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教材係の ニーマルヨンゴー

作者: スミスミス
掲載日:2026/04/07

 ぼくはニーマルヨンゴー。長い名前なのでニーマルとかニーと呼ばれている。

 ぼくはヒト型のゴーレムで、ぼくを造ってくれたおかーさんはこの世界で一番のゴーレムマイスターだ。


「ニーマルヨンゴー、おはよう。

 目覚めてさっそくだけどあなたに役割を与えます。

 あなたには王女様の教材係をやってもらいます。良き従者に、良き先生に、そしてなによりも良きお友達になってあげてくださいね」


 ぼくが目覚めて、最初におかーさんに言われたのはこんな言葉。

 幼くて色んなことを学ぶ必要があって、いつかこの国を治めるプリンセスのお友達として一緒にいてあげることがぼくの役割らしい。

 おかーさんが与えてくれた役割を断るなんてできないし、そんなことをする気もさらさらない。

 ただ、ちょっとだけだけど、お友達になってくれるお姫様が恐くなければいいな、優しいひとならいいなと思うのだった。


「あなたがっ、わたくしのお友達ですの? わたくし名前はネーナ・ナルバンティスと言うのよ。

 ちょっとだけ長いからあなたはわたくしの事をネーナって呼んでね!!!」


 たどたどしく礼儀作法みたいな事をやってくれていたけれど、途中から抑えきれなくなってぼくに思い切りタックルしてきてギューッと抱き締めてくれた。

 まるで突進にお花が伴って来ているかのような錯覚があって、女の子のいい香りがして、頭に満開のお花畑が思い浮かんだ。

 日差しをいっぱいに浴びて空に伸びていく満開の花のように爽やかな女の子だと思った。


「わたくしの事を教えてあげたのだから、今度はあなたの事を教えてね」


 そう言って満開の笑顔で握手を求めてくれている。

 ぼくのお友達になってくれるお姫様は明るくて、活発的で、少しだけおっちょこちょいで、お姫様に求められるようなお淑やかさは苦手かもしれないけれど、ぼくの事を好いてくれる彼女をぼくは最初から大好きになった。

 こんな素敵な役割を与えてくれたおかーさんにも感謝しなくちゃ。



1

「ねぇニーマル。このお勉強というのはやらなくちゃいけないものなの? やらなくても生きていけない? これが将来なんの役に立つの? 文字ってなんでこんなのたうち回るミミズみたいな形をしているのかしら? 煽られているようで腹がたってよ?

 あたくし、この数字というやつが憎くてたまらないのですけれど!!!」


 ぼくは彼女の先生。

 彼女がこれからの人生、王女としてみんなを導けるようにお勉強を教える。

 彼女はじっと机に向かってなにかをするのが苦手で、すぐに集中力を切らしてこっちに話しかけてくる。

 ぼくもできることなら楽しいお話をしたいのだけれど、今のぼくは彼女の先生だから……。


「ネーナ、大きくなってからお勉強で学んだことはきっとネーナの役に立つから、もうちょっとだけがんばろう?

 ほら、今回のお勉強のご褒美は遠くの国からやって来たほっぺたが落ちるくらい甘いお菓子です」


 彼女は甘いものに目がない。

 彼女のやる気を出したいならお菓子に限る、それも甘ければ甘いほどいい。


「お菓子!!! もうちょっとがんばる!!!」


 本当は今日やらなくたゃいけない勉強範囲はもうちょっと先なのだけどネーナの集中力はもうわずかしかもたない、きっとこれ以上は学びにならないだろうから、お菓子で釣ってあとちょっとだけがんばってもらおう。

 ノルマ達成まで頑張らせないぼくは先生失格だろうか?




