第7話 『異世界帰還者、なぜ満員電車に弱いのか会議(in 駅前カフェ)』
柚葉と出会って数日後。
電車を降りた俺と柚葉は、駅近くのカフェに避難した。
「ふぅ……ようやく、魔力の暴走止まりました……」
「俺も……電車の中、スキルの暴発防止だけでMP80%使ったわ」
向かい合わせに座り、互いにアイスコーヒーを啜る。
この空間だけは、かろうじて“戦場”じゃない。
「にしても……なんで俺たち、満員電車にここまで弱いんだ?」
柚葉はストローをくるくる回しながら、しばらく考え──
それから、ぽつりと答えた。
「おそらく、感覚が過敏なんです。異世界でずっと“張り詰めた感覚”で生きてきたから」
「……あー」
「背後の気配。動き。視線。息遣い。全部、戦闘に繋がってましたよね?」
「確かに。ちょっとでも不審な動きがあったら──即座に反応してた」
「なのに今は、至近距離で人がぶつかってきても、反撃できない」
「できない……! できないけど、戦闘態勢は自動的に入る……!」
「そのギャップがストレスになるんです。魔力の誤作動にも繋がる」
俺は額を押さえた。
「おい待てよ、満員電車って異世界より高度な戦場じゃね?」
「そうなんです。異世界は敵が明確でしたが……ここは、誰が敵かわからない上に、戦えない」
「やっぱ魔王よりキツいわ……」
俺たちは無言でアイスコーヒーをすすった。
──数秒後。
「……ねぇ、高野さん」
「ん?」
「電車内で精神統一してたら、前のおじさんに“邪眼使い”って言われたことあります」
「うっそ。俺は魔力制御してたら、小学生に“気功砲の人だ!”って言われた」
「被害、出てますね」
「でも俺たち、被害者でもあるからな」
しばし笑い合う。
気づけば、誰かとこんなふうに“帰還者あるある”を笑ってることに、
俺は少し、救われていた。
そして、そのカフェの外。
別のビルの屋上から、ふたりの様子をモニター越しに眺める女がひとり。
「……あの子、誰?」
本城 千尋が、カップを置いた。
「“帰還者”は──彼ひとりじゃ、なかったのね」
続く