表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/96

第86話 精霊の息吹、再び

──あの“手”が額に触れた瞬間、視界が反転した。


 音も色も失われ、ただ風だけが吹き抜けていく。

 懐かしい匂い。微かに花の香りが混じっている。


 神楽坂柚葉は、ゆっくりと瞼を開けた。


 そこは──かつて彼女が“巫女”として生きた世界。

 澄んだ空、浮遊する大樹の根、光の粒子が舞う緑の大地。


「……ここは……戻ってきた……?」


 声に出した自分の言葉が、心の奥に染み込んでくる。

 違う、これは“記憶”じゃない。

 本当に、あの世界だ。


 そして彼女の前に、ふわりと浮かぶ光の球が現れた。


『──ゆずは』


 それは、小さな精霊だった。

 異世界で、ずっと彼女の傍らにいた“契約精霊”の一体。

 彼女のスキル《契約霊召喚フェアリードール》によって形を与えられた存在。


「……無事で、よかった……」


 思わず涙がにじむ。自分が捨てたと思っていた力が、ここにはまだあった。


『今、この地は……“干渉”を受けています』

『あなたの帰還は、祝福であり、同時に“警告”です』


「警告……?」


『あなたは再び、“選ばれる存在”になりました』


 そう語る精霊の声は、どこか静かで、しかし確かな温度を持っていた。


 柚葉はふと、自分の胸元に手を当てた。

 高野陸──彼が異世界で“蒼銀の戦神”と呼ばれた頃の記憶。

 互いに顔を知らぬまま、別の大陸で戦っていた同士。


「……私は、また戦うことになるのね」


 風が吹く。

 精霊たちの囁きが、木々を揺らすように彼女の耳元をくすぐる。


 柚葉は目を閉じ、再び開いた。


 その瞳には、揺るがぬ覚悟が宿っていた。


「いいえ──私は、“守るために”戦う。リクさんが、必ず来てくれるって信じてるから」


 静かに、足を踏み出す。


 異世界の霧の中、神託の巫女は再びその使命に応える覚悟を固めた。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