2

 ネーナとぼく、双方が持つ木刀がカツンカツンとぶつかる音とネーナの鋭い呼吸音が響く。

 ネーナとぼくは木刀による模擬戦をしていた。

 彼女の剣さばきはなかなかのもので同年代の男性と比べても彼女に勝てるヒトはそうそういないだろう。

 彼女はこういった体を動かすことの才能があった。

 悲しむべきは彼女の将来、王女という圧制者に剣の腕はそれほど重要ではないということだ。


「いやぁ負けた負けた。ぼくも体さばきにはそれなりに自信があったのだけれど、剣の腕ではもうネーナには敵わないなぁ」


 ぼくにはおかーさんによってインプットされた何処ぞの誰かのなんとか流剣術があるのだけれどネーナにはもう通用しない。

 彼女は手加減とかが嫌いだからぼくは手を抜いていない。

 剣術において彼女はぼくを圧倒している。


「やはり体を動かすのはいいわね。汗をかくと勉学のあれやこれやのクヨクヨも吹き飛ぶわ。

 あー楽しぃ、わたくし将軍にでもなろうかしら?

 その時はニーマルも将校とし使ってあけるからわたくしの傍にいてちょうだいね? 約束よ?」


 確かに彼女には政治よりも戦場のほうがあってるかもしれない。

 それにしても傍にいなさいと言われてしまった。

 あくまでもヒトの形を模しただけのぼくを必要だと言ってくれる。

 

「うん、この命が続く限りキミの傍にいるよ」


 嘘偽りないぼくの本心だ。

 ぼくは、与えられた使命とか関係なくネーナの横にいたいと思える。



3

「ダンスってやつは実に退屈ね。なんで自分を表現するための舞踊なのに決められたステップだとか技法が必要なのかしら?

 ホント実に退屈だわ。地面とこの体と情熱だけあれば自己を表現できるのが踊りの素敵なところではなくて?」


 体を動かすのが大好きな彼女ではあったけれど、通例とか慣習だとかにギチギチに縛られたダンスが苦手だった。

 これからの人生でいくらでもある舞踏会やらにダンスは必須なのでこうして教えているのだけれど、あらかじめ決められた動きをなぞるだけの作業が彼女はどうにも退屈らしい。


「まぁまぁネーナ姫様、退屈なのは否めませんがそれも供に踊るヒト次第だと思いますよ。

 それではネーナ姫、ぼくと一曲踊ってくださいませんか?」


 彼女にモノを教えるには実戦が手っ取り早い。

 ぼく自身も彼女と踊りたいという欲を隠しながら手を差し伸べると。


「……なら仕方ないわね。しっかりとリードしてくださいませ素敵な殿方様?」


 彼女は嬉しそうに笑ってぼくの手を取ってくれた。

 以前のぼくはダンスというものを知識としてしか知っていなかったけれど、今ならもっと深くまで理解できる。

 これはきっと好きなヒトと大切な時間を共有するための儀式だ。

 ぼくを無機物から解き放つ儀式だ。

 彼女がいかに大切か再確認するための儀式だ。

 うまくはないかもしれないけれど、それでもぼく達は思い切り熱い思いをぶつけるように踊ることに没頭した。




4

「お祭りいきたーーい!!!」


 今日は建国祭。

 国をあげてのお祭りで、国全体がいい意味で騒がしい。


「もう少しすれば出れるからもうちょっとだけ待っててよ」


 彼女にはこの後、この国の式典でスピーチをする予定があって、外に出れるのはその時だけ。

 それが彼女は気に食わないらしかった。


「外に出れるって……。そんなのゴテゴテに監視されてガチガチにスケジュール管理されてなにひとつわたくしの思うとおりに出来なくて、そんなのは外出とはいいませんことよ!!!」


 明るい喧騒は王城まで届いている。

 みんなが今日という日を思い切り楽しんでいる。

 それなのに王族である彼女は警護という観点から自由に外を出歩くこのすらできない。

 ならせめて雰囲気だけでもと城下町から取り寄せた色々な国のお菓子も彼女の好奇心をいたく刺激することとなり逆効果だった。


「お外に行きたい行きたい行きたーーい!!! お祭りを楽しんでみたーーい。ねぇニーマル、お願いよ、あたくしを連れ出してくださらない?」


 もちろんダメである。

 彼女はらしくはないかもしれないけれど、間違いなくこの国のプリンセスで、いずれ国の中枢となるべき人物だ。

 そんな一国の至宝を一時の情に絆されて危険にさらすかもしれない。

 そんな愚行を犯す訳には……。


「ねぇお願いニーマル。あなただけが頼りなの」


 その上目遣いはぼくにひどく効く。瞳を潤ませないでほしい、それも対ぼくに対して効果は抜群だ。


「おねがい」


 真っ直ぐにぼくを見上げてくる。

 幼い時よりぼくの首を何度も縦に振らせてきたその瞳でぼくに訴えかけてくる。

 今まで何回それの瞳に打ち負かされてきたと思っている?

