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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第43話 あたたかい

 レオンの屋敷を後にしたエリカは、どこか軽くなった足取りのまま、屋敷へと戻ってきた。

行く前はあれほど気が重かったというのに、いざ終わってみると、不思議と肩の力が抜けている。


(思ってたより、普通の人だったかも)

いや、普通というにはいろいろと規格外なのだが、それでもあの圧のある印象だけではない一面を見てしまった今、最初に抱いていた苦手意識は少しだけ和らいでいた。


そんなことを考えながら応接室へ向かうと、すでにリリアーナが待っていた。

「おかえりなさい、エリカ。」

「ただいま戻りました。」

一礼して顔を上げると、自然と口元が緩む。

「レオン様、快く引き受けてくださいました。」

その一言に、リリアーナの表情がぱっと明るくなる。

「本当? 特に問題なさそう?」

「はい、とても驚くくらいあっさりとお返事してくださいました。むしろ、アルベルト様の剣術に興味があるとも。」

少しだけ苦笑しながら答えると、リリアーナはほっとしたように息をついた。

「そう、よかった……。」

そしてすぐに、やわらかな笑みを浮かべてエリカを見る。

「ありがとう、エリカ。あなたのおかげね。」

その言葉に、エリカの胸がじんわりと温かくなる。

「いえ、私は手紙をお渡ししただけですから。」

「それでもよ。」

リリアーナはきっぱりと言い切る。

「頼まれたことをきちんとやり遂げるのは、簡単なことではないわ。」

そのまっすぐな言葉に、エリカは少しだけ照れくさくなりながらも、小さく「ありがとうございます」と返した。


少しの間、和やかな空気が流れる。

ふと、リリアーナが思い出したように口を開いた。

「ねえ、エリカ。」

「はい。」

「今回のことも、あなたが書いた物語の中の出来事なの?」

その問いに、エリカは首を横に振る。

「いえ、これは書いていません。そもそもレオン様は、私の物語には登場していないんです。」

その言葉に、リリアーナは一瞬だけ考え込むような表情を見せたが、すぐに肩の力を抜いたように微笑んだ。


「そう。」

そして、どこか楽しそうに続ける。

「ますますよく分からないわね。」

その声音には、不安よりも好奇心のほうが強くにじんでいた。レオンへの依頼がうまくいったことで気分がいいのか、リリアーナは深くは追及せず、そのまま話題を切り替えた。

「とにかく、これでアルベルト様の稽古も進むはずね。」

その言葉に、エリカも自然と笑みを浮かべる。

(きっと、喜ぶだろうな)


その日の夕食。

テーブルにはいつも通りの料理が並び、穏やかな時間が流れていた。食事がひと段落したころ、リリアーナが静かに口を開く。


「アルベルト様。」

「どうした。」

「剣の稽古の件ですが、お相手をお願いできる方を見つけまして......。」

その一言に、アルベルトの手がぴたりと止まる。

「誰だ?」

「レオン様です。」

一瞬の沈黙。


そして――

「……どうやって?」

驚きと戸惑いが混じった声だった。

「いつの間に……その、二人で会っていたのか?」

明らかに、方向の違う心配をし始めている。エリカは思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえた。

リリアーナも一瞬きょとんとしたが、すぐに状況を理解したのか、さらりと答える。

「エリカにお願いしたのです。」


「……そういうことか」

アルベルトは目に見えて安堵した。

(分かりやすすぎるでしょ)

エリカは心の中でそっとつぶやく。

アルベルトは一度軽く咳払いをすると、少しだけ気まずそうに続けた。

「すまない。先日の茶会で、君とレオン様が……その、ずいぶんと親しげに見えたものだから。」

リリアーナはほんの少しだけ眉を上げる。

「それは、アルベルト様がずっとエミリアお嬢様と挨拶回りをされていたからですよ。」

やんわりとした言葉だが、しっかりと刺さる。アルベルトは一瞬言葉に詰まった。

「確かに、あのときは挨拶に夢中になっていたな。」

少しだけ視線を落とす。だがすぐに顔を上げ、まっすぐリリアーナを見る。

「それでも、ありがとう。レオン様に相手をしていただけるのは、とてもありがたい。」

その言葉は、素直な感謝だった。リリアーナも小さく頷く。

「先日の剣術を拝見して、きっとアルベルト様のお力になると思いましたので。」


自然な会話。ぎこちなさは、もうほとんど残っていない。それを少し離れた場所で見ていたエリカは、思わず頬を緩めた。

(なんか、ちゃんと夫婦っぽい)

ついこの前まで、すれ違っていたとは思えないほどに、穏やかで、温かい空気がそこにはあった。

そのとき、エリカはふと思い出した。


「あ、そうだ。レオン様から、お土産をいただいてきました。」

そう言って差し出した箱を開けると、中には見た目にも美しいケーキが収められている。

「ほう。」

アルベルトが興味深そうにのぞき込む。リリアーナも目を輝かせた。

「素敵……」

「ぜひ、お二人でどうぞとのことでした。」

そう言うと、アルベルトは少しだけ考えたあと、エリカに視線を向けた。


「君が依頼をしに行ってくれたのだろう?」

「え、はい。」

「ありがとう。君も一緒にどうだ?」


「えっ!?」

思わず声が裏返る。

「い、いやいや!そんな、恐れ多いです!」

慌てて首を振るエリカに、リリアーナがくすりと笑う。

「そうよ、せっかくだもの。今回はエリカのおかげよ。一緒にいただきましょう」

「で、でも……。」

「ほら、座って。」

やんわりと、しかし断れない圧で促される。

エリカは一瞬だけ迷ったが、観念してそっと席についた。


(こんなこと、ありえないでしょ)

普通の公爵家であれば、メイドが主人と同じ席でデザートを囲むなど、考えられない。けれど、ここではそれが自然に行われている。


ケーキを口に運ぶと、上品な甘さがふわりと広がった。

「美味しいわね。」

「……ああ。」

「天才パティシエが作った、とおっしゃっていました。」

「ふふ。本当にそうなんだと思うわ。ずっと食べていたいくらい。」

「稽古だけじゃなくて、パティシエの出張も依頼したいくらいだ。」


穏やかな会話と笑顔。その中に自分がいる。エリカは、どこか現実感のない気持ちでその空間にいた。

まるで、ふわりと宙に浮いているような感覚。けれど胸の奥には、確かな温もりがある。


(こういうの、いいな)

そんな小さな幸せを静かにかみしめながら、エリカは、二人と同じ時間を過ごしていた。

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