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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第44話 稽古

 まだ朝の空気が冷たく残る時間帯、屋敷の庭に設けられた訓練場には、すでに二つの人影が向かい合っていた。朝露に濡れた地面を踏みしめながら、アルベルトは剣を握る手に静かに力を込める。その正面には、濃紺の髪を揺らしながら、いつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべるレオンの姿があった。


「朝早くからお越しいただき、ありがとうございます。」

礼を述べるアルベルトに対し、レオンは軽く肩をすくめて笑う。

「いえ、こちらこそ。こうして身体を動かせる機会はありがたいので、むしろ歓迎していますよ。」


その声音には余裕があり、しかし決して軽んじているわけではない真剣さがにじんでいた。

軽く剣を構えながら、二人はしばし雑談を交わす。

天候のこと、最近の情勢、共通の知人の話。どれも他愛のない内容だが、その間にも互いの間合いは自然と測られていく。


そして。


「では、始めましょうか。」


レオンの一言で、空気が変わった。


次の瞬間、地面を蹴る音とともに、二人の距離が一気に詰まる。

――鋭い金属音が、朝の静寂を切り裂いた。

 

 最初に仕掛けたのはアルベルトだった。

一直線に踏み込み、迷いのない一撃を放つその動きは、長く実戦から離れていたとは思えないほどに洗練されている。


だが、レオンはそれを、ほんのわずかな身体の傾きだけで受け流した。

刃と刃がかすめ合い、すぐさま反撃が飛んでくる。横薙ぎに振るわれた剣を、アルベルトは間一髪で受け止め、その衝撃に足元の砂が弾けた。


(速い!)


思考するより先に、身体が反応する。打ち合いはそのまま連続へと移行し、互いに一歩も引かぬまま、鋭い攻防が何度も交差する。

金属音が何度も重なり、火花が散る。

レオンの剣は無駄がない。大振りにならず、常に最短距離で攻撃し、最小の動きで回避する。


対してアルベルトは、真正面から食らいつくように攻め続ける。理論で積み上げた剣と、鍛え直したばかりの身体。それでも、その動きには確かな成長が感じられた。


「……っ!」


息が上がり始める。肺が焼けるように熱くなり、握る手に汗が滲む。それでもアルベルトは退かない。

もう一歩踏み込み、あえて大きく振りかぶる。誘いの一撃――そこから軌道を変え、死角を狙う。


しかし、レオンはそれすら読んでいたかのように、滑るように後退しながら身をかわし、次の瞬間にはすでに反撃の体勢に入っていた。


気づいた時には。


アルベルトの目の前に、剣先が突きつけられている。


動けない。


一瞬の静寂。


「……ここまでですね。」


レオンが静かに言い、剣を引いた。


アルベルトは大きく息を吐きながら、ゆっくりと剣を下ろす。肩で呼吸をしながらも、その瞳には悔しさと同時に、どこか清々しさが宿っていた。


「……本当にお強いですね。」

率直にそう告げると、レオンはわずかに目を細めて微笑む。

「いえ、アルベルト様こそ十分お強いじゃないですか。」

その言葉に、アルベルトは首を横に振った。

「いいえ、全くです。あなたは息一つ乱れていない。それに、こちらの攻撃は、ほとんど通っていませんでした。」

悔しさを隠さず言うその姿に、レオンは少しだけ真面目な表情になる。

「それでも、ここまで長く打ち合えたのはあなたが初めてですよ。」

その言葉は、決してお世辞ではなかった。アルベルトは一瞬驚いたように目を見開き、それから静かに息を整える。

「そう言っていただけると、少しは報われますね。」

「ええ。ですから、ここからが本番です。」

レオンは軽く剣を回しながら続けた。


「今の一戦で、あなたの癖も、得意な間合いも、だいたい把握できました。ここからは、それを踏まえて一つずつ潰していきましょう」

その言葉に、アルベルトの表情が引き締まる。再び構えを取る。


 朝日が少しずつ昇り、二人の影が長く伸びる中、稽古はまだ始まったばかりだった。

剣が交わる音は、やがて一定のリズムを刻み始める。攻め方、受け方、かわし方。レオンは実践の中で次々と示し、それに食らいつくようにアルベルトが応じていく。


その光景は、もはや単なる稽古ではなかった。互いに高め合う、真剣勝負そのものだった。

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