表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/39

第35話 疑念

 屋敷へ戻る頃には、すでに夜も更けていた。


馬車の音に気づいたのか、 玄関の扉を開けた先にはエリカが立っており、リリアーナの姿が見えるとすぐに一礼して出迎える。


「お帰りなさいませ、リリアーナ様」


柔らかな声でそう言いながらも、エリカの視線は一瞬だけリリアーナの様子を確かめるように動いた。

リリアーナはいつも通り穏やかな表情をしているようで、雰囲気はどこか重く、言葉数も少ない。一言で言うと、元気がない。

わずかな違和感だったが、エリカには十分に気づける変化だった。


「アルベルト様は?」


エリカがそう尋ねると、リリアーナは「もう少ししたらいらっしゃるかと思いますよ」とだけ言い、そのまま廊下の奥へと歩いていった。何かあったのだろうか。


自室にもどる間、リリアーナは無言だった。考え事をしているのか、疲れているのか。少しうつむいている彼女の後ろ姿からなんとなく、両方なのだろうなと察した。


「お茶会はいかがでしたか?」

エリカの問いかけに、リリアーナは少しだけ困ったように笑った。

「それが、とても大変だったのです。」

「大変、ですか?」

エリカが首を傾げる。リリアーナは頷き、何から話そうかと少し考えるようにしてから言葉を続けた。


「突然、黒い人影が現れたのです。」

その言葉を聞いた瞬間、エリカの表情がわずかに動く。

「黒い、人影?」

「はい。まるで影が人の形になったようなものです。」

リリアーナはあの瞬間を思い出すように、ゆっくりと言葉を選びながら話していく。


庭園での騒ぎ。突然現れた黒い影。悲鳴を上げた貴族たち。

そして、その影がまっすぐ向かった先。


「エミリア様のところへ行ったのです。」

エリカは黙ったまま聞いていた。

「エミリア様はとても驚いていらして、アルベルト様の後ろに隠れて」

リリアーナはそこまで言って、少しだけ言葉を止める。

「そのとき、レオン様が剣を抜いてくださいました。」


「レオン様が?」

「はい。迷いなく影に向かっていって……」

そのときの光景を思い出したのか、リリアーナの表情には少しだけ感心したような色が浮かぶ。

「とても強かったです。まるで迷いがありませんでした。」

エリカは腕を組み、静かに聞いている。


(……あいつ)

心の中で小さく呟く。

(強いのか)


以前会ったときは軽口ばかり叩く男という印象だったが、どうやらそれだけではないらしい。

リリアーナは続けた。


「その間に、私は皆様を避難させることしかできませんでしたが。」

「いえ、それは立派なことです。」

エリカはすぐに言う。

「混乱した場で人をまとめるのは簡単なことではありません。」

リリアーナは少し照れたように笑った。

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

そうして一度言葉が途切れたあと、リリアーナはふと思い出したように言った。


「そういえば。エミリア様は、ずっとアルベルト様と一緒にいらっしゃいました。」

その言葉に、エリカの眉がほんのわずかに動く。

「アルベルト様にたくさんの方々を紹介くださっていたんです。アルベルト様もとても忙しそうでしたが、きっと収穫は多かったと思います。」

リリアーナは言葉ではそういうものの、どこか寂しい表情だ。なるほど、リリアーナ様に元気がない原因は、黒い人影だけではなさそうだと、エリカはより真剣にリリアーナの言葉と表情に意識を集中させる。


「ずっと、アルベルト様の腕にしがみついていらっしゃいました。」

その言葉を聞きながら、エリカは「そうだったのですね」とだけ答える。頭では、静かに考えていた。


(すれ違い始めている気がする......)


エリカの胸の奥に、小さな違和感が生まれる。

私が書いた物語の中では、リリアーナとアルベルトのすれ違いの原因になっていたのはサラだった。

だが今の話を聞く限り、その役割に近い位置にいるのは。


(エミリア?)


もちろん、まだ何も決定的な事実が言えるわけではない。だが、私が動かない限り、物語は私が書いたとおりに動くはず。でも、エミリアやレオンの登場、またすれ違いのきっかけになる出来事の発生、黒い人影。


やっぱり、魔法使いが言っていた通り「もう一つの物語」も存在している。


そのとき、リリアーナがふとエリカの顔を見る。

「どうかしましたか?」

エリカははっと意識をリリアーナに戻し、すぐに微笑みを浮かべる。

「少し考え事をしていただけです。」

そう言いながら一礼し、リリアーナの後ろに控える。


エリカは、そこからずっと思考を巡らせていた。


もし本当にエミリアが、二人の関係を揺らす存在になるのだとしたら。

自分はどう動くべきなのか。もう一つの物語は、この世界をどうしようとしているのだろうか。


そしてもう一つ。


黒い人影のことも気になる。今までは形容できるような形のあるものではなかった。それが今回「人影」になり、さらに襲い掛かろうとした。なんの目的で?襲われたらどうなる?レオンが剣で戦ったように、黒い影は消すことができるものなのだろうか?


いくつもの疑問がわいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