おしまい?
気づくと、ぼくは文芸部の部室に居た。
後輩の藤咲が、ぼくを見るなり大泣きした。
暗闇で時間感覚を失っていたが、現実世界では何日も経っていたそうだ。
だがそれより驚いたのは、藤咲もまた、マチコに捕えられていたのだという。
ちなみに、そのトークグループの番号は76。
ぼくより先に脱出するなんて、藤咲のくせに生意気な……
勝利条件もぼくと違ったようで興味深いが、それはいい。
問題は、他にもいなくなった部員がいるということだ。
タイミングから考えて、みなあの空間に捕らえられているのだろう。
こればかりは無事を祈るしかない。
「ところで藤咲、ぼくのところのマチコが最後に「つ」で返した言葉はなんだと思う?」
「わかりませんよそんなの」
「考えたまえよ。そんなことではまた捕まったとき困るぞ」
「恐ろしいこと言わないでくださいよ……『つくし』とかですか」
「君のところは古風なワードセンスだったみたいだから、それもあり得たかもしれない……もしかしたら、君のところのマチコはもっとも古いオリジナルだったのかも――」
「何の話でしたっけ?」
「ああ、脱線してしまったな。ぼくのところのマチコが最後に何と入力したかだ」
「……流石にわかんないですよ」
「『つぎ』さ」
「!?」
「あるいは、君があそこに捕えられたのは、ぼくのせいかもしれないね」
「ふざけ……いや、それは違うか……」
「おや、ずいぶんと物分かりがいいね」
「だって、それは先輩のせいじゃないですし、他の部員も同時にいなくなってますし……」
「ありがとう。だけどね、ぼくはそもそも違う解釈があるんじゃないかと思っている」
「違う解釈?」
「『つぎ』の『怪異』の元に導かれたんじゃないかって」
「やめろ馬鹿!!」
後輩と思えないツッコミを放つ藤咲。
だが、ぼくには確信めいたものがあった。
ぼくはきっと、次なる怪異と出遭う。
あるいはまた藤咲を巻き込んでしまうかもしれない――
「その時は諦めてくれ」
「やめて!」
藤咲の情けないその声を聞いて、ああ、戻って来たのだな、と思った。
かりそめのひと時かも、しれないが。




