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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第39話 打ち明ける

 静まり返った部屋の中で、エリカはしばらく言葉を探していた。


リリアーナのまっすぐな視線を受けながら、逃げることも、ごまかすこともできないと分かっていたからこそ、どこから話すべきかを慎重に選ばなければならなかった。


やがて、小さく息を吸い、ゆっくりと口を開く。


「私は、日本という国から来ました。」


その言葉に、リリアーナは何も言わず、ただ静かに耳を傾ける。


「特別な人間ではありません。本当に、どこにでもいるような平凡な庶民でした。」

淡々とした語り口だったが、その奥にはわずかな緊張が滲んでいた。

「十四歳のときに、趣味で物語を書いていたんです。誰に見せるわけでもなく、ただ自分の中で思いついた話を、ノートに書きためていました。」

少しだけ視線を落とす。

「ある日、偶然そのノートを見つけて、懐かしくなって読み返していたんです。」

そのときの感覚を思い出すように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そしたら、急におかしな感覚になって。何かに吸い込まれるような、そんな感覚があって。」

無意識に自分の手を握る。

「あとは、覚えていません。」


そして顔を上げる。

「気がついたときにはこの世界にいて、メイドになっていました。」


その言葉が、静かな部屋に落ちる。リリアーナの表情は変わらない。だが、その瞳は確かに真剣だった。

エリカは続ける。

「そして、すぐに気づいたんです。リリアーナ様も、アルベルト様も知っている方だって。」

わずかに息を飲み、はっきりと言い切る。

「なぜなら、お二人とも、私が書いた物語の登場人物だったからです。」

その一言で、空気がわずかに揺れた。だが、エリカは止まらない。


「ただ、なぜ私がこの世界に来たのかは分かりません。理由も、目的も。だから今は、それを探しながら過ごしています。」


リリアーナは静かに聞き続けている。エリカはさらに言葉を重ねた。


「最初は、物語は私が書いた通りに進んでいました。出来事も、人の動きも、ほとんど同じように。」

どんな反応をされるだろうか。考えるとなんだか怖くて、それを紛らわすかのように、勝手に口が動く。

「でも、私が関わるようになってから、少しずつ変わってきています。本来とは違う選択が起きたり、物語では書かなかった人物が現れたり。」


勝手にでてくるその言葉の意味を、自分自身でも噛みしめながら続ける。

「正直に言って、自分が書いた物語の世界が、本当に存在しているなんて思っていませんでした。」

そして、リリアーナをまっすぐ見つめる。

「この先の展開を変えられるのかどうかは分かりません。でも、ここでできることは、やりたいと思っています。」


静かな決意が、そこにはあった。

しばらくの沈黙が流れる。

リリアーナは何も言わず、ただ少しだけ視線を落とし、考え込むように目を閉じた。


そして、ゆっくりと息を吐く。

「なるほど。」

その一言には、驚きよりも理解しようとする意志が込められていた。


再び顔を上げ、エリカを見る。

「あなた、作者だったのね。」

その言葉に、エリカはわずかに息を呑む。リリアーナは静かに語り始めた。


「この世界には、不思議な力を持つ人がいるの。全員ではないけれど、確かに存在している。」

その声は落ち着いていたが、どこか現実味を帯びている。

「例えば、私もそう。」

エリカが驚いたように目を見開く。リリアーナは淡々と続ける。

「私は、一度見たものを完璧に記憶することができるわ。その記憶は消えることなく、ずっと脳に刻まれ続ける。誰かの言葉も、本の内容も。一言一句、すべて思い出せるの。」


静かな説明だったが、その内容は明らかに異質だった。エリカは思わず問いかける。

「それって……」

リリアーナは遮るようにエリカに尋ねた。

「その能力も、エリカが書いたものなの?」

エリカはすぐに首を振った。

「いえ、それは書いていません。」

はっきりと否定する。


リリアーナはその答えを聞いて、少しだけ目を細めた。

「そう。」

そして、再びゆっくりと話し始める。


「この世界を作っている人が存在するという噂は、以前から聞いたことがあったの。」

その言葉に、空気がわずかに張り詰める。

「けれどそれはあくまで噂で、誰も確かめた者はいない。そもそも、この国の中でも本当に限られた人の中でしか流れていない噂だから、知っている人も少ない。そして、知っている人もほとんどがただの伝承のようなものだと思っているわ。」

一歩、エリカに近づく。

「私も、ただの噂だと思っていたわ。でも今、あなたの話を聞いて……」

その瞳が、まっすぐエリカを射抜く。


「その噂が、ただの作り話ではないのかもしれないと思い始めている。」

静かな声だった。だが、その奥には確かな確信が芽生え始めていた。

部屋の空気が、再びゆっくりと重くなっていく。エリカは、その視線から目を逸らすことができなかった。


 エリカが書いた物語。だが、知っている設定と、知らない設定がある。リリアーナは冷静で、まだこれからエリカをどうしようという雰囲気はない。二人の間には、唐突にやってきたたくさんの疑問が浮かんでいた。

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