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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第17話  芽吹く会話、広がる世界

 庭の小道は、午後の陽光を受けてやわらかく輝いていた。

 整えられた芝生の間を縫うように続く石畳の道を、私はエリカと並んで歩いている。

 私のお気に入りの場所。


 特別な用事があるわけではない。

 ただ、こんな素敵な天気の中、暖かい空気、穏やかな風を感じながら誰かと話したくなって、

 散歩に誘っただけだ。


「ねえ、エリカ」


 歩調を合わせながら声をかけると、彼女はにこっとこちらを見た。


「なんですか? 今日はなんだかご機嫌ですね」


「分かる?」

「実は……この前のお茶会、すごくうまくいったと思って」


 そう言った瞬間、胸の奥がふわっと軽くなる。

 言葉にするだけで、あの時間がもう一度よみがえった。


「サラとも、ちゃんと話せたし、変に誤解することもなかったし……」


 あのときの自分を思い出すと、少しだけ誇らしい。

 不安でいっぱいだったのに、逃げなかった。

 しっかりサラと向き合って、自分で関係を築くことができた。

 アルベルトの幼馴染を知ることができた。


 エリカはうんうんと頷きながら聞いている。


「仕事の時だけじゃなくて、普段からいろいろな方と会話をするって、やっぱり大事なのね」


 これは、はっきりとした実感だった。


「アルベルトとも……前よりだいぶ話せるようになってきたわ。短い時間でも、前ほど

 緊張しなくなったの」


 以前は言葉を選びすぎて、結局何も言えなくなることが多かった。

 沈黙が怖くて、でも話題を振るのも怖くて。


 今は違う。


 とりとめのない一言を口に出せるようになった。それだけで、張り詰めた空気が変わる。


「それはもう、完全に進歩ですね」


 エリカが、ちょっと得意そうに言う。


「あなたのアドバイスのおかげよ。本当に、ありがとう」


 立ち止まって、素直にそう伝えると、エリカは一瞬だけ驚いた顔をしたあと、照れたように視線を逸らした。


「いいえ……私はきっかけを作っただけですから」


 風が吹いて、花の香りがふわりと漂う。


「それでも、もっと……アルベルトと一緒に笑い合えたらいいな、って思うの」


 声にすると、少し恥ずかしい。

 でも、偽りのない気持ちだった。


 エリカが、くすっと笑う。


「アルベルト様のこと、大好きなんですね」


 心臓が、きゅっと鳴った。


「……え?」


「だって、話してるときの顔、すごく柔らかいです。どんなところがお好きなんですか?」


 まさか、こんなところでそんな話題になるとは思っていなかった。

 でも、不思議と嫌じゃないというか、誰かに話してみたかったことかもしれない。


 私は少し考えてから、ゆっくり口を開いた。


「真面目で」

「責任感が強くて……」


 ありきたりな言葉かもしれない。でも、それだけじゃ足りない気がして、続ける。


「それから……努力家なところ」

「決して自慢しないけれど、ちゃんと積み重ねているの」


 思い出すたび、胸があたたかくなる。


「誠実で」

「……こんな方のようになりたいなと思うの」


 言い終えてから、はっとした。

 ここまで素直に言葉にしたのは、初めてかもしれない。


 エリカは、満足そうに頷いている。


「いいですね。すごく、リリアーナ様らしい」


「そうかしら」


「はい。ちゃんと、好きって気持ちが伝わってきます」

「それに、お二人なんだか似ているような気がします」


 そんなふうに言われると、頬が熱くなる。


 そのときだった。


「失礼いたします」


 落ち着いた声が、庭に響いた。


 振り返ると、見覚えのある人物が立っている。

 サラの執事だ。


 背筋の伸びた、品のある佇まい。年齢は四十前後だろうか。


「先日のお茶会では、大変お世話になりました」

「改めて、礼を申し上げたく」


 深く一礼され、私は慌てて首を振った。


「いえ、こちらこそ」

「楽しい時間でした」


 執事は穏やかに微笑む。


「主も、大変喜んでおりました」

「それから……名乗り遅れました。私の名はルーカスと申します」


 ルーカス。

 落ち着いた響きが、彼によく似合っている。


「実は本日は、もうひとつお伝えしたいことがありまして」


 そう言って、懐から封筒を取り出した。


「次は、サラ様の結婚式がございます」

「ぜひ、お越しいただきたいとのことでした」


「……結婚式?」


 思わず声が裏返る。


「サラが……結婚するの?」


 驚きが隠せない。

 あんなに自由で、楽しそうだった彼女が。


 ルーカスは頷いた。


「はい。長年のご縁を、大切にされた結果だと」


 なんだか、胸がじんとする。


「それはおめでたいわ」


「ええ。ありがとうございます。そして、こちらは……」


 ルーカスはもう一通、手紙を差し出した。


「リリアーナ様宛ての、個人的なものです」


 私は受け取り、そっと開いた。


『今度、一度遊びに来ない?約束通り、二人で話しましょう』


 文字を追うたび、胸が弾む。


「……」


 気づけば、口元が緩んでいた。


「ワクワクしてますね」


 エリカに指摘されて、はっとする。


「……ええ。とても」


 サラと、二人で話す。仕事でも、社交でもなく、ただの会話。


 想像するだけで、心が躍る。


 ルーカスが、静かに頭を下げた。


「では、失礼いたします。良い一日を」


 彼の姿が庭の向こうに消えるのを見送りながら、私は手紙を胸に抱いた。


「世界が、少しずつ広がっていく感じがしますね」


 エリカの言葉に、私は深く頷いた。


「ええ。」


 アルベルトとの関係。

 サラとの友情。

 そして、エリカとのこの時間。


 どれも、少し前の私には想像できなかったものだ。


 私は空を見上げ、ゆっくり息を吸った。澄んだ空気が心地よく身体を巡る。


 不思議と、不安はなかった。


 これから先、何が起きても。

 ちゃんと話して、向き合っていきたい。


 そんな気が、していた。


 今はただ、この胸いっぱいの期待を、楽しもうと思った。

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