表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/43

第41話 整理、そして開始

 昨晩、リリアーナとエリカは、これまで積み重ねてきたすべてを机の上に並べるようにして、長い時間をかけて話し合っていた。


静かな夜だった。窓の外には月明かりが差し込み、揺れるカーテンの影が、まるで別の世界との境界のように見える。その中で語られた内容は、リリアーナにとってはとても現実とは思えないものだった。


――この世界が物語であること。

――そして、その物語を書いたのがエリカであること。

――エリカがこことは異なる世界からやってきたこと。


「最初は、確かに物語通りに進んでいたのよね。」

リリアーナが、ゆっくりと言葉を選ぶようにして口を開く。

「私とアルベルト様の関係も、サラ様の結婚式での出来事も、あなたの話と一致する部分が多かった。」

エリカは頷いた。

「はい。でも最近は…」

「ええ、明らかに外れ始めているわ。」

リリアーナははっきりと言い切る。その瞳は冷静でありながら、どこか鋭く状況を見極めていた。

「エミリア様やレオン様、そしてセドリック様。あなたの物語には存在しなかった人物たちが現れている。」

その名前が挙がるたびに、エリカの胸がわずかにざわつく。

「つまり、物語はすでに書かれた通りの未来ではなくなっている。」

「私の行動のせい、で。」

「“せい”ではないわ。」

リリアーナは即座に否定する。

「物語の展開は、未来は、変えられるということよ。」

その言葉は、静かでありながら確かな力を持っていた。

「あなたの言葉や行動によって、未来は動いている。これは事実でしょう?」

エリカは、ゆっくりと頷く。その実感は、すでに何度も感じていた。

サラの結婚式も、お茶会も、本来の展開とは違っていたのだから。


「ねえ、エリカ。」

「はい。」

「結末はどうなるの?」

その問いは、静かに、しかし確実に核心を突いてきた。

「仮面夫婦になって、それでどうなるの?」

エリカは、言葉を失った。頭の中を必死に探る。記憶を、過去を、あのノートに書いたはずの物語を。

けれど、エリカはこう答えた。


「分かりません。覚えていないんです。というか……」

言葉が詰まる。

「そもそも、完結させていたのかも、分からなくて。」

その瞬間、空気がわずかに揺れた。リリアーナは驚く様子もなく、ただ静かにエリカを見つめている。

やがて、小さく息を吐いた。

「そう。」


そして、ほんの少しだけ考え込むように視線を落とす。数秒の沈黙のあと、再び顔を上げたときには、すでに彼女の中で答えが出ているようだった。


「では、こう考えましょう。」

その声音は、いつものように落ち着いていて、迷いがない。

「あなたが十四歳のときに物語を完結させていなかったとして。」

一歩、エリカに近づく。

「あなたは、この世界や私たちをどうしたいの?」

まっすぐな問いだった。逃げ場はない。エリカは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに顔を上げる。

「ハッピーエンドにしたいです。」

それは迷いのない答えだった。

「誰も不幸にならない未来にしたい。リリアーナ様も、アルベルト様も、みんな。」

言葉にするほど、その想いは強くなる。

「だから、できることがあるなら、全部やりたいです。」

リリアーナは、その言葉を静かに受け止めた。そしてふっと、微笑む。

「じゃあ、そうなるように進めていきましょう。」

あっさりとした言葉だった。けれど、その中には強い決意が込められている。

「何もしない限り、物語通りになってしまうのなら、行動するしかないわ。」

その瞳が、はっきりとした意思を宿す。

「私も登場人物の一人。そして当事者よ」

その言葉に、エリカの胸がじんと熱くなる。この人は、本当に強い。

不安も恐怖もあるはずなのに、それでも前に進むことを選ぶ。


「ありがとうございます。」

思わず、そう口にしていた。リリアーナは少しだけ首を傾げる。

「お礼を言われることではないわ。」

そして、ほんの少しだけ楽しそうに言った。

「むしろ、面白くなってきたじゃない。」

その言葉に、エリカは思わず笑ってしまう。緊張が、少しだけほどけた。

この人となら、大丈夫かもしれない。そう思えた、そのときだった。


「さて。」

リリアーナは、ぱん、と軽く手を打つ。空気が一気に切り替わる。

「まずは目の前の問題から片付けましょう。」

「え?」

「アルベルト様の剣術の件よ。」

エリカは、あっと声を漏らした。完全に頭から抜けていた。

「早速明日、レオン様にお相手をお願いしてきてちょうだい。すぐにでもアルベルト様のお稽古のお役に立ちたいわ。」

「……え。」

一瞬、思考が止まる。いざ会いに行け、となると、あの圧のある男の顔が頭に浮かぶ。

剣も強くて、洞察力も鋭くて、しかも妙に距離が近い。


「分かりました。」

観念したように答えるしかなかった。リリアーナは満足そうに頷く。

その横で、エリカは小さくため息をついた。


ハッピーエンドへの道のりは、思ったより大変かもしれない。

そんな予感を抱きながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