第6話:電車で出会った少女──帰還者は俺だけじゃなかった
登場人物
■名前案:神楽坂 柚葉
年齢 17歳(高校2年)
スキル 《契約霊召喚》:精霊を実体化し戦わせる
特徴 異世界での立場“神託の巫女”として召喚され、精霊を操る能力を持っていた
現代での悩み満員電車が本当に無理(朝の山手線でほぼ召喚暴走しかける)
朝7時52分、JR山手線・内回り。
人の群れが波のように押し寄せ、車内に押し込まれていく。
今日もこの戦場に、俺はひとりで挑むつもりだった。
──が、違った。
いつものように半ば押し潰されながら乗り込んだ車内。
目の前にいたのは、制服姿の女子高生。
黒髪のロングに、すっとした表情。
周囲を気にする素振りもなく、静かに目を閉じていた。
だが──その右手が、微かに震えていた。
(……おい)
俺は一瞬、ゾッとした。
あの震え方、魔力の流れと似ている。
「……ッ、く……!」
次の瞬間、彼女の髪がふわりと逆立った。
周囲の空気がピリつく。
完全に見覚えのある“気配”。
(まさか──!)
「……なあ、君……」
声をかけようとした瞬間、彼女が目を開いた。
真っ直ぐ、俺を見た。
「……あなた、もしかして──異世界帰り、ですか?」
時が止まった。
いや、比喩ではない。
本当に《時制操作》が反応しかけた。
「ちょ、おい! スキル暴発すんな、ここで!」
「そっちこそです!」
ふたりして、車内でガタガタ揺れながら睨み合う社会人と女子高生。
異様な光景だ。絶対に周囲には見せられない。
「……あなたの中、魔力の揺れがあります。異世界経験者独特の残響。見れば分かります」
「……俺も、あんたから感じた。現代じゃありえない“波”だった」
少しの沈黙を挟んで、彼女は言った。
「私は、ここでは……満員電車が最大の敵だと思っています」
「お前もか……!」
妙な共感が生まれた瞬間だった。
次の駅で電車が止まり、俺たちは自然と降りた。
ホームに並び、無言で肩を並べて歩く。
「……名前は?」
「神楽坂 柚葉。高校二年です」
「異世界では“精霊の巫女”って呼ばれてました」
「高野 陸。異世界じゃ“蒼銀の戦神”とか呼ばれてた。こっちじゃ社畜」
柚葉が吹き出した。
「こっちでも、戦士は戦士ですね」
(……なんだ、この子)
年齢も立場も違うはずなのに、
なぜか、もう随分前から知っていたような感覚になった。
「リクさん、しばらく一緒に電車、乗ってくれませんか? その……落ち着く気がして」
「……ああ。俺も、ひとりじゃ暴発する気がしてたとこだ」
──こうして、“もうひとりの帰還者”と、俺の第二の戦いが始まった。
続く