こりゃ。気に入らねぇ。


「勇者は倒してもどこかの教会か城で蘇っちゃう。そんで強くなってまた襲い掛かってくる。それが永久に続いちゃうんだよね」


 それは一種のお約束である。勇者はこの世界の主人公であり、魔王も大魔王も倒される運命にある。それが剣と魔法の世界のセオリーである。

 その運命に立ち向かっているのが魔王であり、俺なわけだ。


「で、どうすればいいんだ?」

「色々考えてるけど……」

「けど?」

「今の所決定打は無いんだよね~」


 いつの間にか姫様にひざまくらされている魔王が答えた。ホント死ねばいいのに。


「こりゃアンタが勇者にやられた方が早く帰れるかな……」

「帰れるって、悪魔さんが元の世界に?」

「ああ」

「ボクが死んでも契約って続くんじゃなかった?」

「……は?」


 魔王が何を言っているのか、よく分からなかった。とりあえず異次元収納装置を呼び出し、取り出し口に手を突っ込んで契約についてのマニュアルを取り出す。


「おっ、悪魔袋だね。便利でいいよねそれー」


 なにそのネーミング。せめて異次元ポケットとか呼んでくれ。

 俺は分厚いマニュアルをめくり、契約者が死亡した場合についてのページを探す。

 あった。


『魂の消失が確認されない場合、契約者の死亡後も契約は継続する』


 ……えー。

 さらにマニュアルをめくり、その項目に関する解説のページを開く。


『異世界においては契約者が死亡後に別の肉体に転生するケースが多いため、魂が消失しない限り契約が履行される可能性が十分にあり、よって契約者が死亡した場合も契約は継続されます』


「…………」

「どういう契約になってたの?」

「あぁぁぁ……」


 思わずテーブルに突っ伏して呻く俺。

 多分、100年間帰れないわ、これ。


「大丈夫大丈夫。ボクが勇者を倒せば帰れるんでしょ」


 無理だわ。コイツじゃ絶対無理だわ。


「とりあえずのんびり考えようよ、のんびり~」


 呑気な言葉を発す、クソ魔王。100年間、この野郎と一緒にいなきゃいけない運命らしい。

 つらい。

 超つらい。


「うぅぅ……」


 勇者が不死身すぎて、つらい。



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