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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第27話 歪みのはじまり

 祝宴から数日が過ぎても、エリカの胸のざわめきは静まらなかった。

 サラの結婚式は、彼女が書いた物語とはまるで違う結末を迎え、終始穏やかで祝福に満ちていたというのに、どうしても拭えない違和感が、まるで胸の奥に棘のように刺さっていたのである。


 結婚式の後、休暇を与えられたその機会を逃すまいと、エリカは森の奥にひっそりと佇む魔法使いの家を訪ねた。石畳の道を踏みしめながら進むたび、あの日、燭台の火が一斉に消えた瞬間の光景が脳裏をよぎる。


 黒い影。


 あれは一体、何だったのか。


 扉を叩く前に、内側からゆっくりと戸が開いた。


「やっぱり、来る頃と思っていたわ。」


 いつも通り、深く顔を隠した魔法使いがそこに立っている。素顔は見えない。声色にも揺らぎはない。ただ、すべてを見通しているような静かな気配だけただよう。


 室内に通され、暖炉の前に腰を下ろしたエリカは、迷いを振り払うように口を開く。


「サラの結婚式、私の書いた物語とは、全然違いました。」


 魔法使いは黙って聞いている。


「本当なら、リリアーナはサラの美しさに自信をなくして、アルベルト様とも上手く話せなくて、一人で寂しく過ごすはずだったんです。そこで、ある男性に声をかけられて、得意な仕事の話で盛り上がって……それを見たアルベルト様が勘違いして、結婚式の最中に喧嘩になってしまう。そんな展開でした。」


 しかし現実は違った。


 リリアーナは堂々としていた。サラと対等に話をしていた。

 アルベルトとの空気も穏やかで、すれ違いの兆しすらなかった。


 それだけではない。


「私の物語にはいなかった人たちが、当たり前みたいにそこにいたんです。レオン様も、エミリアも……あの人たちは、本来存在しないはずでした。」


 あの瞬間、胸がざわついた理由はそれだ。


 物語が、静かに崩れている。


 そして、あの黒い影。


 言葉を選ぶように、エリカは問いかけた。


「あれは何なんですか。」


 暖炉の火がぱちりと弾ける。


 魔法使いは、しばらく何も言わなかった。沈黙が部屋を満たし、エリカは自分の鼓動がやけに大きく響くのを感じる。どんな返事がくるのだろう。


 やがて、低く静かな声が落ちた。


「あなたの行動が、物語を変えている。」


 その言葉は、刃のようにまっすぐだった。


「ただ、あなたの書いた物語と現実が変わることで、この世界に歪みが生まれている。」


「歪み?」


「均衡が崩れるということよ。本来あるはずだった未来が、別の形へと書き換わる。その反動は、どこかに現れる。」


 エリカの喉がひりついた。


「黒い影の正体は?」


「それは、私の口からは言えない。」


 きっぱりと遮られる。エリカは思わず立ち上がった。


「私が現実を変えてしまうことで、あの影はどうなるんですか?歪みって何なんです?世界はどうなるんですか?それに……私は、元の世界に戻れるんですか?」


 問い始めたら止まらなくなった。


 魔法使いは、顔を隠したままだが、静かに首を傾けるのが分かった。


「あなたはどうしたい?」


「え……?」


「この世界を、物語通りにしたい?それとも、変えたい?」


 エリカは、考える間を置くことなく答えた。


「私がひねくれた厨二マインドで書いた物語なんて、実現してほしくないです。」


 自分で「ひねくれた厨二マインド」なんて言って思わず苦笑が漏れる。だが、その瞳は真剣だった。


「リリアーナたちには、幸せになってほしい。」


 それは本心だった。

 自分が生み出した物語の中であろうと、現実で関わりをもった彼女たちを不幸にするなど、できるわけない。


 魔法使いは、わずかにうなずいた。


「それなら、その信念をもって行動し続けることが最善。」


 暖炉の炎が、ゆらりと揺れる。


「私はこの世界の物語、つまり未来を読める。けれど未来は、いつだって一人の判断と行動で変わるもの。あなたが変えることで未来は変わる。そして、いま分からないことも、時期が来たら分かる。」


 エリカは唇を噛みしめる。


「……時期が来たら?」


「大事なのは、その時あなたがどうするか。」


 その言葉は、まるで予言のようだった。沈黙のなかで、エリカは拳を握る。


 自分の選択が、世界を揺らしている。


 だとすれば、黒い影も、歪みも、逃げずに向き合うしかないということなのだろう。


「あなたには、この世界でできた仲間がいる。リリアーナやアルベルトがそう。あなたの行動が大事とは言ったけど、彼らもきっと力になってくれる。一人ではないことは、覚えておいて。」


「分かりました。ありがとう。ちょっとずつ、やってみます。」




 帰り道、森の奥で風がざわめいた。

 その揺れの奥に、ほんの一瞬だけ、黒い輪郭が溶けるように動いた気がした。


 まるで、彼女の決意を試すかのように。

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