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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第25話 祝福の光の中で

サラの結婚式当日。


会場に到着した瞬間、思わず息をのんだ。

広大な庭園を囲むように設えられた白い大理石の建物。季節の花々で彩られたアーチ。風に揺れる薄絹の装飾。

まるで物語の中の世界だった。


招かれているのは、各地の有力貴族たち。華やかなドレス、格式ある礼装、優雅な会話。


(……すごい場に来ちゃったな)


付き添いとはいえ、私はメイドだ、場違いではないかと、エリカは自然と背筋が伸びる。

隣では、リリアーナが落ち着いた様子で会場を見渡していた。

その姿は、誰よりも堂々としていて、むしろこの空間にふさわしい存在に見える。


アルベルトも、穏やかながら貴族としての威厳を保っていた。

(うん、この二人、本当にお似合いだな)


そう思ったとき。

会場の奥から、歓声が上がった。


新婦の登場だった。振り向いた瞬間、思わず見とれる。サラは、まるで光をまとっているようだった。

透き通るような白い肌。柔らかな栗色の髪をゆるくまとめ、繊細なティアラが輝いている。

ドレスは純白に銀糸の刺繍が施され、動くたびに淡く光を反射する。


かわいい、というより

(……天使?)


隣のリリアーナも、思わず小さく息をのんでいた。

「とても綺麗だわ...」

 

そして、その隣に立つ新郎。

長身で、端正な顔立ち。明るい金髪に、涼やかな青い瞳。落ち着いた微笑みには、余裕と気品がある。


彼は、隣国の上位伯爵家の嫡男。

外交にも関わる家柄で、若くして社交界でも評価の高い人物らしい。

(絵になるカップルすぎるだろ)


式は厳かに、そして華やかに進んでいった。


誓いの言葉。祝福の拍手。花びらが舞い、音楽が流れる。

幸せな空気が、会場全体を包んでいた。


そのときだった。


人の流れの向こう。


ふと、視界に入った女性。


黒髪を上品にまとめ、落ち着いた色のドレスを着ている。

派手ではないのに、不思議と目を引く佇まい。



心臓が、跳ねた。


 


似ている。


 


顔立ち。雰囲気。立ち方。


 


(お母さん……?)


 


思わず、一歩踏み出す。声をかけそうになったその瞬間。


「エリカ。」


リリアーナに呼ばれて、はっとした。振り返ると、知人を紹介される流れになっていた。

もう一度、さっきの場所を見る。


――いない。


(気のせい?)


 


でも、あまりにも似ていた。

ドッペルゲンガー、という言葉が頭をよぎる。


 


式は続き、その後は立食形式の祝宴へ。

アルベルトとリリアーナは、次々と知人に声をかけられ、挨拶や会話に応じていた。


エリカは少し離れた場所で待機する。


 


そのときまた、見えた。

さっきの女性だ。


今度は、柱の陰を通り、奥の回廊へ向かっている。


(やっぱりいる……)


気づけば足が動いていた。人混みを避け、静かな通路へ、女性の後ろ姿を追う。

もう少しで声をかけられる。


その瞬間。


 

ドン。


 

誰かにぶつかった。

「っ……!」

バランスを崩し、そのまま後ろに倒れそうになる。


けれど、ぐっと腕をつかまれた。


「危ないですよ。」


低く、落ち着いた声。顔を上げる。そこにいたのは、長身の男性だった。


黒に近い濃紺の髪。鋭さのある整った顔立ち。

少し吊り気味の目元が、どこか強気な印象を与える。


 

整っている。というより、圧がある。

貴族用の礼装を着こなし、その立ち姿には自然な威圧感があった。

彼は、まだ私の腕を支えたまま言う。


「ちゃんと前を見て歩いてくださいね。」


 


……。

(いや、それはそうなんだけど)

(言い方)


「申し訳ありません。」


一応、頭を下げる。でも内心では

(なんか上から……たしかにこでは確実に私より身分上だけど)


男性はそれ以上何も言わず、軽く会釈すると、そのまま歩き去った。

去り際の背中も、妙に様になっている。


(なんか、腹立つけど)


(顔は、いい)


はっとする。違う、それどころじゃない。


さっきの女性。

慌てて回廊の奥を見る。でも、もういなかった。

静かな通路に、人の気配はない。


(どこ行ったの)


胸の奥に、小さな違和感が残る。あれは、本当に見間違いだったのか。

でも、お母さんにそっくりだった。



その頃。

祝宴の会場の高いバルコニーから、一人の女性が下を見下ろしていた。

黒髪をまとめ、落ち着いた微笑みを浮かべている。


その視線の先にはエリカの姿。



「まだ少し、早かったかしら。」


女性は静かにそう呟くと、風に溶けるように、その場から姿を消した。

祝福の音楽が流れる中。誰も気づかないところで。

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