マチコの人物像ルート
まだ、勝ち方を考えるには早い。
マチコとはいったいどんな人物かを考えるべきだ。
ここで重要になって来るのが、勝利条件が複数報告されていることだ。
可能性は二つ。
A・マチコはきまぐれである
B・マチコは複数いる
どちらの場合でも厄介極まりないが、Aはその仮定以上に思考すべきこともないので、Bについて考える。
マチコは、トークグループの数だけいるのか?
おそらく、それはないだろう。
他の75グループを全て確認してみたが、マチコの返答の傾向は極めて近い。
ほとんどが、簡単な単語で返している。
どれも、子どもの語彙に近い。
一方で、妙に古めかしい単語を使う時もある。
「にしめ」だとか「かまど」だとか、今の子どもがそうそう使うだろうか。
ここから想像されるのは、「昔の子ども」だ。
意地悪となじって来るのもそれなら納得できる。
そもそも、マチコという名前自体、非常に昭和的だ。
昔から存在する怪異なのだろうか。
しかし、だとするなら、スマホというツールを使うところが腑に落ちない。
怪異も進歩するのかもしれないが……だったら、使う単語もアップデートされているはずだ。
いや、待てよ?
「古風な言葉を使うマチコ」と「幼い語彙のマチコ」は実は別人なんじゃないだろうか?
その仮定のもとにトークグループを調べ直し、わかったことがある。
例えば、「る攻め」をなじったマチコは「新しいトーク(23)」だが、そのマチコは古風な言葉は使用していない。
逆に、マチコが妙に古めかしい言葉ばかり使うトークグループもある。
――マチコは複数いる。
こうなってくると、攻略法はそのマチコの性格依存ということになる。
ならまず明らかにすべきは、このマチコはどんな性格か。
試してみよう。
『枕』
『らっぱ』
『パンダ』
『だちょう』
『ウニ』
『にんにく』
……語彙が明らかに子どもだ。
外でダチョウがいるらしい気配があるが、暗闇だからか暴れまわったりはしていないようだ。
ラッパやニンニクもどこかに落ちていることだろう。
このラリーの限りでは、古めかしさを感じない。
古風なマチコの方なら、煮物だとか煮豆だとか渋いものが出て来そうなものだ。
仮に、そちらではないマチコと仮定しよう。
そうすると、攻略方法はなんだろうか。
このマチコに古風さはないが、やはり語彙は子どもに感じる。
しりとりそのものを純粋に楽しむ子どもということか……?
普通の子どもとしりとりをするなら、その終わりはどうなる……?
例えば……そうだな。
負けてあげる……とか。
普通、ちびっことしりとりをするなら、大人は勝たせようとする。
言うなれば八百長だ。
だけど、マチコの返しからは、勝負へのこだわりは感じない。
それこそ、「る攻め」をしてきてもいいはずだ。
とすれば、勝ち負けにこだわりがないわけで、負けてあげることは、むしろ逆効果かもしれない。
少なくとも、マチコが満足する程度はラリーをしてからだろう。
あるいは古風なマチコであれば、飽きるほどしりとりをしているだろうし、負けてあげるのも手かもしれないが……それは言っても仕方がない。
というわけで、しりとりを続けよう。
長期戦を考えると、まずは食料を狙って行くか。
――が、「く」から引き出せそうなのがパッと浮かばない。
お寿司とかお菓子とか、「お」で終われたら楽そうだが……。
とりあえずはこれでいこう。
『組』
『みず』
よし、水が出た。
フロントガラスが濡れていないし、ペットボトルで現れたと信じたい。
そうか。
となると、灯りが欲しい。
『ズラ』
『らくだ』
ダメか。ライトは来なかった。
車外にはラクダとダチョウが居るわけだ……
ちょっとしたサファリパークだけど、続けよう。
と、そうして、ラリーをどれくらい繰り返しただろうか。
太陽の無いこの世界で日にちの感覚などない。
ずいぶんと長い時間しりとりをしていた気がする。
だが、その甲斐あって、ランプや水筒、マッチやお菓子をはじめとして、物資が十分揃った。
集め過ぎたと言っても過言ではないほど、車の中が物資だらけだ。
これなら、何日だってもつだろう。
このままのんびり続けてもいいか――と、そう考えている自分に気付いたとき、不意に怖くなった。
駄目だ。
思考が毒されている。
このまま続けていたら、帰還なんかどうでもよくなりそうだ。
いや――実際にそうなっている。
この状況を、自分があまりにも受け入れている。
流石に不自然だ。
――まさか。
まさか、そういうことなのか?
背筋に冷たいものが走る。
暗闇の中、しりとりに依存していく精神。
長く続いたトークグループの終わり方。
複数の勝利条件。
複数のマチコ。
つまり――
「しりとりを続けていると、マチコになる、のか?」




