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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第2話 黒歴史ノートを開いたら、人生が終わりました(エリカ)

私の名前はエリカ。

日本という国で、わりと普通に生きていた。

中学高校大学と、順調に進学し現在社会人四年目。


仕事にも慣れてきて、理不尽なことに出遭ったときの対処法も、残業のやり過ごし方も徐々に身についてきた。

特別目立った成果を出しているわけでもないけれど、問題は起こさないから、怒られることもほとんどない。

――つまり、そこそこ順調。

少なくとも、人生が急展開する気配なんて、これっぽっちもなかった。まあ、毎月安定した収入があれば生きていけるし問題ない。


 つい最近、合コンで出会った彼氏と別れたけれど、それもよくある話だ。

 新入社員の頃に、大学時代の友人と誘い合った中で出会い、付き合い始めて、3年くらい続いた。しかし互いに「結婚しようか」という気にはならず、彼の転勤をきっかけにお互いの幸せを大事にしようねと別れることになった。


(まあ、次行こ次)

そう思ってマッチングアプリを始めてみた。

いいねは来る。

会えばそれなりに楽しい。いい雰囲気になったこともある。

でも、なぜかピンと来ない。2回目はいいかなってなる。

3年くらい続いた恋人のあとだと、もはや好きになるきっかけも忘れてしまっている。

「……うーん」

画面を閉じて、スマホをベッドに放り投げた。

この日は、久しぶりに何の予定もない休日だった。

アプリも一旦休憩。でもいつかは結婚したいし何もしないわけにもいかないんだよなあ。


「よし。断捨離しよ。運気上げよ。」

そう決めて、クローゼットや棚を片っ端から開けていく。

いらない服、使っていない雑貨、もう読まないであろう本など。

その奥で、見つけてしまった。

「……なにこれ」

他のものに押されて表紙が折れた、一冊のノート。

その表紙に、少し丸い字で書かれたタイトル。

『――公爵夫人の憂鬱』

思考が、停止した。

(え、待って。これ……)

中学生の頃、誰にも見せず、ひっそりと書いていた、自作の物語。

 異世界。

 公爵。

 すれ違う夫婦。

今思えば、設定も展開もツッコミどころだらけの――完全なる黒歴史。

「うわぁ……」

捨てよう。

そう思ったのになぜか、ページを開いてしまった。

「……」

思ったより、ちゃんと書いてある。

文章は稚拙だけど、登場人物の名前も、関係性も、やけに鮮明だ。当時はのめり込むように夢中で書いていたんだよなと、少し恥ずかしい気持ちと懐かしさを抱きながら読み進める。


 特に――

「リリアーナ……」

有能で、強くて、でも不器用な公爵夫人。

彼女の結婚生活は、この物語の中で、決して幸せとは言えなかった。

夫とは最後まで噛み合わず、淡々と時が過ぎていく。

(こじらせた女子中学生じゃないとこんなハッピーエンドにならない物語は書けないよな。でも、この感じ今なら分かるな……)

好きでも、努力しても、うまくいかないことはある。

ページをめくった、その瞬間だった。

視界が、ぐにゃりと歪んだ。

「え?」

足元が消える。

身体が、引きずり込まれる。

「ちょ、ちょっと待っ――!」

叫ぶ暇もなく、意識が遠のいた。


「……初めまして。エリカと申します」

 気がついたとき、私は見知らぬ部屋で、深々と頭を下げていた。

 目の前には、

 ――かつてノートの中で描いた、公爵夫人の姿。

(……あ)


目の前の情報量の多さに、叫ぶことも慌てることもできないでいた。

脳が高速回転しているかのように情報処理をしているのを感じた。

なぜかは分からない。夢かもしれない。とりあえず今、私が書いた物語の中にやってきてしまったみたい。


目の前にいるのは、私が主人公として書いた、リリアーナ。


これ、まずいやつだ。

だって私、この物語の結末を――

そして、この目の前にいる公爵夫人が、うまくいかない未来を。

知っている。

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