 もうとっくにそんなのは克服したさ。

 もうそれはぼくには通用しない。

 アップデートは済ましてある。


「…………」

「……………」


 それから、しばらく、彼女はぼくを見つめ続けてきて。


「スピーチが……終わった後なら少しだけ、ほんのちょこっとだけなら、抜け出すのを、手伝うよ、ハァ」


 結局、今回も彼女に絆されてしまった。

 連敗に続く連敗。勝ち目は皆無。

 その泣きそうに目を潤ませて訴えてくるのはズルいって……。

 確かにアップデートは済ましてあった。対策は出来ていた。

 でも、彼女の訴えがぼくより早く鋭く強くアップデートしてきただけのはなし。


「……!!! ありがとうニーマル!!! 大好きよ!!!」


 はぁ、とため息がでた。

 彼女のお願いを通すたびにぼくの心はすり減るけれど。

 こんな彼女の満開の花のような笑顔が拝めるのなら安いものだ。

 さて、言ってしまったからには彼女のプチ脱出劇をがんばって手伝おう。




4-2

「うわあぁ!!! すっごいわねニーマル。この国にこんなに人がいるの初めてみたわ。

 世界中の人が集結しているんじゃないかしら」


 彼女は目を輝かせて感嘆の息を漏らす。

 これだけで苦労して連れ出したかいがあるというものだ。


「あれ、さっきニーマルが持ってきてくれたお菓子じゃない? さっきも美味しかったけれど焼きたてはもっともっと美味しいに違いないわ!!!」


 好奇心が刺激されるたびに彼女は現場まで駆けていき、そして購入する。

 その細い体のどこに収まっているのかわからないほどに彼女は目に入った美味しそうな食べ物を例外なく食べていた。


「ほいひい、あれもほいひい、ぜんぶ、美味しいわ!!!」


 美味しそうなのはわかったから、食べ物を口いっぱいに頬張ったまま喋らないで欲しい。

 今までぼくががんばってきた食事作法が全否定された気分だったけれど。


「美味しいぃ!! ありがとうねニーマル」


 まぁ、いつものようにこんな笑顔を見せられたらやって良かったと絆されてしまうのだけれど。


 あれやこれや、目に入る全てを須く食べながら祭りの喧騒の中心へと進んでいく。


 「あほこ、ふごいはね。はんなひひほが、ひっはひ、ひるは」


 たぶん人口密集度のすごさを訴えているのだろうけれど、両手に収まりきらないくらいの串料理を持ち、口に入りきらない程の食料を頬張った彼女は非常に言葉足らずだ。

 今まで必死に教えてきたマナーとか全部どこかに放り投げてしまったのではないか?

 それほどの無作法だ。


「ほはひて、ひーはる、ふごひ、ひとほ!!!」


 串で行きたい方向を指し示して、器用にぼくの手を握りしめて彼女は走って行く。

 串料理のタレがにちゃってついたのがちょっとだけ気になったけれど、彼女の嬉しそうな顔でまぁ帳消しということにしておこう。

 本日最高の人口密度、祭りの中心では人々が踊っていた。

 踊り狂っていると称してもいいかもしれない。

 ぼくたちの国は客観的に見てもそれほど悪法やら圧制やらをしている国ではない。ある程度の思想や経済活動などは認めている。

 それでも無法という訳ではなくて、皆なにかしら抱えている鬱屈のひとつやふたつはあるのだろう。

 だけど今日は、今日だけは無礼講だ。法さえ遵守すれば多少のやらかしはお互いに目をつぶって踊り狂う。今日だけはと全ての国民が子供みたいに自由に体を投げ出すように本能が導き出す動作を踊りと称してもいい日だ。


