第71話 交差点の再会
校門前、薄暗くなりかけた空の下に黒い車が停まった。
助手席のドアが開き、高野陸が降り立つ。
後部座席からは葛城ユイ、
そして運転席からは水科がゆっくりと降りてきた。
柚葉は制服姿のまま校門の前に立っており、三人の姿を確認すると静かに歩み寄る。
「お待たせしました」
彼女の声は落ち着いていたが、その目には緊張と警戒の色があった。
「何かあった?」
高野が問いかけると、柚葉は少し間を置いて頷いた。
「……学校の中で、“目”が現れました。あの──異界の観測者のそれと、同じものです」
水科の表情が鋭くなる。
「完全に侵食が始まっている。施設だけでなく、個人の生活圏にまで……」
「それって、世界そのものが“融合”し始めてるってことですか?」
ユイが冷静に訊ねる。
「まだ断定はできないが、その兆候は確かにある。
共鳴、干渉、視線。いずれも“接続”に至る前段階だ」
高野は柚葉の肩に手を添え、目を合わせる。
「無理はしてないか?」
「はい……でも、あれはもう、ただの“予兆”じゃありません。明確な意思を持って、こちらを……」
「視てる、ってことか」
風が吹き抜ける。
四人は無言のまま、車に乗り込んだ。
目的地は、旧研究施設跡地近くの避難用観測拠点──通称〈第零結界圏〉。
ここは、水科が過去の事故を経て極秘裏に整備していた場所であり、
次なる接触を予測して設けられた“観測と対応”のための臨時拠点だった。
車内で水科が説明を続ける。
「これから向かう〈第零結界圏〉は、異界の波動を遮断しつつ、
特定の魔力反応を増幅して解析できるよう設計されている。
柚葉さんの見た“目”の情報も、そこなら……正確に解析できるはずだ」
「……だったら、早く行きましょう。もう、何かがこちらに届き始めている気がしてならない」
柚葉が窓の外を見ながら言った。
その視線の先、空に沈む太陽の光が、
まるで異界の裂け目のように、
水平に滲んで揺れていた──。
(続く)




