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第93話 繋がる兆し
研究施設内、観測室の端末が低い唸りをあげていた。
「……波形が増幅している? これは……異界との通信信号?」
ユイが目を細め、端末を操作しながら呟く。
結界内の結晶片が不規則な光を放ち、
床下にまで染み込むように魔素が拡散していく。
「この反応……柚葉だ」
高野が結晶片を見つめながら、
確信を込めて言った。
水科が端末の魔素波検出モードに切り替え、
慎重に言葉を繋ぐ。
「接続する気だな……“向こう側”の何かが。
短時間だけだが、
こちらの機材を通じて接点が生まれつつある」
そのとき、結晶片が白熱し、端末から音声が響いた。
『──高野さん、聞こえますか? 私は……大丈夫です』
それは紛れもなく、柚葉の声だった。
驚愕と安堵が同時に全員の胸を満たす。
「柚葉! 無事なのか!? 今どこに──」
だが、通信は途切れた。
瞬間、施設の照明がすべて落ちる。
電子機器が一斉に沈黙し、
魔素の気配が異様なまでに濃くなっていく。
緊張が走ったその空間で、水科が低く言った。
「……融合が始まる」
異世界と現実世界。
それぞれの境界が、今まさに崩れ始めていた。
(続く)




