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◇非日常編その一

二話連続投稿の二話目です。

 それはまさに青天の霹靂、というものだった。

 いつものように授業が終わり、特に部活に入っているわけではない和葉は帰宅のメールを打とうと携帯電話を取り出した。すると何件も着信履歴が残っていて、掛け直すなり雅也(三番目の兄)が校門に車を回すから裕介を連れて早く乗れ、といつもお気楽な雅也らしくない真剣な声音だったため、野球部に行く途中の裕介を連れ、急いで車に乗り込んだ。

 「ところでさ雅にい、すごく急いでるけど何かあったの?」

 「賢ちゃんがちょっと怪我しちゃったんだよねー」

 雅也がそういうと、二人の顔色がさっと青褪める。ちょっととはいえ、あんなにも急いでいるのだから状態は良くないのかもしれない、と二人は想像した。

 「大丈夫だよー、右足の骨折ってあと何針か縫っただけだし。ただ五日くらい経過見たり検査とかあるから、二人にはその準備してほしいんだよね」

 俺と彰兄さんじゃぜんっぜん分からなくってさー、などとのたまった雅也に裕介は骨折って縫うほどの怪我は重症だろうとは思ったものの、入院の準備のために呼んだという理由には納得した。正直上の三人はほとんど家事をしないので、どこに何があるだとかこれは何に使うものだとかをまったく分かっていないため、必然的に下二人がやることになっている。

 「まあ雅也と彰兄さんに任せてたら全然終わらないしね。本当に賢兄さんは大丈夫なんだよね?」

 「うん、今は麻酔も効いてるみたいで寝てるー」

 車が自宅に到着するなり、和葉は車から駆け下りて早々と支度を始めた。裕介は賢治の部屋で下着や部屋着を準備し、和葉はタオルなどの日用品をバッグに詰めた。雅也は正直役には立たないので、自分の好きな漫画などを何冊かまとめている。数日間の入院なので、荷物は大きめのボストンバッグ一つに収まり、再び三人で車に乗り込んだ。普段は賢治や雅也に対して当たりのきつい和葉も、さすがに心配なのか口を開こうとしない。結局無言のまま病院に到着した。

 「和葉ー、病室は外科病棟の三階の角部屋だからね」

 「俺と雅也で手続きとかしてくっから、和葉は先に病室行ってこいよ」

 「…分かった」

 何も言わないものの、そわそわと落ち着かない和葉をみかねた二人は先に和葉だけを病室に向かわせることにした。案の定、言われた途端にさっさとエレベーターに乗り込んだ和葉を見た雅也は、なぜかドヤ顔で裕介の方を見た。

 「俺って恋のキューピッドみたいじゃね?」

 「雅也それマジで言ってるなら病院だろうと殴るぞ」

 「もー、裕介はほんとに冗談通じないんだからー」

 でも邪魔しないようにゆっくり行こうね。ニヤニヤしている雅也に不本意ながら…本当に不本意ながら同意した裕介は、でも彰兄さんはいるんじゃないのかと、ふと思った。



―――――――――



 和葉は正直、自分でも驚くほど動揺していた。賢治が普段は風邪ひとつひかない健康体であることもさることながら、怪我をした理由を雅也がまったく言わなかったのも原因の一つだ。”倉田 賢治“と書かれたネームプレートを見つけ、緊張しつつもノックをした。

 「はい」

 返ってきた声が賢治のものでも彰のものでもなかったのを不審に思いつつ、看護師の人かと扉を開ければ彰の姿はなく、まったく知らない女性が賢治の枕元に椅子を出して座っていた。明るい茶色の髪を巻いて、小花柄のワンピースを着た彼女は和葉の苦手な、いかにも女子!といった格好をしていた。どう見ても看護師ではなさそうなこの女性は何者なのだろうか、と和葉が無意識に後ずさると女性はもう一脚椅子を取り出して、こちらへどうぞと手招いた。先に口を開いたのは女性の方だった。

 「ところで貴女、どちら様?」

 それはこっちの台詞です貴女こそ人の兄の病室で何をしているんですかストーカー!?と心の中で思いつつも、和葉は簡潔に賢治の妹です、とだけ答えた。

 「まあ、妹さんだったの?」

 「ええ、ところで貴女は…」

 誰なんですか、と問おうとしたところで急に女性が和葉にガバリ、と抱き着いてきた。

 「とっても可愛らしいわ、私の未来の義妹いもうとちゃん!」

 これは一体何が起きているんだろう、顔に頬とラメを擦りつけられながら和葉は早く賢治が起きてくれるのを願った。

 

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