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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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5/11

第5話 踏み込んでもいいものか(エリカ)

 口を出して、いいんだろうか。いや、正確には。

(口出したら、即クビ案件では??)

私は今、公爵家のメイドとして、背筋を伸ばして立っている。

見た目は完璧。黒と白の「THE メイド」な服。

表情は落ち着き、動作も丁寧。

――中身は、日本の元OL社会人4年目だけど。

そんな私が、公爵夫人とその夫――アルベルト様の関係に、どこまで踏み込んでいいのか。


「……エリカ。少し、時間はある?」

 リリアーナ様にそう声をかけられた瞬間、脳内で警報が鳴り響いた。

(やばい!私が書いた物語にはメイドとの会話なんて書いてたっけ!?)

「は、はい!」

返事が若干裏返った気がするけど、気のせいということにする。

案内されたのは、執務室の隣の応接スペース。仕事の話を、わざわざここに呼んでするものではない気がする。

(ここ、絶対に重要イベント用の部屋じゃん……)

紅茶を淹れながら、私は必死に平常心を装う。

(落ち着けエリカ。ここは異世界。まだ物語は終わらないから焦らない焦らない。)

 

「……最近」

リリアーナ様は、カップを見つめたまま言った。

「夫と、うまく話せていない気がするの」

(いきなり来たーーー!!)

内心で全力ツッコミを入れつつ、表情は無表情を死守する。

(知ってます。それ、私が書きましたので。)

中学生の頃、ノートに書いた黒歴史。すれ違う高貴な夫婦。大人っぽくて切ない話を書いた気になってた、あの頃の私。

(当時の私、ちょっと表出ろ)

今、その設定が、目の前で現実として存在している。

(罪悪感しかない)

「……奥様は」

声が震えないように、慎重に言葉を選ぶ。

「どうなさりたい、のでしょうか」

我ながら、逃げの質問だと思う。本当は言える。この先どうなるか。どこで間違えるか。

でも、それを言ったら誰も幸せになれない。私が書いた物語ではあるけれど、今目の前にいる人を悲しませるのは心が痛むどころの話ではない。

「……分からないわ」

その一言で、胸がきゅっと締め付けられた。

「妻として正しくありたい。公爵夫人として、彼を支えたい」

リリアーナ様は、静かに続ける。

「……それなのに、足りない気がするの」

(分かる……)

社会人4年目、仕事はちゃんとしてるのに

「これでいいの?」って夜中に天井見つめる自分が重なった。

(異世界でもあるんだ、それ)

私は、紅茶のカップを置き、覚悟を決める。

(ここで黙ったら)

物語は、あのエンディングに直行だ。

(バッドエンド回避、今しかない。物語を変えられるだろうか)

「……奥様」

心臓がうるさい。どんな展開になるのかという怖さも、一応メイドの立場で公爵夫人に対して意見を言う恐れ多さも。

「もし、よろしければ……ですが」

リリアーナ様がこちらを見る。その視線が、想像以上に真剣だ。透き通った紫の瞳が、私の視線を逸らすことを許してくれない。

(やばい、逃げられない)

「正しい妻じゃなくて……話したい妻になってみる、というのはどうでしょうか」

――言っちゃった。

(言ったーーー!!!)

脳内で土下座する私。

(異世界で恋愛カウンセラーする予定、なかったんですけど!?)

沈黙が落ちる。長い。めちゃくちゃ長い。

(あ、これ怒らせたかな)

「……話したい、妻」

リリアーナ様は、その言葉を繰り返した。

「私はいつも、役に立つかばかり考えていたわ」

(あ、怒ってない)

むしろ、少し表情が柔らかい。

「それは、とても立派だと思います!」

私は慌てて続ける。

「でも……疲れている時まで、完璧じゃなくていいというか……えっと、その……」

(言語化能力、異世界で低下してる)

「人間なので!」

勢いで言い切った。

リリアーナ様が、ぱちりと目を瞬かせる。

「……エリカ」

「は、はい!」

「あなた、変ね」

(知ってます!!)

「メイドなのに、距離が近いわ」

「す、すみません!!」

反射的に頭を下げる。終わった。さすがに無礼だったか。

……と思ったのに。続く声は、柔らかかった。

「でも、誰にも言えなかったことを話している気がする」

胸の奥が、じんと熱くなる。

(……信頼)

はっきり言葉にはならないけど、それが、そこにある気がした。

 

 もしかして、この人とちゃんと向き合えたら。この物語を変えられたら。

 元の世界に、戻れるんじゃないか。

そんな、都合のいい希望が浮かぶ。でも、今はそれしかない。

(いつか協力してくれるかもしれない)

それに。この人の未来を、できるなら私の黒歴史のままで終わらせたくない。

「……ありがとうございます、エリカ。あなたのおかげで少し楽になった気がするわ。」

リリアーナ様は、そう言った。

(やばい)

胸がいっぱいになる。

(この公爵夫人、守りたい)

私は、静かに決意する。

この物語を、すれ違いエンドのままにはしない。

たとえそれが、私が昔、適当に書いた物語の「台本」だったとしても。


現実は、もう動き始めている。


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