「うわぁ、すごい」


 あれらの踊りは彼女曰く、地面と体と情熱さえ成立するそれに相違ない。

 繋がれた彼女の手のひらに力がこもるのがわかった。

 彼女を見ると見るからにうずうずしているのがわかった。


「ネーナ、踊らない? 礼儀作法なんてかなぐり捨てて思いつくままに、好きなようにステップを刻もう?」


 彼女の顔がぱぁっと明るくなった。

 そこから言葉もなく、それよりも雄弁な舞踊で彼女はぼくに語りかける。

 激しかったり、流れるようだったり、止まったり、ぼくに身を投げ出したり、ぼくを引き寄せてみたり。

 ホントに型なんてない。最初は本能のままにステップを刻む彼女について行くようになんとか踊っていたというのに、いつの間にか彼女の熱にあてられてなのかぼくから先導するように踊ることもあら、ステップを違えて離れたと思ったらいつの間にかくっついていたりもして……。

 再現は不可能、このダンスはこのときだけのたった一回しか成立しない今を表現するための踊り。今しか表現できない舞踊。

 いつまでも続くかと思えるような踊りだったけれどいつかは終わりがくるのはしょうがないことで。

 踊りが終わった時、彼女は汗だくで肩で息をしていて、それでもとても満足そうに、満開の花のように笑っていて。

 とても美しかった。





4-3

 「ねぇニーマル。今日はすっごく楽しかったわ、本当にありがとう!!!」


 そう言っていただけるとこちらとしても禁を破った甲斐があったというものだ。


「お祭りの食べ物も全部コンプリートしたと思うのだけれど、あれだけ動いたらお腹がすいてきたわ」


 おいおい、どうみても彼女の体積よりも多くのモノを食べたというのに彼女はもう空腹を訴えていている。

 こりゃお城に帰ってからまだ食べるな……。本当に暴食のお姫様だ。


「いたぞ!!!」


 ふと、お祭りの喧騒にふさわしくないような怒号が聞こえてきた。

 怒りに身を任せた人々が民衆をかき分けて進んでくる。そのいずれも正規騎士だ。国の治安維持の要だ。

 だからこそこんな心地良い祭りの喧騒をぶち壊す無法がまかり通っているのだろう。

 彼ら正騎士が出張るような場面は間違いなくこの国の危機と直結している。

 白磁のようなきらめく甲冑が声に出さずともこの国が現在進行形で危機に瀕していると強制的にわからせてくる。

 そしてそんな凶兆を伝える騎士達は真っ直ぐにこちらに向かってくる。

 ……まさか、事態の中心はぼくたちなのだろうか?


「王女を発見!!! ただちに保護いたします!!!」


 保護? あぁそうか合点がいった。

 本来であればネーナ姫は現在王城にいるはずである。

 それがいない、良からぬ想像などいくらでもできる。

 例えば……。


「罪状は王女誘拐だ。言い逃れ出来ると思うなよ木偶人形!!!」


 こういうことになると想定出来てもいいものだったが、ネーナに頼られてぼくものぼせていたのだろう。

 先頭を走る騎士団長が姿勢を低くしたと思ったら次の瞬間にはぼくの四肢すべてが切りつけられていた。

 目に映らないような神速、映らないのだから反応しようがない。文字通り身を引き裂かれる熱が患部に走ってようやく斬られたと理解できる。

 ぼくは痛みには鈍く造られているからこんな呑気に自己分析出来ているけれど、相手がヒトだったのならいまので抵抗の芽は完全に摘まれている。

 人体の限界を超えた極地、そんなのただのお世話型ゴーレムのぼくに抗えるはずがない。

 重力に従って後ろに倒れていく、流れていく視界の端っこでネーナが泣き叫んでぼくに手を伸ばしているけれど他の騎士に静止され身動きを取ることが出来ない。

 あぁ、キミにそんな顔をさせてしまったことがなによりも悔やまれる。


「すまない204号……」


 騎士団長がなんでかぼくに謝意を伝えてきた。フルフェイスの兜だから表情はわからないけれど、その声は絞り出すようなかすれ声でこのヒトは本気でぼくに申し訳ないと思っているとわかった。

