第81話 動き出す者たち
午後、灰色の空の下、作戦本部には張りつめた緊張感が漂っていた。
水科が管理する仮設拠点の奥、
複数の魔力観測端末が同時に警報を鳴らし始める。
「これは……第六区、旧地下鉄跡だわ!」
ユイが端末に駆け寄り、キーボードを叩きながら詳細ログを確認する。
その表情に焦りの色が混じる。
「観測された波長は完全に異界由来。それも、今までにない規模。
これは……ただの揺らぎじゃない」
「やっぱり、村田が何か動いたか……」
高野は低く呟き、拳を固く握る。
柚葉が窓際に立ち、目を閉じて静かに息を吸い込む。
「魔力が……流れ込んできてる。まるで……誰かが“開けよう”としている……」
その言葉に、室内の空気が一変した。
ただの警告ではない。
それは、明確な“呼び声”だった。
あちらから──こちら側への、招待。
千尋が腕を組み、真剣な眼差しで全員を見渡す。
「これを無視するわけにはいかない。高野くん、どうする?」
「行くしかないさ」
高野はきっぱりと頷いた。
「俺たちが直接、村田に会いに行く。今度こそ、止めるために」
その決意に、誰一人異を唱える者はいなかった。
彼らは即座に準備を開始する。
武装の確認、魔力防壁の調整、情報端末のバックアップ──
それぞれが無言で作業に没頭しながらも、同じ覚悟を胸に抱いていた。
これは単なる任務ではない。
世界と、かつて守った仲間たち。
そして何より、自分たち自身を守るための戦い。
「“扉”が本格的に動き出す前に、俺たちが動く。それが最善だ」
高野の言葉に、柚葉もユイも静かに頷く。
「準備は整ったわ」
ユイが術具の入った鞄を持ち直す。
「転移ポイントまで車を出す。警戒は最大で行くぞ」
水科の声に、全員が頷いた。
それぞれの装備と覚悟を胸に、高野たちは動き出す。
──異界と現実を結ぶ、継ぎ目の地へと。
(続く)




