第51話 止まった時間が、動き出す
時間が動き出す。
結晶の閃光が消えた瞬間、誰もが息を呑んだまま、その場に凍りついていた。
数秒の沈黙──いや、もしかしたら、もっと長い時間が流れたのかもしれない。
ようやく、誰かが震える声でつぶやいた。
「……今の、ほんとに……直哉さん……だったのか……?」
それは高野自身の声だった。息を整える暇もなく、膝をついて荒く呼吸する。
ユイが駆け寄り、背中を支える。「高野さん、大丈夫ですか?」
「……ああ。なんとか……でも、まだ……頭が追いつかない」
蒼い結晶は、今は静かに脈動を止めていた。
柚葉がその前に立ち、手をかざす。「魔力反応、完全に沈静化……。でも……ここには、何か“痕跡”が残ってます」
「痕跡?」と千尋が聞き返す。
柚葉は小さく頷き、そっと目を閉じた。「……言葉じゃない。でも、残されてる。想いのような、記憶のような……」
その言葉に、誰もが再び沈黙する。
直哉の最後のメッセージ。
──“第二の扉”の存在。
そして、それを封じる力。
水科は、その場に佇んだまま、拳を握っていた。
「……第二の扉……そんなものが、本当に……?」
だがその言葉には、動揺が混じっていた。
水科自身が知らない情報。
それを直哉が、最後に託してきたのだ。
高野は、ようやく体を起こし、皆を見渡す。
「……進まないと。直哉さんの言葉が本当なら、まだ終わってない」
柚葉が頷く。「次は、“封じる側”として、動く時です」
水科はその場に立ったまま、口を開かなかった。
だがその背中には、かつて見せなかった“迷い”が宿っていた──。
(続く)




