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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第18話 届かせ方が分からない

 執務室の窓から見える庭は、午後の光を受けて穏やかに揺れていた。

 書類に目を落としているはずなのに、視線は何度も外へ向かってしまう。

 理由は分かっている。

 リリアーナとエリカがまるで内緒話をしているかのように、楽しそうに笑い合いながら歩いている。

 それを見て、ふと先日のサラの来訪を思い出す。

 

 リリアーナとサラ。

 あの二人が並んで話している姿を見たとき、胸の奥にあった重たいものが、すっと軽くなった気がした。

 サラは昔から、人懐っこい。

 誰とでも距離を縮めるのが上手で、誤解を生みやすいところもある。

 正直に言えば心配だった。

 リリアーナが、サラと馴染めるか。おそらくタイプは全く異なる。

 けれど、杞憂だったようだ。

「ちゃんと、話していたな」

 あのときのリリアーナは、

 凛として、相手の目を見て、自分の言葉で応えていた。

 サラも相変わらずの明るさですぐに馴染んでいた。

 それが、ただただ嬉しかった。


 最近、リリアーナはよく話しかけてくれる。

 天気のこと。

 庭の花のこと。

 ほんの些細な、執務とは関係のない話題。

 最初は戸惑った。

 どう返せばいいのか分からず、つい構えてしまった。

 けれど。

「……話しかけてもらっているんだよな」

 ふと、そう気づいた。

 彼女が、俺の臆病さにきっと気づいていて。

 高嶺の花が生い茂る雑草の一つに

 手を差し伸べてくれていて。

 そう思うと、胸の奥がじんと熱くなる。

 自分も、何か返さなければならない。

 夫として。

 隣に立つ者として。

「……仲を深めたい、か」

 簡単なようで、難しい。

 リリアーナは、昔から特別な存在だった。

 子どもの頃から何でもできて、誰よりも聡明で、気高い。

 高嶺の花。

 その言葉が、これほど似合う人もいない。

 まさかそんな彼女が、自分の妻になるなんて。

 今でも、時々現実感が薄れる。

 釣り合っているのだろうか。

 隣に立つ資格が、自分にあるのだろうか。

 そんな考えが、どうしても頭をよぎる。

 冗談を言って、引かれたらどうしよう。

 軽い話題で、失望させたらどうしよう。

 考えすぎて、結局無難な言葉しか選べなくなる。

「……情けないな」

 自嘲気味に息を吐いた、そのとき。

 ふと、別の光景が脳裏をよぎった。

 リリアーナと、エリカ。

 庭で並んで歩く姿。

 楽しそうに笑い合う声。

「……あんなふうに、自然に」

 まるで、親友のようだった。

 最初は少し驚いた。

 主とメイドという関係にしては、距離が近い。

 もちろん、不快ではない。

 むしろ、リリアーナが楽しそうなのは嬉しい。

 

「……エリカ、か」

 あのメイドは、どこか不思議だ。

 礼儀はきちんとしている。仕事もそつがない。

 だが、雰囲気がどこか違う。

 言葉の選び方。視線の向け方。

 時折見せる、達観したような表情。

 まるで、立場の違いを忘れているかのような。

 それでいて、決して無礼ではない。

「……メイドらしくない、というか」

 悪い意味ではない。

 ただ、珍しい。

 そして何より

「リリアーナが、あんなに心を許している」

 それが、少しだけ気になった。

 どうして、あんなに仲良くなれたのだろう。

 何を話しているのだろう。

 もしかしたら。

 自分が知らないリリアーナの一面を、エリカは知っているのかもしれない。

 そう思うと、胸の奥に、微かな焦りが生まれる。

「いや」

 違う。

 羨ましいのではない。

 ただ

「どうすれば、彼女をもっと喜ばせられるのか」

 それを、知りたいだけだ。

 エリカなら、何か知っているかもしれない。

 リリアーナが、どんな言葉に笑うのか。

 どんな瞬間に、心を開くのか。

 そんなことを考えていると、扉をノックする音がした。

「アルベルト様、失礼いたします」

 聞き慣れた声。

「……入ってくれ」

 扉が開き、そこに立っていたのは、噂をしていた当人だった。

 エリカだ。

 相変わらず、落ち着いた表情。

 だが、どこか気さくで、堅すぎない。

「先程、サラ様の執事のルーカス様がいらっしゃいまし 

 た。こちらアルベルト様宛てのお手紙です。」

 今ならと思った。

「エリカ。君に、聞きたいことがある」

 一瞬、彼女の目が、わずかに揺れた。

 だが、すぐにいつもの顔に戻る。

「はい」

 これから先。

 何を聞き、何を知るのか。

 それが、夫としての一歩になるのかもしれない。

 そんな予感を胸に、私は口を開いた。

 まだ、このときは知らなかった。

 この小さな問いかけが、

 思っていた以上に、物語を動かすことになるなんて。

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