 なんで謝られるんだろう? こっちを犯罪者扱いし、死に至るような剣さばきを披露した張本人がすることではない。わからないわからない、考えてもわからないけれど……。

 わからないけれど、それよりもなによりもとにもかくにもネーナを安心させなくてはならない。

 大丈夫だよって伝えなきゃ、安心してもらうために手を伸ばさなくちゃ。

 でも騎士団長の一撃は完璧で、ぼくは声もだせないし、手も伸ばせない。

 そのまま自分の強制スリープモードが発動したから、もう5秒後には意識が落ちるだろう。






4-4

「さて木偶人形。キサマの役割とはなんだったかな?」


 目を覚ますとぼくは鎖でグルグル巻きで縛られていた。

 反逆の意志なんてないけれど、これはちょっとぼくには解けそうにない。

 玉座に腰掛けた王様、ネーナのお父さんがぼくに詰問する。

 厳かで圧がすごくて一声一声がビリビリと響く、本当にこの人がぽやぽやしているネーナのお父さんなのだろうかと思えるほどには圧制者だった。


「だんまりか? キサマの製造者は、キサマを最高傑作と豪語していたが、それは偽りなのか?」


 王様は更に圧を強めたけれど、おかーさんを引き合いに出されてはぼくも黙ってはいられない。


「ぼくは、ネーナ姫様の教育係です」


 傍らでネーナが騒いでいる。

 ぼくたちはいつも一緒にいたのだ。ぼくはいつもその可愛い声を聞き逃さないようにずっと生きてきた。

 そんなに叫ばせてごめんネーナ。


「教育係とは、カリキュラムにない不必要なことを勝手に行うものなのか?」


 王様が問いかけてくる。

 これはぼくの落ち度をわかりやすく羅列するための誘導尋問だ。


「教育係とは、教育対象に絆されてスケジュールを勝手に弄くりまわすものなのか?」


 ぼくが本来やるべきだった教育の遅れを一つ一つ指摘していく。

 ぼくが厳しくなりきれなかった落ち度を一つ一つ言語化していく。


「キサマは教育者失格だ204号」


 あぁやっぱりそうきたか。

 ぼくがぼくを査定してもそうなる。

 ぼくはやるべきことをやらなかった。ひたすら後回しにし続けた。優先順位を履き違え続けた。


「アルマ。最高のゴーレムマイスターのアルマシアよ。

 申し開きはあるか?」


 王様が威厳たっぷりに横に控えるおかーさんに問いかける。

 おかーさんは伏したまま王様の言葉を拝聴していたから表情はわからない。


「申し開きいっさいございません。わたくしの不徳の致すところでございます。

 持ち物の失敗は持ち主の罪です。

 この罰は如何様にもつつしんでお受けいたしますわ」


 感情が読み取れない声色でおかーさんが告げる。

 いつもは優しく語りかけてくれるおかーさんとはまるで別人のようだった。


「失態だなアルマシア。国家反逆罪だ、本来であれば死罪にも値する。

 だが貴様はこの国においていなくてはならない、いわば国の恩人だ。

 今までの貢献は計り知れない。貴様の死は世界にとっても大きな損失だ」


 ネーナの叫び声が響く。

 ネーナはもうオチに感づいたようで一層叫び声が大きくなる。

 絹を切り裂くような「やめて!!!」が重厚な空気を無視してひたすらに響く。


「アルマシア、我々は貴様を罰することをするつもりはない。

 ただ204号は破棄する。コレは姫の教師として相応しくない。

 よろしいな?」


 破棄。廃棄処分。ぼくの死。

 やっぱりそうなるか。

 ぼくはあくまでもゴーレムで、この命はヒトほど重くない。

 替えの聞く、代替品などいくらでもある。


「待ってお父様!!! わたしがお願いしたの!!!

 勉強もわたしがまじめにやらないからどうにかやる気を出させようとしただけなの!!!

 今回の事だってニーマルは反対したわ!!! でもわたしが王女として命令して無理矢理やらせたの!!

 ニーマルは悪くないの!!!

