43 お嬢様の協力者
「全て埋まりましたので、勝敗は色の数が多いほうが勝ちとなります。いかがでしたか?」
「これは、確かに……奥の深いものがあるようにも思えます。ですがやってて思ったのですが色を変えるのが少々面倒ですな」
一枚変える程度ならそれほどでもないだろうけど、何枚も変えることになればかなり手間もかかってくるよね。
「先ほども言いましたが、これは色がなかったので代用です。こうやって硬貨を重ねて、両面の色が違う木でできた丸い板だったらどうでしょう?」
硬貨を二種類合わせ持ち、手を返し何度か見せてみた。
このヒントに気づいてくれるといいのだけど……
「なるほど、そういうことでしたか。交換するのではなくひっくり返すだけで色を変えるのなら、板の数もマス目分だけあればいいというわけですか」
「ラドレンさん大正解。試しに簡単なものでいいから作れないかしら? 私から提案なんだけど、硬貨の代わりに丸い板を作っていただき、色は白と黒で。盤は、マス目を細いくぼみと黒い線で作ってほしいの。どうでしょうか?」
「やってみましょう。でき上がりましたらお届けに行きます。それでそちらの模様は一体?」
「こちらはですね……」
将棋の方はルールの説明が難しいので、盤と駒の作成を依頼した。
自分が楽しむ用だし物さえあればそれで十分だった。
「それでお支払いなのですが、角銀貨二十枚でどうにかなりませんか?」
「い、いやそれはさすがに……」
「そうですか、ルビー。五十枚使ってもいい?」
「かしこまりました」
「ちょっと待ってください。これですと、小銀貨八枚でも十分すぎます」
ラドレンさんの声が裏返っている。隣のルビーが、小さくため息をついたような気がした。
「でしたら、これからも色々とお願いをするかもしれませんので、投資も兼ねて三十枚でお願いします。こちらを二つずつ作ってください」
「わかりました。でき上がり次第、お屋敷の方に届けさせていただきます」
「よろしくお願いします」
それから二日ほどが経った朝に、オセロと将棋の試作品を持ってラドレンさんがやってきた。
出来栄えは思っていたものよりもかなり綺麗に仕上がっていた。
オセロ盤を眺めていた私に、ラドレンさんからオセロの再戦を申し込まれる。唸っているラドレンさんを見てか、奴隷たちが次々とやってきた。
奴隷たちに見守られつつもなんとか勝利することができた。
なにこれ、二日前の話だよ? なんでこんなに考えて打っているのよ。
それとも私ってこんなにオセロ弱いの?
「さすがでございますグセナーレお嬢様。完敗です、丸一日娘とやっていた程度じゃ到底敵いそうにもありませんな」
「楽しんでいただいているようで何よりです」
丸一日やっていたの? これをずっと?
冗談で言っているのよね……本当だったら何も言えないわよ?
私なら一時間経ったところで飽きてやめているよ。
「さっきから気になっていたのだけど、なんで女将さんがいるの?」
「不躾で申し訳ないのですが、こちら商品を私の宿で使わせていただければとお願いに上がりました」
「オセロを? 別に私の許可なんていらないとは思うけど?」
「そういうわけには参りません。お嬢様には何度もお世話になっているだけでなく、このような頼みをすること自体本来は……」
「女将さんには奴隷たちがお世話になっているからね。許可とかそんなこと気にする必要はないよ。でもオセロを宿屋に……そうだ。いい方法があるよ」
この娯楽のない世界だと、あの時のような結果が生まれるのかもしれない。
喫茶店で流行っていたもの、テーブルに設置されたゲーム機があったのを思い出した。いい年をした大人が、テーブルに百円玉を積み何時間もプレイしたとかなんとか。
それの派生とも言えるものも現代に根付いている。十分いい結果が生まれること間違いないかもしれない。
ただひたすらそればかりだと、よくない結果にもなりそう。
「料理を注文してくれたお客さんに、オセロを貸し出すの。時間は一時間とかにして、料理ができるまで時間もかかるだろうから、待たせている間の暇つぶしにも使える。時間制限を設けることで回転も維持できると思うの。あ、前に言ってた友達の人も使っていいからね」
「はい、仰るとおりです。ラドレン、私のところの分、早く作りな」
女将さんとは裏腹に、ラドレンさんの顔色はどこか思わしくない表情をしていた。
「この商品ですが、いくつかの問題があります」
「面白くないとか、流行らないとか? 作るのに手間がかかって思っている以上に高いのかしら?」
「全て逆です。単純だから覚えやすく、負ければもう一度と勝負したくなる。人数さえいれば一日何個作れるか……」
「それなら何が問題なんだい?」
「姉貴、昨日のことを思い出してくれ。結局、俺たちは何時間やった? 作りも簡単、説明にも手間がかからねぇ。簡単に模造品も作れる」
模造品って言われたら、今あるこれもそうなんですけどね。
というよりも、女将さんはラドレンさんのお姉さんなのか……って、何時間やっていたの?
昨日ってことは、私が行ったその日にでき上がっていない?
もしかして、その日もやっていたりするの?
それはいいとして、私が作ったものじゃないし、暇をつぶすための道具だから権利とかどうでもいいのだけど。
オーダーメイドだから高いとして、一般的に流れるとしたら、銅貨?
あの家具の価格からしたら、銀貨でも一枚の価値もない気がする。
「別に私は気にしないよ? 何だったら、女将さんのところで売れば?」
「お嬢様。いくら何でもそれではお二方のご迷惑になります。それにお二人のご様子からして、お金を生み出す可能性すらあります」
多少は売れるだろうけど……すぐ作れそうだし、飽きるのも早いと思うよ?
「私にはよく分からないけど、皆が楽しめるのならそれでいいんじゃないの? 販売の権利とか、利益とか本来であれば私の物じゃないんだし」
「それはどういうことで……」
余計なことまで喋りすぎたかも。
二人はよく分かっていないみたいだし、ルビーは怒りに満ちた目つきを向けてくる。
やばい、あとで説教かもしれない……こういう場合って、そういうことも含めて考えないといけないのか?
「とにかく! ラドレンさんはオセロを作って、女将さんのところで宣伝と販売。私が作ったことは秘匿にすること、見返りとして私の奴隷たちにはいつでもご飯を提供してあげて」
「それでは……いえ、かしこまりました」
「あ、姉貴。何を言って……本当にいいんですかい?」
「今後、私たち姉弟にできることがあれば、いつでもお申し付けください。どのようなことでも従います」
「うん。その時があれば気軽に言うね」
二人が帰り、私はでき上がったばかりの将棋を並べていく。
問題は私しか知らないこのゲームを、誰に教えて対戦するかという課題がある。
「ルールはちゃんと覚えてる。駒の出来も十分だし。まあ、一人将棋でもして忘れていた感覚をまず取り戻すとしますか」
それから二時間ほど将棋で遊びつつ、バナンやトパーズの報告を聞き流していた。
一人遊びでも十分楽しさはある。
とはいえ、やっぱり対戦だから人と打ちたい。




