『第5話:社長令嬢、本城千尋の観察記録──“高野陸、ちょっと変じゃない?”』
登場人物
※社長の娘※
■ 本城 千尋
年齢:30歳
ポジション:企画室室長/実質経営者ポジション
性格:切れ者・裏表あり/現代社会の“異能”に気づいている?
特徴:リクの異世界帰還を疑い、裏で調査している。後に協力者or黒幕候補
会社の最上階、応接フロア。
そこにいると、同じビル内とは思えないほど静かだ。
空気が澄んでいて、雑音が一切ない。
──まるで、異世界の神殿みたいだな。と、ちょっとだけ思った。
「ふぅん、高野さん……今日も絶好調ね」
モニターの前に座り、カップの紅茶をくるくると回す女。
白のパンツスーツに身を包み、淡々と映像を眺めているのは──
本城 千尋。この会社の社長の娘にして、経営企画室・室長。
表向きは“次期経営者”として、親の七光り扱いをされているが……
社員の動向を逐一把握する“社内の諜報王”でもある。
「早送り、ここ。会議室。……出た、“秘奥義”発言」
「……ギリギリアウトかな」
部下の一人が咳払いをする。
「室長、さすがに盗聴は……」
「映像確認って言って?社内セキュリティの一環よ。社長命令」
笑顔が怖い。
「でもさあ、あの高野さん。最近ちょっと雰囲気変わったと思わない?」
部下がこくこくと頷く。
「なんていうか……こう、無駄な気配が消えたというか……」
「あと、“ちょっとだけ時間が歪んでる”感じ、しない?」
「……えっ?」
「ふふっ、冗談よ。たぶん」
千尋はまた紅茶をすする。
「まさかね。異世界帰りなんて……あるわけないじゃない」
そう言いながら、彼女の机の端には一冊の本が置かれていた。
──『召喚理論と異世界記憶障害』
──著者:国際魔術研究機構 日本支部
そのタイトルを部下が見てしまいそうになり、千尋はそっと手で隠す。
「ま、しばらく観察ね」
「彼が本当に“普通の人間”かどうか……確かめるまで」
部屋の外では、今日もどこかで誰かがクシャミをした。
高野 陸──異世界帰還者。
その存在は、すでに一部の者たちの視界に入っていた。
続く