 わたしが悪いの!!! わたしが……だから罰するならわたしにしておとう……国王様!!!」


 ああネーナ。必死に思ってくれていありがとう。

 でも確かに王様の言うとおりで、ぼくは役目を果たすのに相応しくなかった。


「お願いお父様、わたしからお友達を……大切なお友達を助けて……」


 ネーナは何度もこちらに駆け寄ろうとしているけれどひたすらに騎士団長に押さえつけられている。

 決してその拘束が解かれることはないだろう。


「ハァ……ネーナよ、ネーナ姫よ。

 お前はこの国の王となるべき者だ。

 上に立つべき者は間違えてはならぬ、その理由はわかるな?

 過ちはただちに国家の危機に直結するからだ。

 だがネーナよ、お前は間違えた。

 幸いだったのはお前はまだ幼く、この判断が国の危機に繋がるものではない事だ。

 いいかネーナ姫よ。今回の事はお前が引き起こした事だ。

 どちらが先導しこのような事態になったかはこの際どうでもいい。

 いいか何度でも言うぞ。お前の判断の結果が、ツケがコレだ。

 大切な友とやらを巻き込んで取り返しのつかない事態を引き起こしたのは他ならぬお前自身だ。

 これはお前の罪だ。お前の愚行のツケを大切な大切なお友達が支払わせられたのだ」


 王様に上からガツンと言い伏せられて、ネーナはうなって、それでもなんとか反論しようとして、でも反論なんて思いつかなくて。

 口をぱくぱくしながらネーナは静かに涙を流した。


「さて204号。貴様の廃棄処分をこの場で執り行う」


 王様はゆっくりと立ち上がりこちらへと歩み寄ってくる。

 なぜそんな事をするのだろう?

 王様自身にぼくを解体するような技術も実力もない。

 意味の無い行動だ。

 そして、王様は儀式に使う剣をぼくの頭にコツンと当てた。

 なんだろう? こういう儀式なのだろうか?

 そしてぼくの眼前まで歩いてきてぼく以外の誰にも聞こえないような小さな声で……。


「礼を言うぞ204号。貴様の働きで姫は自身の立場と判断の重さを自覚することとなった。

 貴様はよい教材であった」


 は?

 教材?

 そういえばかつてぼくが生まれた時、おかーさんはぼくのことを教材係と言ってた。

 教育係ではなく教材係。その時は言い間違えだと思っていたけれど。


「ではアルマシアよ。204号を廃棄してくれ。

いいか、余計な親心など出すなよ。くれぐれも元に戻らぬようバラバラにするのだぞ?」


 立ち上がった王様はもういつもの圧制者たる恐い顔をしていて、おかーさんに命令をする。


「はい。承りましたわ」


 おかーさんに反論はない。

 ぼくの死は覆らない。

 ネーナはまだぼくの為に叫んでくれているけれど、その叫びには意味がない。

 覆らない現実にただ不満をぶちまけているだけ、時間稼ぎをしているだけだ。

 そして残念だけどそんな時間稼ぎには意味がない。

 おかーさんがぼくの前にいる。

 ぼくを終わらせる為に眼前にいる。

 そしておかーさんは座り込み、ぼくに目を合わせてひたいとひたいを合わせた。

 小さな声で呪文を唱えてぼくを終わらせていく。

 なにか意味のある響きがおかーさんの口から発せられるたびにぼくの眠気がひどくなっていった。

 逆らいがたい眠気。

 目をつぶったらぼくは終わる。


「ありがとうニーマルヨンゴー。

 お役目ご苦労でした。あなたは立派に役目を果たしました。

 おやすみなさい」


 おかーさんの言葉は穏やか。

 まるでこうなることがわかっていたみたいだった。

 いやコレはわかっていた言葉遣いだ。はぼくはこのために作られて、こうなるために運用されてきたんだ。

 ぼくは、はじめから、ネーナを王族として、ふさわしいじんぶつに、育てあげるために、そのかっぱつで向こう見ずのせいかくを矯正させるためにあてがわれたということ。

 せめて、さいごにぼくがうつしているものが、ぼくのためにないてくれているネーナで、それだけはすくわれた。

 ぼくは、ネーナのおともだちとして、ネーナのこころにのこったまま逝ける。


ーーーーぶつんーーーー。

 

 


 

 



 

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