第78話 報告と選択
──その夜。
高野は作戦室のブリーフィングテーブルに両肘をつき、額を押さえていた。
「……で、水科が村田と接触したって?」
千尋の問いかけに、高野はゆっくりと頷く。
「直接会っていた。何かを探るというより、もう“知っている者同士”って感じだった」
周囲にはユイ、柚葉、水科の補佐官、そして本城千尋。
全員が一様に緊張の面持ちで報告に耳を傾けている。
「高野さん……村田って、まさか本当に……」
柚葉の声が震えている。無理もない。
村田はいつも気さくで、軽口ばかり叩く職場のムードメーカーだった。
それが──
「奴の中に、魔王の“気配”があった」
ユイの声は低いが、確信に満ちていた。
「少なくとも、ただの人間じゃない。異世界由来の力……それも、圧倒的な“統合体”のような何か」
「つまり……」
千尋が目を伏せた。
「異世界で倒された魔王たちの魂が、あの男の中に……?」
水科が腕を組んだまま口を開く。
「かつて、異世界の“王”と呼ばれる存在のいくつかが、この世界と接触を試みた。
その断片──魂の欠片が、こちらに流れ込んだ可能性はある」
重い沈黙が落ちる。
「……じゃあ、その“魂”が村田に宿った?」
「あるいは、“村田”という器が、その魂たちを惹きつけた。どちらにせよ、あの男は──」
「異世界の残滓そのものだ」
高野が言い切った。
魔王の力を集めた存在。
世界の境界を壊し、再び結合させようとする意志。
その中心に、あの男がいる。
「じゃあ、どうするの?」
ユイが問いを投げる。
「対話の余地は……?」
千尋の視線が鋭くなる。
しかし水科が静かに言った。
「──もう、引き返せないだろう。彼はこのまま扉が開くのを待っている。
そして、自分の“本質”をさらけ出す時を……」
「なら、こっちはその前に動く必要がある」
高野が立ち上がる。
「村田を止める。扉が開く前に、俺たちの手で」
仲間たちの視線が集まる。
そこには迷いも恐れもなかった。
すでに、覚悟は決まっている。
(続く)




