イケない恋路
漆黒の闇に、釣り合わないカラフルなネオン。
長細いその建物を見上げていたら、ポツポツと小さな雨粒が一つ二つと落ちてきた。
僕は建物に背を向けて家路を急ぐように歩き出した。
心の奥にある罪悪感。
何度目だろう。
なのに、同じ過ちをしてしまう自分へ苛立つ。
だがそんな思いとは裏腹に、達成感ともやりきった感とも言えない清々しさが体中を包み込む。
僕はもう一度、来た道の方を振り返った。
闇夜に照らされたネオン看板。ラブホテル。
僕は今まさに、あの場所から出てきた。
明かりにはピンクと黄色、水色も入っているだろうか。
その建物はもう遠くにあってぼんやりとしか見えないが、こんな遠くからでもその存在感を発している。
もちろん一人で入っていたわけではない。ちゃんと相手がいる。
思い出すと、つい二・三時間前まで感じていたあの体全体の高揚感が再び襲う。
もう一度引き返そうか。【彼女】はまだ中にいるだろうから。
そんな欲望を自分の胸にしまいこみ、僕はまた暗闇に紛れた道を進みだした。
その時ポケットの中で携帯が激しく震えだした。
携帯を取り出し電話のボタンを押す。彼女だった。
「準備が出来たから来てもいいよ」
それだけ伝えたかったのか、もしもしも言わずにそう切り出した彼女は、こっちの返事も待たずに一方的に電話を切った。
ふっと空を見上げる。今日は満月らしい。周りの雲だけでなく歩く足元も照らしている。闇夜にはありがたいはずなのに、その姿は少し不気味だ。
雨はいつの間にか止んでいた。僕はそれでも、小走りで自分の車の元へ走った。
「今日もありがとう。」
いつもの帰りの車内で彼女はほぼ必ずこう切り出す。僕はそれに、無言で頷いたりいえいえと謙遜してみたりする。
「いえいえこちらこそ」
そう言うと彼女は満足気な顔で再び前を向く。
彼女は俗に言う童顔の部類に入ると思う。
黒髪で肩辺りまで伸びたショートヘアー。目は真ん丸くりくりしている。背丈は僕より小さい、155といったところか。
年齢は40歳。なのに歳を感じさせない若々しさがある。